HONDA HAWK11|賛否両論を受け入れる明るい覚悟
どうにもつかみどころがないバイクだ。しかも、そこが魅力になっているのだからタチが悪い。ホンダが今、このバイクを登場させることには、何か壮大な狙い、「裏」があるのかもしれない──。
すべては計算ずくなのかそれとも奇跡の産物か
ホーク11の報道試乗会は、明るい空気に満ちていた。こんなに気持ちのいい集まりもないな、と思った。日本有数の高原である山梨・山中湖畔で行われたことを差し引いても、爽やかとしか言いようがなかった。
あんなにもあけすけな報道試乗会に参加してしまったからには、それを記事にするこちらも、最大限オープンになるべきだ。取り繕ったり、覆い隠したり、目をつぶることは、間違えている。
礼を尽くす意味でも、6月8日に自分が感じたこと、考えたことを、このわずかな紙幅の中で、できるだけ正直に書き記そうと思う。
配慮はする。物事には書くべきこと、書くべきではないこと、そして書くべきタイミングがある。
だが一方で、あの報道試乗会の空気に触れた者の責任として、できるだけ正直でありたいと思う。ホンダの技術者たちが賛否両論を恐れることなくホーク11をリリースしたように、僕も恐れずに筆を進めたい。
試乗会場に向かう道中の気が重いのは、暗い曇り空や、たまに落ちてくる雨粒のせいではなかった。
これから対峙するホーク11というバイクをどう表現できるのか、このバイクを軸にして何を伝えられるのか、事前情報では見えてくるものが何もなく、不安だったからだ。
もっと率直に言えば、ホーク11についてポジティブな要素を見つけることができずにいた。
基本的には、どんなバイクにおいてもいいポイントを見つけ、それを中心に据えながら表現したいと思う。メーカーに忖度するつもりはないし、メーカーから「ああ書け、こう書け」と言われることもないが、言葉を生業にする者として、ネガティブな言葉をまき散らすのが性に合わない。
そこへきてホーク11は、この4月15日に情報が解禁されるや、賛否両論が吹き荒れていた。いや、ここも率直に言おう。強烈な勢いで「否」の嵐が舞ったのだ。そして僕自身も、写真で見るホーク11からは疑問しか湧き上がらなかった。
予定されていた時刻よりやや早く、製品プレゼンテーションが始まった。登壇した吉田昌弘さんは、「もともとLPL(開発責任者)だった人間が、定年で先月辞めてしまいまして。私は代行という形でこの場に立たせていただいていますが、器じゃないんですよ。昨日も(前日も同じ会が開催されていた)『アフリカツイン』と言うべきところを、『アフリカンツイン』と言い間違えまして」と、笑いを誘った。そしてあろうことか、説明を進める中で本当に「アフリカンツイン」とやって、あわてて言い直した。
興味深いことに、吉田さん自身の口からホーク11について「社内的にも賛否両論ありまして……」という言葉が飛び出した。
「ただし、もともとLPLだった人間が、昔ながらの『LPLは神だ』というタイプだったんです。完全にトップダウンの指示命令系統で、部下たちに自我を与えず、余計な迷いを持たせず、突っ走らせる。すべての読みはLPLにしか分からない、というやり方で、ホーク11の開発は進められました」
簡単に言えば、社内的な「否」を押し流す勢いで開発が推し進められた、ということになる。そして吉田さん自身は必ずしも「LPLは神」というやり方を全面的によしとはしていない「いまどきの民主的な開発者」であることが、言葉の端々から窺えた。「LPLは神」と言いつつ、それすらを「否」と感じているらしき気配があった。
さらに吉田さんは、ひときわ面白いことを言ってのけた。「ホーク11の象徴でもあるロケットカウルですが、これはデザイナーの閃きです。合理的な説明はできない」
思わず椅子からずり落ちそうになった。工業デザインは、それがどんなに感覚的な由来で作られたものであっても、合理的な説明ができるはずだと思っていたからだ。
もう少し突っ込んで言えば、「合理的な説明ができなければ、ものづくりに説得力が持たせられず、ゴーサインも出ない」と思っていた。そこを吉田さんはさらりと「合理的な説明はできない」と言った。「ベテランライダーを満足させることを目標に、レトロなだけではなく、モダンなテイストも採り入れて演出した」といった説明もあったが、正直、よく分からなかった。
