ハスクバーナ ノーデン901試乗インプレッション
今、アドベンチャーバイクが全世界的なブームだ。その盛り上がりはついに、オフ性能の高いフロント21インチモデルまで波及。ハスクバーナからもダート性能にこだわったノーデン901が登場した。
北欧ルーツの異端アドベンチャー
北欧にルーツを持つハスクバーナは、現在KTMの傘下にある。全てのモデルがKTMの車両をベースとしており、デザインもKTMと同様にプロダクトデザインの専門会社であるキスカが行う。
そんな背景もあって、ハスクバーナはデザインにものすごく拘る。READY TO RACEをコンセプトに無駄なものを削ぎ落とすKTMに対し、ハスクバーナが採用するのは遊び心のあるモダンクラシックなデザイン。この傾向は、ロードモデルで特に顕著であり、同社初のアドベンチャーモデル・ノーデン901もご多分に洩れない。丸型のヘッドライトを採用するなど既存のアドベンチャーモデルのデザイン様式やトレンドに囚われない、個性的なスタイリングが与えられることになった。
ノーデン901のベースとなったのは、KTM890アドベンチャー。889㏄パラレルツインエンジンやクロームモリブデンのフレームも一緒。ならば、見た目が違うだけで乗り味も一緒だろう……と思ったが、走り出した瞬間、KTMの890アドベンチャーシリーズとは似て非なるキャラクターに仕上がっていることに驚いた。その個性的な見た目に反して、実にアドベンチャーモデルの王道をいく、旅向きのジェントルな乗り心地を持っていたのだ。
READY TO RACEのフィロソフィを掲げるKTMはあくまでスポーツ。言葉を選ばなければ、粗野というか、走っているうちに自然と目が吊り上がってしまうモデルがHUSQVARNAとKTMには多い。その思想は、ツーリングバイクであるはずのアドベンチャーモデルにもはっきり表れており、890アドベンチャーは、2021年モデルでクランクマスを20%増やしてかなり‟旅感”を増したはずなのだが、それでもまだスポーティに感じる所が多分にある。
だが、このノーデン901はKTMとはまったく逆で、強く旅感を出してきている。粗野な部分がしっかり消され、ゆったりとどこまでも走り続けたくなるような、アドベンチャーツアラーらしいフィーリングが与えられていたのだ。
どのあたりに旅感を感じるのか? ワインディングを流して走って、心地良いスロットルレスポンスなど、エンジン特性に関わる部分はもちろんだが、特に車体に一本筋の通った安定感のようなものを感じる。この落ち着きある車体挙動がアドベンチャーモデルらしいおっとりした“ツアラー感”を作り上げている。
比較したついでに書けば、KTMの890アドベンチャーは、サスペンションストロークが前後200㎜と少なめで、ロードセクション向きの890アドベンチャーと、オフロード性能を高めて前後240㎜のストロークを確保した890アドベンチャーRの2種類がある。一方、ノーデン901は1モデルのみで、サスペンションストロークは両者の間をとった前後220㎜となっている。その仕様はWP製APEXでインナーチューブ径はφ43㎜。ロード寄りの890アドベンチャーと同じように、890アドベンチャーRよりも5㎜細くなっている。
さらに乗り込んでいくと、どうやらこのサスペンションがツアラーらしい挙動を作り出しているように思えてきた。フワフワとしたオフロード走行重視の特性ではなく、しっかり減衰を効かせて車体挙動にロードスポーツ的な落ち着きを与えている。
だが、ここで少し頭を抱えてしまった。確かにオンロードではこのツアラー的なフィーリングは乗り心地がよく、ロードモデルよろしく腰をズラしてのコーナリングも可能。ただし、サスペンションのキャラクターがロード寄り過ぎて、ダートセクションでの走りがまったくイメージできない。タイヤは、ピレリのスコーピオンラリーSTRと、それなりにダート向きなものの、土の上ではサスペンションが動かず苦労させられそうなことが安易に予想できる。
そこで苦し紛れに、フロントフォークの減衰力を圧側、伸側とも抜いてみると、思いのほかサスペンションが動く。明らかにピッチングモーションが増えて、動きがオフロードバイクっぽくなった。
ノーデン901はサスセッティングで豹変するバイクだった。ようやく仲良くなれそうな手応えを感じたところで、空気圧を規定の2・4barから、1・8barへ落としてダートセクションへと向かった。
試乗車には、オプションのエクスプローラパックが導入されており、標準のライディングモードの「ストリート」「レイン」「オフロード」のほか、「エクスプローラモード」が選択できるようになっていた。
エクスプローラモードでは、スロットルレスポンスが最もダイレクトになり、トラクションコントロールの介入度を9段階で変更できるスリップアジャスターも使用可能になる。
このスリップアジャスターは、ナーバスなスロットルワークを必要とする場面では、数値に合わせたトラクションコントロールが介入してくれる。その一方でスロットルを急開、つまり乗り手が「リアを流したい!」という意思を示せば、9段階のどの設定でも大きなスライドができるようになっている。エクスプローラモードの名に相応しい上級者向けのモードというわけだ。
また今回は、φ48㎜の極太インナーチューブでストロークが270㎜化するオプションのWP プロコンポーネンツサスペンションや、ワイドステップ、アップフェンダーを装着したモデル(右ページ下走行写真)にも試乗。総額約75万円増という豪華仕様だが、ノーマルとは比較にならないほどの接地感があり、さらに激しいアクションが楽しめた。
エンジン | 水冷4ストローク直列2気筒 DOHC4 バルブ |
総排気量 | 889cc |
ボア×ストローク | 68.8×90.7mm |
圧縮比 | 13.5:1 |
最高出力 | 105ps/8000rpm |
最大トルク | 100Nm/6500rpm |
変速機 | 6 段リターン |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | ダイヤモンド(クロモリ) |
キャスター | 64.2° |
サスペンション | F=WP 製φ43mm倒立フォーク R=WP製リンクレスモノショック |
ブレーキ | F=φ320mmダブルディスク+4ピストンラジアルマウントキャリパー R=φ260mmシングルディスク+1ピストンフローティングキャリパー |
タイヤサイズ | F=90/90-21 R=150/70R18 |
ホイールベース | 1513±15mm |
シート高 | 854/874mm |
車両重量 | 204kg(半乾燥、燃料除く) |
タンク容量 | 19L |
価格 | 174 万5000円 |