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『プレイバック・インプレ』NSR250R×レーシングマシン級のスペック 第1回

IMPRESSION HONDA ’88 NSR250R 第1回 アグレッシヴに走り込めば走り込むほど、そのポテンシャルの奥の深さが伝わってくる……パフォーマンスのレベルはもとより、ハンドリングのキャラクターなど、徹底したモディファイを受けたNSR250Rは、すべてにわたって正しくレーシングマシンの域に達した。とりわけエンジンの絶対パワーから、スロットル操作の微妙な過度特性に至るまで、その熟成レベルの高さに、2st.を完全に掌中に収めた自信が伺える。 今回から新しいシリーズとして、今では伝説の2スト名車となっているNSR250Rのインプレをプレイバックする。懐かしい名車のインプレッションは、回顧録として今だからこそ趣き深く楽しめるだろう。シリーズは全4回となっている。

抜群のパフォーマンスの質の高さ

水を得た魚ように…サーキットを疾駆するNew NSR250Rは、正しくそうした表現が相応しい走りをみせる。 本来は一般公道を走る前提で設計されるロードスポーツを、 クローズド·サーキットで評価することに、 あまり意味を感じていない我々だが、このマシンは例外のひとつとなった。 クローズド·サーキットを、フルパフォーマンスで走ると、大抵の場合、公道上での現実的なアベレージを大巾に上まわってしまう。コーナーの曲率も大きく、幅員もワイドなクローズド·サーキットでは、コーナリングスピードが当然高くなる。路面のグリップも相当高い。 それは、マシンに高荷重対応を強いる。タイヤはもとより、 サスペンションも深く沈む。公道上では起こり得ない状況にあるわけだ。ロードスポーツにとって、本来の走りと違ってきても不思議ではない。だから我々は、絶対性能の目安としてはクローズド·サーキットも走るが、高荷重にその本領を押えこまれた状況を、直接評価しない場合が多い。

中央のレヴカウンターと右下の水温計がスポンジパネルに置かれ、速度計はそこから追い出されたコクピット

しかし、このマシンはクローズド·サーキットでのフルパフォーマンスで、そうしたネガを一切感じさせない。 後半頁をご覧になればお判りのように、本物のレーシングマシン、 NSR250とRS250Rも走らせた。さすがに全く同じとはゆかないが、 New NSR250Rは、タイヤのグリップ特性の違いや装備重量の差などを差し引けば、これらレーシングマシンと同じキャラクターの領域にある走りをみせたのである。

確かに最近のレプリカ群の性能向上、とりわけポテンシャルをレーシングマシン並みに狙う傾向の中では、結果として高荷重対応を追うことになり、クローズドサーキットでへこたれないマシンが増えてきた。特に2ストローク·250ccクラスのレプリカでは、絶対重量が軽く、エンジンのマスも小さい。 このため4ストロークマルチのように、 クローズド·サーキットのハイアベレージで増大した荷重に深々と沈むサスペンションなどの関係で、その荷重が抜けるような場面でサスが大きく伸び縮みするピッチングモーションが、その軽量でエンジンマスも小さな素姓によって起きにくい。

ところが、このNew NSR250Rは、 そうした他の2st. 250ccレプリカの次元を、さらに越えたところを感じさせるのである。コーナーへレーシングマシンのつもりで突っ込んでも、ハンドリングにサスが対応するタイミングが他のマシンのように高荷重で遅れるタイムラグが出ない。エンジンも、フルピークの連続の中に、マシンをコントロールさせる余地を感じさせる特性がきちんと加味されている。フルバンクでも、車体とエンジンがマッチングした、トラクションの自由度さえ残されているのである。

正直に言って、これには舌を巻いた。ライバルをリードした、などと生易しい表現では追いつかない、完全に突き離したとできるほど、そのパフォーマンスの高さは歴然としているからだ。

しかも、そこまでのフルパフォーマンス発揮に達しない、極く通常のアベレージでも、たとえばエンジン特性が整然としているなど、単にキャラクターのワイド化ではない、細かなところまでゆき届いたポテンシャルも伺わせるのである。

結論めいたところを先に記すことになるが、ホンダが2st.エンジンをほぼ掌中に収めたとしてよいだろう、高次元バランスを達成していることを、まず何より挙げておきたい。

それも内容の充実した、 具体性の高い設定を可能としているところが、我々にとって大きなインパクトである。エンジンのみならず、車体関係もこれにバランスするレベルにある。ハンドリングを、ここまでレーシングマシンの城に近づけることができた具体性の高さは、マシン全体として、やみくもに高荷重設定の要素を組み上げたものと、 完成(感性)度で遥かに差をつけている。

こうした、エンジンと車体の両面、もしくはトータルパフォーマンスとしてのこの種のマシンに要求具体性の高さは、されるテクノロジーに、具体的なノウハウを多く身につけていなければ、ここまでの可能性には結びつかないはずである。

この遂に2st. 250ccレプリカを、 今後我我にお得意の分野と言わせるだろう大きな躍進の背景に、GPレースシーン復帰以来の、GPマシン開発の成果があるのはいうまでもない。 本当の意味での実力とは、こうしたところに出るものだ。

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