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KAWASAKI Ninja H2 SX SE|国産車初のアダプティブ・クルーズ・コントロールの実力とは?

ボッシュ製のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)を搭載するモデルが続々登場。国産メーカーとしてACCに先鞭をつけたのはカワサキだった。スーパーチャージャー搭載のH2シリーズにボッシュ製ACCを組み込んだのだ。

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/A.YATAGAI 
取材協力/カワサキモータースジャパン

はたして本当にACCはNinja H2 SX SEに有効な装備なのか?

スーパーチャージャーを搭載するH2シリーズは、カワサキのラインナップとしてはもちろんのこと、世界的にみても唯一無二のバイクであると言っていい。 

やはりそれはスーパーチャージャーという過給装置の存在によるところが大きい。排気圧を使うターボとは違い、エンジン動力を使って過給するこのシステムは、12枚のブレードを持つインペラの回転を130,000rpmまで増速。毎秒200Lの空気をインテークチャンバー(エアクリーナーボックス)に押し込んでいる。加圧した圧縮空気で混合気を作り、排気量以上の圧倒的なパワーを引き出すというわけだ。 

市販車のH2シリーズにおいて、スーパーチャージャーが実現したのは、川崎重工という大きなバックボーンがあってこそ。カワサキではこのH2シリーズのスーパーチャージドエンジンを完全自社設計しているが、それには「川崎重工業ガスタービン・機械カンパニー」、「航空宇宙システムカンパニー」といったグループ会社との協働が不可欠だったとか。つまり、スーパーチャージャーを搭載するH2シリーズは他のメーカーが真似したくとも技術的に真似できない。だからこそ唯一無二の存在であるのだ。 

カワサキは、今から7年前の2015年にこのH2シリーズを発売。大気圧を最大2.4倍にまで加圧し、ラムエア加圧込みで210㎰を発揮するエンジンを作り上げた。 

ただ、このスーパーチャージャー、登場時に公道とサーキットでの試乗する機会を得たが、そのじゃじゃ馬ぶりにたいそう驚かされた。 

スロットルを少し大きめに開ければ、すぐさまスーパーチャージャーが発動。その加速は、2ストロークエンジンがパワーバンドに入った瞬間のように尻上がり。スーパーチャージャーの効き具合に応じて、スロットルワークと乖離しながら二次曲線的に加速するものだから、常に集中を強いられる。いかなるときも全身全霊でコントロールし続けなければならない神経質さがあった。 

ただ、このH2シリーズ自体のコンセプトが、往年のマッハシリーズのH2(750SS)の加速を現代に蘇らせることにあると知れば、それも合点がいくのだが……。

現代の乗りやすいバイクに慣れきっている筆者は、正直かなり持て余した。事実、ツーリングするのはちょっと苦労するかも……なんて記事を書いた記憶もある。 

そんなじゃじゃ馬だったH2だが、現行のNinja H2 SXシリーズでは、ツアラーに適したバランス型エンジンが搭載されるようになった。そしてさらに、このSXには、先進の快適装備であるアダプティブ・クルーズ・コントロール(以下、ACC)が搭載されたのだから驚きだ。 

ACCといえば、他車追従型のクルーズコントロールだ。言ってみればツーリングなどの高速移動区間を〝楽〞するためのシステムである。そんなものが、スーパーチャージドエンジンのラディカルな加速とどう共存するというのか? まったくもって想像できないのだ。

数々の先進制御システムを搭載するハイパフォーマンスツアラー

ACCは非常に便利な機能である。筆者は、ドゥカティ、BMW、KTMといったボッシュ製のACC搭載の二輪車試乗に加え、軽自動車であるがACC付きの四輪車を常用している。そんな立場から言わせてもらうと、慣れてしまうと高速道路を長距離移動するなら、もはやACC付きの車(四輪は特に)しか乗りたくなくなるくらい便利なのだ。 

ではまず、Ninja H2 SX SEにも搭載されるボッシュ系のACCの仕組みを説明しよう。高速道路で好みの巡航速度に達したら、A CCシステムをオンにして、車速セットボタンを押す。ここまでの操作に関しては、近年普及が進んでいる一般的なクルーズコントロールとなんら変わるところはない。 

