名門ブランドのネイキッドが復活 MV AGUSTA BRUTALE 1000RR
MV AGUSTA BRUTALE 1000RR デザインの底力 MVアグスタのスポーツネイキッド「ブルターレ」の4気筒モデルが復活。3気筒モデルとは一線を画すエンジンスペックとデザインを堪能することができた。名門ブランドが放つ会心のモデルであり、注目を集めそうだ。
懐古趣味に頼らない 新しいネイキッドのカタチ
エンジンやフレームが剥き出しのネイキッドバイクは、カウルによる表現の幅がない分、デザインの自由度は狭くなりがちだ。そのシンプルさを逆手に取ったのが昨今のネオクラシックブームだが、歴史を巻き戻すことなく、前のめりに攻め切っているのがMVアグスタの「ブルターレ1000RR」である。
オーバル状の異形ヘッドライトや、スチールパイプとアルミプレートを組み合わせたメインフレーム、ナロウなシートカウルなど、外観の主要な部分はブルターレの伝統に倣ったものだ。 従来モデルのブルターレ1090シリーズや現行のブルターレ800シリーズにも見られるデザインであり、過去の作品との間に決定的な差異はないと言っていい。
にもかかわらず、ブルターレ1000RRのカタチはまったく新しい。たとえMVアグスタに対する知識がなくとも、これが生み出されたばかりのモデルだと分かるに違いなく、易々とは近づけない雰囲気がある。実際400万円近いプライスを掲げているわけだが、「ここはドライカーボンで、コンロッドはチタンで……」といちいち説明されなくても腑に落ちるはずだ。
ベースになったブルターレ1000セリエオロは18年のEICMAで初披露され、その時に伝統的なアワードとして知られる「最も美しいバイク」に選出されている。ブルターレ1000RRのボディラインはそれとまったく同質のものであり、見劣りする部分は皆無。優美さを猛々しさが混在し、見る立ち位置やどこにフォーカスするかによって印象が異なる。
マッシモ・タンブリーニが初代ブルターレを送り出したのが01年のことだが、その美意識を後進のデザイナーやエンジニアが正しく継承していることが分かる。それでいてネイキッドのカタチにもまだまだ新しい可能性があること。それを教えてくれる秀作だと思う。
もちろん、カタチのすべてはマシンをドレスアップするためのものではなく、ライディングの質の向上を目的にしている。 端的な例を挙げるとハンドル、燃料タンク、シートの位置関係と形状で、ストレートからハングオフのフォームへ移行しやすいように、そしてフルバンク時には車体と身体が一体になるように計算されている。
掲載した走行写真から見て取れるように、旋回中は常に腕の一部が燃料タンクの角にフィット。密着し過ぎず、離れ過ぎない絶妙なクリアランスでホールドできるようになっている他、左右分割のシートも体重移動のしやすさを狙ったものだ。
MAX208hpの快楽エンジン
従来の1078ccユニットの最高出力は156hpだったが、こちらは998ccで208hp に到達。セミドライサンプ機構や低フリクションピストンなど、SBKに参戦したF4の技術がフィードバックされている
また、ハンドルの高さも単に前傾を緩やかにするためのものではない。いたずらにかさ上げすることなく、フロントタイヤから荷重が逃げないギリギリのところで寸止め。アベレージスピードが上がった時のスポーツ性と、日常域での入力のしやすさがバランスしている。
それらをひと言で言えば機能美ということになるが、ブルターレ1000RRと密な時間を過ごせば過ごすほど、そのオーナーはいくつもの気づきを積み重ねていけるに違いない。本気で乗った時にしっかりと応えてくれるマシンだ。
208hpのエンジンに本気で乗れと言われても……と躊躇するかもしれないが、数多ある改良の中でも飛躍的に進化しているのが電子制御だ。とりわけIMUの精度とライドバイワイヤの相性は抜群にいい。バンク角に応じて出力特性が巧みに制御され、スロットル微開から中開の域なら最もパワフルなスポーツモードでも開けられるように調教されている。もちろん車体が起きた状態からの全開は獰猛な野獣そのものながら、フルバンク時にいきなりそれが炸裂するようなことはない。
ブルターレ1000RRに込められた軽やかさはストリートでも活きるが、オーナーはぜひサーキットに持ち込んでみてほしい。きっとライディングプレジャーの意味を知ることができるはずだ。