スポーツも楽しめる新ジャンル、アーバンアドベンチャー|方向性と歴史
流行のアドベンチャーに最近新しい潮流が生まれている。土の匂いのしない、ロードスポーツ性能重視のアドベンチャーモデルが増え出したのだ。市街地での使い勝手も考慮されたそれは、言うなれば、アーバンアドベンチャー。普段使いからワインディングまで最適な相棒になるのだ。
アーバンアドベンチャーブームに乗って増殖中!
世界中の全ての道を走る……。そんな旅性能が追求されたアドベンチャーモデル。〝全ての道〞とは、高速道路や峠道はもちろん、未舗装路も含まれる。しかし、多くのライダーは日常的に未舗装路を走ることはない。ならばロード性能を重視したアドベンチャーがあってもいいではないか! 今回ピックアップしたモデルは、そんな性格のバイクたちだ。
特徴は、他のアドベンチャーモデルが、オフロード重視の21インチホイールやブロックタイヤを装備するのに対し、アーバンアドベンチャーは17インチか、19インチでもロードタイヤを装着すること。アドベンチャーモデルならではのアップライトな高い視点や扱いやすいポジション、充実の旅装備を備えながらも、ロードスポーツ由来の高い旋回性能も楽しめるキャラクターに仕立てたというわけだ。
ただこの手法自体は最近出てきたものではない。90年代の欧州では、アルプスローダーなどと呼ばれるジャンルが存在し、人気を得ていた。
近年はロードスポーツをアドベンチャースタイルに着せ替えたモデルや、スーパースポーツ由来の高性能エンジンをこのカテゴリーに落とし込んだモデルも登場。世界的な流行を見せており、まさに群雄割拠といった様相だ。今後はロードスポーツのひとつのジャンルとして、存在感を高めていくに違いない。
意外と歴史は古いアーバンアドベンチャー
【1991年】YAMAHA TDM850
ヨーロッパの山岳地域に多い、狭い九十九折の道をスポーティ&快適に走るために生まれたアルプスローダーと呼ばれるジャンル。アップライトなポジションながら高いロード性能は、現代のアーバンアドベンチャーに通じるものがある。しかし、当時は電子制御技術はいっさい装備していなかった。
【2007年】KAWASAKI VERSYS650
アドベンチャーがブーム到来する前からカワサキは、初見のワインディングを楽しむなら、セパレートハンドルではなくアップライトなポジションこそ“頂点(ヴェルテックス)のシステムである”という意味のヴェルシスを登場させた。ベースはER-6nというロードスポーツモデル。
【2010年】DUCATI MULTISTRADA1200
現在、IMUに電サスと電子制御は当たり前のアドベンチャーだが、そこに先鞭を付けたのはムルティストラーダ。2010年のモデルチェンジでは“4BIKES IN 1”をキーワードに、ライディングモードでキャラが切り替わるようになった。後にスカイフックサスペンションも搭載された。
【2012年】HONDA NC700X
現在の爆発的アドベンチャーブームの引き金となったNC700X。ロードモデルのNC700Sとエンジン&車体を共用するNC三兄弟の1台でとにかく安かった。オフロードデザインが与えられているが、純然たるロードスポーツモデルで、そのコンセプトは現行モデルのNC750Xも変わらない。
【2017年】HONDA X-ADV
かつてのNC三兄弟、インテグラをオフテイストにリニューアルしたようなX-ADV。実際、中身はNC750X のDCTエンジンがベースであり、そこにアフリカツインのデザインテイストをプラス。バイク版SUVという雰囲気だが、プロモーション映像にはド派手なダートシーンもあった。
【2022年】HONDA NT1100
“NT”とはかつてのNT650/700V ドゥービルが冠した車名であり、そのキャラクターはスポーツツアラーで、完全なるロードモデル。…しかしNT1100のスタイリングは、確実に現在のアドベンチャーブームの影響を受けているように見える。ちなみにエンジンはアフリカツインがベース。
現在の3つの方向性
ロード要素重視系
タイガースポーツ660のように、もともとあるロードスポーツのモデルのエンジンとメインフレームをベースに、キャスターやホイールベースなどの小変更を加えてアドベンチャーに仕立てたモデル。一方で、Vストロームシリーズのように大径19インチホイールでありながらも、ロードセクションに軸足を置いたモデルもある。
SSエンジン搭載系
なんとスーパースポーツのエンジンを搭載するモデルもある。S 1000 XRは、S1000 RRのコンパクトな車体を活かすようにポジションをアップライト化。ドゥカティは、パニガーレにも搭載されるV4エンジンを、ダートも走れる19インチホイールの車体に搭載。“4 BIKES IN 1”を次のステージに押し進めた。
旅とスポーツ両立系
直4、直3などのレスポンスのいいロードスポーツモデル由来の元気なエンジンを、ワインディングをこねくりまわせる17インチホイール車体に搭載。ロードスポーツ性を高めながら、快適さという真逆要素が求められる旅性能にも拘ったモデルたち。この矛盾を解決するために電子制御サスペンションを搭載するモデルが多い。