KAWASAKI Z900 中野真矢インプレッション【鋭さと、扱いやすさの両立】
ネイキッドスポーツZ900。兄弟車Z900RSのインパクトが強烈なためか、いささか存在感が薄くはあるが、その走りは見逃せない。キャラクターの立った乗り味は、一度味わって欲しいもの。Z900は初ライド、本誌メインテスター中野真矢さんによるインプレッションをお届けする。
野獣を思わせるスタイリングワイルドな乗り味コンセプトは”Sugomi”
カワサキ・ネイキッドラインの主軸を担う1台であるZ900。エッジの効いた先鋭的なデザインが与えられたスポーツネイキッドで、スチール製ながら軽量なトレリスフレームに、排気量948㏄の強心臓を抱え込み、メーカーメイドのストリートフィターとして人気を得ている。
現行モデルでは電子制御も搭載し、パッケージとしての完成度が高められている。また、基本コンポーネンツを共有する兄弟車にZ900RSがあるが、ベースとなったのはZ900。中野真矢さんのインプレッションでは、両車の乗り味の違いにも言及しているので注目だ。
「ポジションがもの凄くコンパクトなところが、まず好印象ですね。足つき性も良い。自分も大柄ではありませんから、日常使用を考えればこういった点は気にはなります」
とは、中野さんがマシンに跨ってのファーストインプレッション。
「ですが、ただ快適性を求めただけのポジション設定ではない。ステップ位置は意外なほど高いんです。シートは前下がりの形状なので、意識して着座位置を変えない限り、自然とシートの前方に座る形になる。ハンドルは幅が広く、フロントタイヤを抱え込むような正統派のストリートファイターのポジションといったところでしょうか。
自分の身長は168cmですが、攻めた走りをするにはピッタリの姿勢がとれます。これは想像ですけれど、180cm近い大柄な人だと窮屈に感じるかもしれません。それくらい乗車した感じはコンパクトです」
では、実際に走らせての感触はどういったものだろうか。
「加速感はかなり強烈です。中回転域のトルクが太くて、力強さを感じます。ですが、無闇に凶暴なパワー感ではなく、しっかりと調教されている。加速中に排気音がよく聴こえるんですよ。迫力があって、気分が盛り上がりますね。9000rpmから上のピーク領域は、身構えるほどの加速をしますし、排気音も猛々しさを増します。これは楽しい」
Z900の2つのパワーモードと、トラクションコントロールを統合的にコントロールするインテグレーテッドライディングモードを装備する。
「最初は最もスポーティなSPORTで走ってみて、次にややマイルドなROADモードを試しました。自分はROADの方が好みですね。スロットル操作に対するパワーの出方が、やや緩やかになりトラクションコントロールの介入も早いので、安心して開けられます。
スロットルレスポンスは、敏感な反応をみせます。パワーの立ち上がりも早く、アグレッシブさが際立ちます。これは、あえてワイルドさを出した乗り味の演出ですね。スーパースポーツのニンジャZX-R系のマシンは、パワーはより強大ですが、もっと優しくレスポンスします」
ただ出力を絞り出すのではなく、マシンのキャラクターに合わせて、パワー感を演出する。カワサキの制御技術はその域に達している。
「街中やワインディングでは、全開域まで回すことは少ないですよね? 使うのは中回転域であるはずです。このバイクは、その領域が楽しく、速く、作り込まれています。ストリートファイターですからね。今回はサーキットでの試乗ですが、ワイディングを想定してエンジンを煮詰めたのではないでしょうか?」
車体に関してはどうか?
