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青木宣篤流 アドバンスドライテク【MotoGPライダーになってみた!PART 1|ウイリーコントロールの徹底使いこなし】

MotoGP2022シーズン。マレーシア公式テストでは1秒以内に18人が名を連ねた。彼らはいったい、どんな世界にいるのか。そしてどのようにマシンを操っているのか──。究極のサーキット走行を青木宣篤が詳報する。本稿ではウイリーコントロールについてをお届けする。

青木宣篤
「なってみた」どころか、言わずと知れたリアル元MotoGPライダー。現在も折に触れてスズキのMotoGPマシン、GSX-RRをテストで走らせている

すべてが極めてハイレベル極限ライディングを疑似体験

「心技体」。今のMotoGPライダーは、そのすべてが極めて高いレベルで求められる。

【体】MotoGPマシンの最低重量は157㎏。最高速はサーキットによっては360km/hを超える。私が経験した2ストGP500マシンは最低重量130kg、最高速300km/h前後だったから、はるかに重く、速くなっている。かなりの減速Gを受け止めながらの、繊細なライディングだ。大きな筋肉と小さな筋肉の両方を鍛え、脳とも密接に連携する必要がある。 

【技】電子制御の搭載に伴って、「ライダーは楽になっているのではないか」という議論がある。私の意見は、まったく逆だ。制御とは、基本的にエンジンパワーの間引きだ。これを効かせないようギリギリを狙い、パワーを最大限生かす。そして、新しいデバイスを使いこなす。走行中にやるべきこと、考えることは、かつてよりはるかに増大している。 

【心】タイヤやECUが共通化して以降、ほんのわずかな差が勝敗を分けるようになった。ライダーの心のわずかな乱れも無視できない。 

MotoGPライダーたちは、どんな世界にいるのか。量産車GSX‐R1000Rで「疑似体験」してみた。ほんの一端しかお伝えできないが、彼らの凄味を少しでも感じていただけたらと思う。

立ち上がりウイリーはイン側にハンドルを切る

「切れている」のではない意図的に「切っている」

MotoGPにおいて必須であるウイリーコントロール。前輪が浮きすぎないようにする制御だ。

前輪がまったく浮かないのも、ライダーは不自然さを感じる。かといって浮きすぎてはパワーロスになる。10cm浮くぐらいがちょうどいいのだが、その時、ライダーがハンドルをコーナーのイン側に切っていることがある。 

そのことに気づき、最初のうちは制御との兼ね合いでイン側に「切れてしまう」のかと思った。だが、どうやらライダーたちは意図的に「切っている」ようだ。 

通常、ウイリー時はハンドルをコーナーのアウト側に切ってバランスを取るものなので、イン側に切る理由はなかなか分からなかった。 

実際にやってみると、とても難しく怖い(笑)。だが、なんとなく理由は分かった。ウイリーコントロールが効くとパワーが間引かれてしまうので、マシンを起こす力が足りなくなる。ライダーはマシンをいち早く起こして加速態勢を取りたい。だから浮いている前輪をイン側に切り、起きる力を補っているのだ。制御の先を行こうとするライダーのテクニックのひとつであることは間違いない。 

すべてのコーナーで見られるアクションではない。ウイリーコントロールは条件によって効き方が異なる。あまり効いていないコーナーでは、前輪の浮き具合も大きく、通常通りアウト側にハンドルを切ってバランスを取っている。 

ウイリー時の前輪の向きで、ウイリーコントロールの効き度合いが分かる。しかも、イン側に切るのはかなり高度な技。「乗れているかどうか」の指標にもなる。MotoGPの楽しみ方がひとつ増えるだろう。

イン側に切るのはかなり怖い

量産車のウイリーコントロールは、「前輪が浮いたら落とす」というシンプルなもの。一方MotoGPマシンは、もっとも効率よく加速できる10cmのウイリーを維持しようとする。制御の精度そのものがかなり違うことを、まずご理解いただきたい。 さて、ウイリーコントロールをオフにしたGSX-R1000Rでハンドルをイン側に切ってみたが、非常に怖い。バイクが起きようとするので、アウトにはらんで行きそうな感じがするのだ。
試そうとする方はいないと思うが、決してオススメしない。万一トライするなら、くれぐれもお気を付けて。

アウト側に切るのは怖くない

ウイリーは後輪だけで曲がろうとしている状態なので、旋回力が足りない。ハンドルをアウト側に切ると逆操舵状態となり、バイクは寝ようとする。つまり、足りなかった旋回力を補うことができるのだ。
起きる力が不足していればイン側に切り、寝る力が不足していればアウト側に切る。基本的には接地している時と同じ、ということになる。

プロフェッサー辻井さんによる解説

Professor
辻井栄一郎

元ヤマハのエンジニア。大学客員教授経験もあり、ニックネームは「プロフェッサー」

接地していなくてもジャイロモーメントは効いている

私も気になっていたポイントなので、本音を言えばデータロガーのグラフを見てみたいところですね。決して叶わない願いですが(笑)。

回転による前輪のジャイロモーメントは接地している・していないに関わらず発生していますので、青木さんが感じた「浮いている前輪をイン側に切るとバイクが起きる、アウト側に切ると寝る」は、まったくその通りだと思います。

もちろん接地していなければタイヤのグリップ力が作用しないため影響力は少なくなりますが、無視できないモーメントが働いているでしょう。

ウイリーコントロールによってコーナリングスピード自体が高まると、ライダーの感覚としては次のストレートが今までより早いタイミングで迫ってくるように感じるでしょう。となると、いろいろな動作のタイミングを今までより早める必要がでてきます。

すべてのタイミングが早い。だからマシンもいち早く起こしたい。ウイリーコントロールが効いている時ほどハンドルをイン側に切りたくなる(マシンを起こしたくなる)理由には、こういう側面もあると思います。

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