ACCがその効果を発揮するのは前走車に追いついた時だ。ボッシュ系のシステムの場合、車体前方に取り付けられたミリ波レーダーが前走車を検知して、車間距離が詰まってくると減速を開始。一定距離を保っての追走が始まる。 

当然、前走車が減速すればさらに減速を行い、逆に加速してスピードを上げれば、設定した巡航速度まで加速しながら追従する。

前走車との車間設定に関しては、ボッシュ製の場合、前走車との〝距離〞ではなく、〝何秒後に前走車の位置を自車が通過するか?〞の秒数で管理している。なので速度によって車間は変わり、80km/hで追走する場合よりも、100km/hで追走する場合の方が車間は広がる。この車間設定に関しては、ボッシュのシステムを使うバイクの場合、走行状況に合わせて3段階から5段階で設定できるようになっている。 

Ninja H2 SX SEの場合、車間設定は3段階。一番詰まり気味になる設定にすると、80km/hでも、100km/hでも〝隣の車線を走る車がちょっと割り込みにくい〞、もしくは〝割り込ませたくないと他車に意思表示する〞くらいの距離感で追走する。中間だと〝隣の車線を走る車に割り込みを許す〞距離感。一番遠い設定にすると、前走車との距離を十二分に取るような設定だ。 車間距離の感じ方は、かなり個人差がありそうだが、筆者の感想を言うなら、一番車間が遠い設定は、ある程度道路が空いている状況で使用するモードだと感じた。というのも、やや混雑した状況で使うと、「車間詰めるか、譲るかしろよ!」と後続車が、イラつき始めるんじゃないだろうか? と心配になるくらいの離れ具合。まぁ、これは乗り手の好みで大きく差が出る部分。そういう意味で、カワサキのACCは、3段階で近目から遠目までうまく設定していると言えるだろう。 

国産メーカーの二輪車として初めてACCを搭載したNinja H2 SX SEであるが、すごいと思ったのは他の海外メーカーのACCとはレベルの違う電子制御の緻密さだ。

というのも、バイクでも車でも、ACCを使って走っていると「ちょっと違うんだよな……」と、自分で操作したくなる場面がある。例えば、前走車に追いついたような場合。ACCをオンにしていれば、もちろん自動で減速を始めるのだが、そのタイミングがメーカーによってバラバラなのだ。中には「まだ減速しないの?」と気を揉む場合もあれば、その減速具合に「今のブレーキの掛け方は俺の運転より随分と乱暴だな……」なんて思うこともある。 

ところがNinja H2 SX SEのACCの味付けはこの辺りの制御がものすごく緻密なおかげで、すこぶる快適。前走車との速度差がかなりあるような状況から減速を迫られるような場合でも、いきなりブレーキを効かせるのではなく、スロットルオフ的な制御からスタート。しかも、かなり距離を取ったところからなるべく乗り手にその介入を感じさせないように減速する。 

加速に関しても同じ。前走車が車線変更でいなくなったり、追い越しをする際には、ACCによる加速が自動的に始まるわけだが、その加速具合にも、日本車らしい繊細な心遣いが感じられる。 

ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)システムとは?

一般的にはアダプティブ・クルーズ・コントロール(以下:ACC)と呼ばれるが、ボッシュのシステムとしてはARAS(アドバンスド・ライダー・アシスタンス・システム)が正式名称。

これまでドゥカティのムルティストラーダV4S、BMWのR1250RT&R18トランスコンチネンタル、KTMの1290スーパーアドベンチャーSが、同じくボッシュ製のACCを採用。

国産モデルとしてはこのNinja H2 SX SEが初。またブラインド・スポット・ディテクション(BSD)を搭載モデルとしては、ムルティストラーダV4Sに続いて2機種目となる。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC
カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC
前方と後方、2カ所にミリ波レーダーユニットを搭載して周囲の状況を把握。ACC搭載モデルは基本的に同じ仕組みだ
カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC
ボッシュ製ミリ波レーダーユニット。ミリ波レーダーを前方にしか装備しないモデルもある

