1. HOME
  2. テクニック
  3. 青木宣篤がリアブレーキを解説! MotoGPシーンにおけるちょっと特殊なブレーキング

青木宣篤がリアブレーキを解説! MotoGPシーンにおけるちょっと特殊なブレーキング

最高峰のテクニックを備えたライダーたちが最高峰の技術を投じたマシンで競い合うMotoGPシーンにおけるリアブレーキはちょっと特殊な使われ方をしている。

MotoGPでのリアブレーキby 青木宣篤

MotoGPマシンは電子制御のカタマリだ。16年に共通ECUが導入されて以降レベルが下がった感は否めないが、それでもMotoGPマシンのエンジンに最高レベルの制御が入っていることは間違いない。

今回はリアブレーキがメインテーマだが、ご存知の通りMotoGPマシンではABSの装備がレギュレーションで禁じられている。ハッキリ言って、ブレーキングの差がタイムの差。そこを電子制御しては、人が競い合う意味がなくなってしまう。

では、リアブレーキに関わるエンジン制御とは何かと言えば、それはエンジンブレーキコントロール(EBC)だ。’02年に4ストGPマシンが登場して以降、ワタシたち2スト育ちのライダーが大いに戸惑ったのは、強烈なエンジンブレーキだ。 リアのロックやホッピングはスリッパークラッチによってだいぶ収まったが、まだ強い。これをどうにか解消するために導入されたのがEBCだ。

EBCの基本動作は昔も今もさほど変わらない。リアタイヤのスキッド(タイヤがロックして滑ること)が検知されるとバタフライを強制的に開く、というものだ。 リアブレーキを使おうと思うと、これがなかなかの曲者。リアブレーキにより発生したスキッドを検知した時も、EBCはバタフライを開いてしまうのだ。

ブレーキをかけているのに期待しているように効かないと、ライダーは前進しているように感じて怖い、というわけだ。だからMotoGPでは、EBCの無駄な介入を避けるために、コーナー進入時には基本的にリアブレーキを使わない。「使えない」と言った方が正確だろう。

さて、旋回が始まりマシンがバンク角を増していくと、EBCは作動しなくなる。そうなってからがリアブレーキの出番だ。前提として、今のレースシーンでは減速・旋回・加速と各パートがキッチリと分かれていない。減速しながら旋回し、旋回しながら加速するといった具合に、各パートはオーバーラップしている。 リアブレーキは「減速しながらの旋回」に大いに使われている。

とにかく制動力を強め、制動時間を短くするために、リアブレーキの存在価値は上がっているほどだ。その証拠に、MotoGPライダーの多くが左手でリアブレーキを操作できるよう、レバーを追加している。 たいていは左手親指で操作するようになっているが、超強力ブレーキングを求めるマルク・マルケスなどは、より強く握れるようにスクーターのレバーをテストしたことも。

つまり、左ハンドルからクラッチ&リアブレーキ用の2本のレバーが突き出ていたのだ。この左手リアブレーキ、遡れば原点は(恐らく)ミック・ドゥーハンだろう。右足を負傷してリアブレーキを踏めなくなったミックのために、左手親指でリアブレーキを操作できるように改造したのが走りだ。

どうやらミックの強さにもつながっていたので、ワタシも当時マネしてみたが、新しい操作を覚えるのは非常に難しく、シーズン中だったこともありすぐに断念してしまった。ワタシが特別に不器用だったわけではなく、結局誰もマネできないまま左手リアブレーキは「お蔵入り」となっていた。

それが再注目されるきっかけとなったのが、先に書いた16年の共通ECU導入だ。電子制御がいろいろと退化してしまい、タイム差が極端に僅差になったことで、少しでも決勝中のラップタイムを安定させるためにリアブレーキがフル活用されるようになったのだ。

これが量産車にフィードバックされることは、まずないんじゃないかな……。本当に難しいんですよ……。

制御を介入させないようにコーナー進入では使わない

リアブレーキで後輪にスキッドが発生すると、エンジンブレーキコントロールがバタフライを開けてしまい、前進するように感じて怖い。これを防止するために進入時はリアブレーキを踏まない。だから「右足出しブレーキング」が可能だ。左手ブレーキも進入時には使わない
旋回中のリアブレーキは、制動力を高めるという意味で必要性が増している。立ち上がりでもリアブレーキをかけ、姿勢制御や安心感向上を果たしている

今や左手リヤブレーキレバーはMotoGPマシンの標準装備

左ハンドルバーの下部に見える小さなレバーが左手リアブレーキ。今やほとんどのライダーが採用している。足よりも細かいコントロールが可能だが、操作自体はそう簡単ではない……

リアブレーキの歴史を変えた“帝王”ミック・ドゥーハン

右足負傷により左手リアブレーキを使うことになった“最強の帝王”ドゥーハン。そのアイデアが後のMotoGPで再フィーチャーされることになるのだから、まさに怪我の功名と言える

COLUMN ガツッとかける“デジタル派”

初期のABSならワタシの人間ABSの方が優秀だったが、最近は制御のパラメーターが精密になり、敵わなくなった。特にSSのABSはそう簡単には作動せず、旋回中も最適制御。電子制御を信じるワタシは最初からガツンと踏み、あとは賢いABSに任せ。その方が高い制動力を発揮できるからだ。まぁ、オススメはしませんが。

ABSナシの初代ハヤブサでガツッとリアブレーキを踏むと、後輪がスライドアウトしてしまう。最新SSのABSなら最適に制御されるので、ワタシは全面的に信じて旋回中もガッツリ踏む派

関連記事