オイルの性能はどう見分ける?【もう一度、オイルについて考えてみる:Think with A.S.H.】
良いエンジンオイルは、油温が上がりにくく油圧を保つ。その性能のカギとなるのが粘度であり、粘度を維持を担うのがベースオイルだ。今回は、ベースオイルについての知識を深めていこう。
PHOTO/Y.ARAKI, K.ASAKURA TEXT/K.ASAKURA 取材協力/ジェイシーディプロダクツ http://www.jcd-products.com/
エンジンオイルの性能はトータルコーディネート
前回、エンジンオイルの役割と、エンジンオイルがどうやって作られているかを、日本のオイルブランドA.S.H.を展開するジェイシーディプロダクツの代表を務める岸野 修さんにうかがった。今回は、オイルの基本となるベースオイルについて知識を深めていきたい。
「エンジンオイルはベースオイルに添加剤を加えて作られますが、性能のカギとなるのは、ベースオイルだと考えています」
と岸野さん。それではまずベースオイルの種類について学んでいこう。ベースオイルは、原料や精製の度合いや方法の違いで、グループ1〜グループ5の5つに分類される。これはAPI(アメリカ石油協会)が定めた規格で、世界で広く使用され日本国内でも一般的なものだ。
まず、グループ1〜3は、石油を原料とするため鉱物油に分類される。グループ4と5は、原料が石油由来だけでなく植物由来であるなど様々で、化学プラントで合成して作られる。 ここからは各グループの特徴について述べていく。まず、グループ1は原油を精製したプレーンな鉱物油。安価であるがエンジンオイルとしての性能は低いとされる。
グループ2はグループ1より精錬度が高くそして、VI(粘度指数)が少し高い鉱物油になります。
ここで注意したいのは、日本国内では部分合成油に明確な規定がなく、仮に鉱物油99%に対し化学合成油1%の配合であっても、部分合成油と表記しても問題ない。さすがに、そこまで極端な製品は存在しないと思いたいが、部分合成油の性能は、製品によってまちまちだと考えるべきだ。
グループ3は高度な精製を行い分子構造の組み替えまで行っていることで、化学合成油に匹敵する性能を持つことで合成油(VHVI)と呼ばれる。化学合成油と比較すると製造コストが低く、価格と性能のバランスが高いことがポイントだ。
化学合成油のグループ4は、PAO(ポリアルファオレフィン)と呼ばれるもので、グループ5はグループ1〜4に該当しないベースオイルを指し、代表的なものがエステルだ。化学合成油は、基本的な粘度性能と金属への吸着性が高く、ベースオイルに最適とされるが、製造コストは他とは比べものにならないほど高くなってしまう。
A.S.H.のバイク用オイルのラインナップでは、グループ1〜5まで、すべてのベースオイルを使った製品が存在している。その中でもトップグレードにあたるFSE MOTO-SPECのベースオイルは、グループ5のエステルが使用されている。
「一言にエステルといっても、原料や製法によって千差万別です。FSE MOTO-SPECに使っているものは植物由来で、原料は菜種油なんです。ですが、海外のもので、日本で菜種油をとる、菜の花とは全く違うものです。A.S.H.で使っているエステルは、もとから優れた粘度特性を持つ上、金属表面に電気的作用で吸着し、極めて強固な油膜を形成します。高回転・高負荷である、高性能バイクのエンジンには自信を持ってお勧めできます」
だが、ここで疑問が浮かぶ。FSE MOTO-SPECが究極のバイク用エンジンオイルだとすれば、どんなバイクでもFSE MOTO-SPECを使えばいいのでは?
「それは理想かもしれませんが、FSE MOTO-SPECはバイク用エンジンオイルとしては高価ですし、全てのエンジンがそれだけのスペック求めるわけではありません。エンジンの性能や、使い方に合わせてオイルを選んでいただけるように、様々なスペックを用意しています」
要は適材適所。自分のバイクに合ったオイルを選べばいいのだ。
ベースオイルの違いを学ぶ
グループ1〜2は原油を精製するプロセスで生み出されることで鉱物油に分類される。グループ3のVHVIDは鉱物油に水素化精製処理を施したもので、分子構造が均一で不純物が少なく、化学合成油に匹敵する品質を持つことで合成油と呼ばれる。グループ2は鉱物油に化学合成油をブレンドしたものだ。グループ4のPAO(ポリアルファオレフィン)は、石油から精製されるナフサを原料とするが、原油の精製過程で製造されるのではなく、化学合成で作られる。グループ5を代表するエステルも化学合成され、原料は石油由来、植物由来など様々だ。
グループ | 分類 | 製法 |
---|---|---|
グループ5 | 化学合成油・エステル系、及びグループⅠ〜Ⅳに属さないもの | 化学合成 |
グループ4 | 化学合成油 PAO(ポリアルファオレフィン) | 化学合成 |
グループ3 | 合成油 VHVID | 水素化分解(精製) |
グループ2 | 高精度の鉱物油 | 水素化分解(精製) |
グループ1 | 鉱物油 | 溶剤精製 |
グループ5
A.S.H. FSE MOTO-SPEC
グループ4
A.S.H. FS MOTO-SPEC
グループ3
A.S.H. VSE MOTO-SPEC
オイル粘度の正しい見方
オイル選びで、必ず確認したいのが粘度表示。メーカー指定のオイルを使用するのが基本。下の「10W-40」は一例、これは米国自動車協会(SAE)の規格で、世界で広く使用されている。「10W」は低温時の性能を表し、左の表に対応する温度でも流動性を失わないことを表す。右の「40」は、数字が高くなると高温時の性能に優れると思いがちだが、厳密には正しい理解ではない。これは油温100℃の時の粘度を表したものだ。ただし数字が大きい方が、油温100℃での粘度が高いことは事実なので、高温性能が高いと捉えても概ね間違いではない。
表記 | 対応する外気温 |
---|---|
0W | -35℃ |
5W | -30℃ |
10W | -25℃ |
15W | -20℃ |
20W | -15℃ |