前走車との車間を確保しながら追走

一般的なクルーズコントロールシステムは設定した車速を一定に保つだけだが、ACCは前走車に追いつくと車間をキープしたまま追走を開始。車線変更などで前走車がいなくなると、再び設定速度まで加速する。ちなみに設定速度は、1速の場合30km/h以上で6速の場合は60km/h以上。他社のモデルがミリ波のレーダーをあえて露出させるデザインを採用しているのに対し、カワサキはヘッドライト下に設置したレーダーをカバーするようなデザインとし、シャープな印象にしている。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC

死角にいる車両を検知

ブラインド・スポット・ディテクション(BSD)は、後方のミリ波レーダーで後続車の接近を検知。左右後方の死角に車が入ると、ミラー内部のLEDが発光してその存在を知らせる。また、その状況でライダーがウインカーを出すとLEDが高速点滅して危険を知らせてくれる。後方ミリ波レーダーはフェンダーに内臓。後方にも搭載するのは、Ninja H2 SX SEとムルティストラーダV4S、新型タイガー1200の最上位機種のみで、タイガーはBSDのみが搭載されている。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC
カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC

ミラー内蔵LED インジケーター(オレンジの△)はバイクとしてはNinja H2 SX SEが世界初

追従距離は3段階設定

前走車を追走する距離設定は3段階に切り替えられ、走行中も「ファンクションボタン」+「下モード」ボタンで切り替えが可能。ちなみに距離は、前走車との“秒”で管理されており、同じ距離設定でも巡航速度が上がれば自ずと距離が開くようになっている。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC

先進技術がきちんと機能として結実している

ボッシュ製のACCを搭載したモデルは、モード設定も2チャンネルあるのが普通だ。ヨーロッパのとあるメーカーは、〝コンフォート〞、〝スポーツ〞と名前を付けているくらいで、スポーツを選択すると、名前の通り、かなりダイナミックな加速制御を行ってくる。 もちろん、どのACC搭載車両も、追従機能のない一般的なクルーズコントロールを搭載したモデルに比べれば遥かに快適で、運転の負担を減らしてくれるのは確かだ。ただ、Ninja H2 SX SEのACCの制御は群を抜いて快適に感じるのだ。 

ACC使用中に前述したような違和感があると、スロットルオフやブレーキ操作などでACCを解除して、自分の手で操作を行う〝オーバーライド〞を行いたくなるものだ。ACC付きモデルに色々乗ってみると、現状オーバーライドしたくなる状況が最も少ないのがNinja H2 SX SEのACCなのだ。 

同じボッシュ製のシステムを搭載しながら、ここまで違いが出るとはびっくりである。ただ他社がACCモードを、2チャンネルで設定しているのに対し、Ninja H2 SXSEのACCモードは1チャンネルのみなのも、制御への自信の現れだろう。絶対の自信があるから、「モードは1つで十分」というワケだ。 

考えてみれば、スーパーチャージャーなんていう、類い稀なる機構を搭載するNinja H2 SX SE。しかも、当機が搭載するのは緻密な制御でコントロールする〝バランス型〞のスーパーチャージドエンジンである。自ずとACCをはじめとする電子制御もより緻密なものが求められるのも納得である。 

ACCに限らず、電子制御技術は、結局のところ乗り手がどれだけ「機械を信用できるか?」だ。信用できればそれだけ運転が楽になるという、 至極簡単な図式である。 

Ninja H2 SX SEは、最新のスカイフック制御を採用したショウワ製の電子制御サスペンションも搭載しているが、こちらもやはり実に自然な乗り心地で違和感が全くない。スカイフック制御の中には、妙なフワつきというか、フロントの接地感が得にくく不安になるモデルもあるが、乗り手に違和感を抱かせるようではだめなのだ。 

試乗前はスーパーチャージドエンジンを搭載したモデルに、ACCなんて機能はいるのか? などと思ってしまったが、試乗を終えてみれば、そんな下馬評はどこへやら。今や意見は180度変わり、H2にこそ、ACCが相応しいと思うに至った。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC

インターフェースも最新

近年、スマートフォンと接続可能なバイクが増えているが、Ninja H2 SX SEにはボッシュ製の『mySPIN』を搭載。無線接続されたスマートフォンをバイクからコントロールしたり、音楽プレーヤー、通話などのアプリを使用できる。メーターに地図を表示して目的地へのルート検索が行えるほか、サードパーティ製の『ツーリングサポーター(ナビタイムジャパン)』などのアプリを使えば、ナビゲーションも可能。しかも“無線”でこの機能を実現しているのが素晴らしい。

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スマートフォンの電話、アドレス帳といった基本機能のほか、『mySPIN』に対応するサードパーティ製のアプリも使用可能。ただし個別に課金が必要なアプリもある
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ボッシュ製の『mySPIN』を、スズキのGSX-S1000GTに続いて搭載。Bluetoothインカムとスマートフォンがあれば、ツーリングに便利な機能を享受できる
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1度ペアリングしてしまえば、スマートフォン側で『mySPIN』アプリを起動して、マシンのイグニッションをオンにすれば自動的に繋がってくれるのがとても楽だ

KAWASAKI Ninja H2 SX SE

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC
●エンジン: 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4 バルブ ●総排気量: 998cc ●ボア×ストローク:76.0×55.0mm ●圧縮比11.2:1 ●最高出力:200ps/11000rpm最高出力(ラムエア加圧時) 210ps/11000rpm ●最大トルク:140kgf・m/8500rpm ●変速機6段リターン ●フレーム  ダイヤモンド(トレリス/ 高張力鋼パイプ)●キャスター/トレール :24.7°/103mm ●サスペンション:F=SHOWA 製 EERAφ43mm倒立フォーク ●R=SHOWA 製 EERAリンク式モノショック ●ブレーキ:F=φ320mmダブルディスク+ブレンボ製4ピストンラジアルマウント モノブロックキャリパー ●R=φ250mmシングルディスク+2ピストンキャリパー ●タイヤサイズ:F=120/70ZR17 ●R=190/55ZR17 ●全長×全幅×全高:2175×790×1260mm ●ホイールベース:1480mm ●シート高:820mm ●車量重量:267kg ●燃料タンク容量:19L ●価格:297万円

スーパーチャージャー

カムシャフトやウォーターポンプと同様、エンジンの動力を使ってインペラを回し、フレッシュエアを加圧(ブースト)する過給システム。コンプレッサーの内部にあるインペラは、5軸CNCマシニングで鍛造アルミブロックから削り出された12枚のブレードを持つ。Ninja H2 SX SEには、ツーリング向きに設定されたバランス型スーパーチャージドエンジンを搭載。スロットルをワイドオープンすると、インペラが独特の甲高い金属音を発しながら加圧を開始。ブーストのかかり具合もメーターに表示される。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC

電子制御サスペンション(KECS)

SHOWA製のΦ43mm倒立カートリッジタイプフロントフォークとBFRC liteに加え、電子制御にはSHOWA EERAスカイフックテクノロジーを、H2シリーズとして初採用。これは車速や加速度、ストローク量を検知して、0.001秒で減衰力を調整するセミアクティブタイプとなっている。設定は「HARD」「NORMAL」「SOFT」の3種類で、ライディングモードと連動している。またリアのプリロードに関しては「一人乗り」「一人乗り+荷物」「二人乗り+荷物」の3段階切り替えがボタンで可能。

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC

Ninja H2 SX SE 足着き

カワサキ|Ninja H2 SX SE|クルーズコントロール|クルコン|ACC
シート高は820mmで172cm・75kgの筆者の場合、踵が若干浮く。上半身はわずかに前傾するものの過度な設定ではなく、十分ツーリングに使えるレベル。スーパーチャージャーの強烈な加速を考えるとこのくらいの前傾はマストといったところだ

 Ninja H2 SX SE 公式ページはこちら

公式ページでは詳細情報がわかるほか、プラザ店検索より、モデルの展示・試乗・レンタルの予約が可能です。

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