ベテランライダーを満足させる狙いのカフェレーサーに、モダンなテイストとは……? なんだか、あちこち綻びだらけだな……。
僕はいつしか楽しくなっていた。
製品プレゼンテーションが30分ほどで終わると、試乗となった。ここで僕はさらに楽しくなった。ホーク11が、よく分からなかったからだ。
2気筒のカフェレーサーにカテゴライズされるバイクの割にハンドル幅が広く、まるでオフロード車かモトGPマシンのようだった。
ハンドリングはどっしりとした安定志向で、前に乗ろうが後ろに乗ろうが何も起こらない。カフェレーサーという言葉から想起するスリリングさや緊張感とはかけ離れており、ひたすら安心感だけがあった。極めて長いホイールベースが、ハンドリングを強く支配していた。
トルク型のエンジンには、すぐに馴染むことができた。低回転域から8000rpmまで淀みなく回り、特性はフラットで、ハンドリングと同様に刺激的ではなかった。
FRP製のロケットカウルは確かに見応えがあった。特にまたがった時にメーターの向こうに見えるカウルの裏側は、FRPならではのガラス繊維の質感が残されており、カスタム感、レーシング感が漂う。
ただし、テールカウルもFRPだと聞いて驚かされた。タンデムシートを外してテールカウル裏側を見ると、ロケットカウル同様にガラス繊維が覗けるが、表面にはマットな塗装が施されており、言われなければ分からなかった。
……なんだろう、このバイクは?
僕の疑念はしかし、乗る前に比べてずいぶんとポジティブなものになっていた。未知のものを前に恐怖を感じることもあれば、好奇心がくすぐられることもある。ホーク11に関しては、間違いなく後者だった。
試乗後、技術者の方たちから話を聞くことができた。率直すぎるほどの製品プレゼンテーションで楽しませてくれた吉田さんに甘える形で、僕も率直に質問を投げかけた。
要約すると、それは「あちこちからちぐはぐ感が漂うのはなぜか」という疑問だった。尋ね方には最大限の気遣いをしたつもりだったが、「これは失礼かな」と我ながらヒヤリとするような問いもあった。
だが吉田さんを始めとした開発者の方々は、笑顔を絶やすことなく、そして賛否の「否」の部分をいくらこちらがつつき回してもまったく動じることなく、ひたすら明るかった。「はい、賛も否も、すべてが織り込み済みです」という余裕があった。
ここでそのひとつひとつを説くことはしない。というのは、何を聞いてものらりくらりと交わされたようで、納得できていないからだ。文章化するなら、もっと詳しく、深く聞かなければならないうえでなければ、あちこち綻びだらけで、つまりはホーク11のようになってしまう。
バイクにおいて、わけの分からない綻びやちぐはぐさは、かわいげのある魅力になり得る。僕自身、ホーク11に惹かれつつある。でも、「よく分からない文章」は許されない。書くなら、追加でじっくりと取材したいと心から考えている。
6月8日のホーク11報道試乗会の限られた時間で明確に分かったのは、「よく分からない」ということだけだった。そして、よく分からなくても悪い気にはならないことも。
すべてはホンダの策略ではないか、と思い至った。そういえば吉田さんは、製品プレゼンテーションで「裏ホンダ」とも言っていた。今までの「表ホンダ」とは違う思い切った開発手法でホーク11は造られた、という趣旨だ。だが、表立って発表している限り、本当に「裏」であろうはずもない。きちんと社内で稟議が通され、承認された企画なのだ。
実際、報道試乗会から数日が経つと、二輪ウェブメディアはこぞって「裏ホンダ」という言葉を使い、新しいホンダ、今までとは違うホンダのイメージ醸成を、結果的に後押ししていた。
ホンダはすべて計算ずくだ。ちぐはぐで綻びだらけに見えるホーク11の作りは、それ自体が狙いだ。最終的に多くの人が魅力を感じるように、巧妙に仕込まれている。「アフリカンツイン」と笑いを誘った吉田さんの言い間違えも、あるいは……。
HONDA HAWK11
- エンジン:水冷4ストローク直列2気筒OHC 4バルブ
- 総排気量:1082cc
- 最高出力:102ps/7500rpm
- 最大トルク:10.6kgf・m/6250rpm
- シート高:820mm
- 車両重量:214kg
- 燃料タンク容量:14L
- 価格:139万7000円