「ハンドリングはかなりクイック。マシンがライダーより先に曲がりたがる感覚です。オーバーステアというわけではありませんが、バイクが曲がり始めた後にライダーがボディアクションを加えると、オーバーステア気味な挙動をみせることがある。乗り手が余計なことをせずとも、バイクなりに曲げていくほうが自然にコーナリングできます。
ワイルドな乗り味に夢中になって操作がラフになると挙動を乱すことがあります。元々の性格としてスロットルレスポンスが俊敏で、サスペンションの設定も柔らかめですから。雑に扱うとピッチングが大きく出て、車体をギクシャクさせてしまう。
これは〝味〞の部分かもしれません。上級者なら、姿勢変化の大きさを逆手にとり、マシンを曲げるきっかけに利用できます。ある意味で、Z900の正しい乗り方です。
いかにもヨーロッパのライダーが好みそうなハンドリングですね。彼らは、エンジンもハンドリングも、過激なバイクが大好きなんですよ」
ここで、世界を知る中野さんならではのコメントが飛び出した。
「カワサキでMotoGPを走っていた頃、イタリアのカワサキデイにゲストで呼んでもらったことがあるんです。大々的なユーザーイベントで、参加者数の多さと熱気に圧倒されました。カワサキファンって、世界中どこでも熱狂的なんだなと感じたことを覚えています。
そのイベントに参加したライダーは、Zオーナーがもの凄く多かったんです。当時の話ですから、Z900はまだデビューしていないのでZ1000だったはずですが、とにかく凄い台数がいました。Zがヨーロッパで強く支持されていたことは間違いありません。本当に凄い人気でしたから」
また、気になるZ900RSとの違いについても訊いてみた。
「正直なところ、驚かされましたね。ベースは共通なのに、キャラクターは真逆といっていいほど違う。Z900RSはしっとりと落ち着いた乗り味ですから。Z900の方が最高出力が15psほど高いので明確に速いのですが、一番違いを感じるのは運動性です。Z900は乗り手がフロントに乗るバイクで、Z900RSはリアに乗る。それが〝過激〞と〝ゆったり〞という対照的なハンドリングを生み出しています。Z900を廉価版と考えるのは間違っています。異なったキャラクターを持つ、全く違うバイクとしてそれぞれが成立しています」
KAWASAKI Z900RS インプレッション
「走りが楽しいバイク」の典型だ。
車両を見渡すと、とにかくカッコいい。重厚な中にもモダンテイストが採り入れられており、決して古めかしい印象はない。またがってクラッチをつなぎ、スタートした瞬間に、バランスのよさが伝わってきた。この感覚をお伝えするのは非常に難しいが、直進安定性、前後荷重、ポジションなどを総合的に感じているのだと思う。少しでも違和感があるといきなり気になってしまうが、何も考えずに発進できたのはZ900RSの素性のよさを示している。
いざコースインしてからも、ストレスというものを感じなかった。エンジンフィーリング、ハンドリング、ポジションのすべてが自然で、クセがなく、バランスが取れている。上半身の力が抜けていくのが分かる。これは間違いなくいいバイクだ。
大柄さとは裏腹に、走るととてもコンパクトに感じるのだ。これは「走りが楽しいバイク」の典型。扱いやすい特性と、重心の集中などがそう思わせてくれる。
元MotoGPライダー中野真矢インプレッション|KAWASAKI Z900RS/CAFE
ストリートファイターは、ユーザー発祥のカスタムムーブメントをメーカーが取り入れ、新しいバイクの一形態として定着させたもの。その先駆者であるカワサキだからこその完成度。見た目に違わぬアグレッシブな乗り味は、ストリートファイターとしてのひとつの究極形だ。
基本コンポーネンツを共有するZ900RSのベースとなったのはZ900。中野真矢さんのおすすめポイントは……
・見た目に違わぬアグレッシブな乗り味。
・身構えるほどの加速と猛々しい排気音。
ストリートファイターらしい乗り味。上級者ならそれも楽しめる要素です。
125psを発揮する直4エンジンを搭載し、完成されたストリートファイターが110万円台で購入できる。 Z900の詳細は、カワサキ製品ページをチェックしよう!
KAWASAKI Z900
- エンジン:水冷4ストローク直列4気筒 DOHC4バルブ
- 排気量:948cc
- 最高出力:125ps/9500rpm
- 最大トルク:10.0kgf・m/7700rpm
- シート高:800mm
- 車両重量:213kg
- 価格:116万6000円