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エンジンオイルはどのように開発されるのか?【もう一度、オイルについて考えてみる:Think with A.S.H.】

エンジンオイルは価格も性能も様々、そのグレードの違いはどうやって作り出されるのか?今回は、エンジンオイルの開発過程を、A.S.H.の岸野さんに聞いてみた。

PHOTO/Y.ARAKI, K.ASAKURA
TEXT/K.ASAKURA
取材協力/ジェイシーディプロダクツ 
http://www.jcd-products.com/

謎の多いエンジンオイルその開発の現場とは?

見た目からは性能を判断することは不可能なのがエンジンオイル。そんなキャラクターの掴みにくいエンジンオイルは、一体どうやって作り出されるのだろうか? 

我々、門外漢からすると、想像もつかない。そこで今回は、エンジンオイルがどのように開発されるのかを学んでみようと思う。お話を伺ったのは、高性能オイルブランド「A.S.H.」を展開するジェイシーディプロダクツ代表の岸野 修さんだ。

「以前にも申し上げた通り、エンジンオイルは、ベースオイルに添加剤を加えて作られています。エンジンオイル用に配合されている、DIパッケージと呼ばれる添加剤があるのですが、極端な話をすれば一番安価な鉱物油のベースオイルに、DIパッケージを一定量混ぜるだけで、最低限の性能を持ったエンジンオイルが出来上がります」 

なんと! エンジンオイルの開発は、それほど簡単なものだというのか?

「ですが、そうして作ったオイルは、性能もそれなりです。街中をゆっくり走るならともかく、高速道路やワインディングで高負荷をかけたりするには向きません。サーキットを攻めたり、レースに使うのはもっての他です。おそらくエンジンが壊れるでしょうね」 

やはり、高性能なエンジンオイルを作るのは容易ではないようだ。では、実際の開発現場では、どういった作業が行われているのか? 研究室で実験を繰り返し、何千キロ、何万キロも走る過酷な実走行テストや、めちゃくちゃな高負荷をかけたダイナモテストが行われるようなイメージがあるのだが?

「製品のコンセプトに合わせて、ベースオイルとDIパッケージ、添加剤の選択と配合を決めれば、ほぼ出来上がったようなものですね」 

意外なことに、開発のほとんどは机上で行われるというのだ。

「もちろん実走行テストも行いますよ。ですが、そこではフィーリングを確認するくらいですね。試験機にかけて性能の確認も行います。潤滑性を計測するSRV試験、加熱して酸化安定性を調べる試験。超音波を当てて、せん断安定性を計測するソニック試験などです」 

そう聞いても、試験はともかくとして、誰でもエンジンオイルが作れてしまいそうにも思えてしまう。

「そうもいかないでしょうね。ベースオイルは様々、DIパッケージも数多く存在し、それぞれの性能や特性が異なる。その他の添加剤まで含めると、組み合わせは膨大な数になります。しかも、相性が重要です。高性能なベースオイルと添加剤をブレンドしても、必ずしも良い結果が得られるとは限りませんから」 

では、エンジンオイルの配合は、どうやって決められるのか?

「これまでに蓄積した、データを元に決めていきます。どのベースオイルに、どのDIパッケージを何%配合し、どの添加剤をどれだけ加えれば、どういった性能のエンジンオイルが作れるといったレシピが出来上がっています。開発コンセプトから外れたオイルが出来上がってしまうことはまず有りませんね」 

なるほど、岸野さんの知識と経験があってのことなのだ。

「実機テストは、さんざん行ってきましたからね。チューニングしたエンジンをダイナモ上で何時間も全開状態で回したら、フライホイールがクランクシャフトからもげて、飛んでいったこともあります(笑)」 

なんとも凄まじい話だが、そんなことは日常茶飯事だと岸野さんは笑う。

経験の重みと深さが違う。積み上げてきた知識量が違う。だからこそ、高性能なA.S.H.のエンジンオイルを作り出すことができるのだ。

どんなエンジンオイルにも使用されている重要な添加剤であるのが“DIパッケージ”

DIパッケージとは、ベースオイルに加えるだけで世界標準となっているアメリカのオイル規格、API規格に適合するエンジンオイルを作ることができるパッケージ化された添加剤の総称。

DIパッケージの「DI」とは、パッケージに含まれる「Detergent = 洗剤(金属系洗浄剤、無灰分散剤など)」と「Inhibitor = 阻害剤(抗酸化剤、酸化防止剤、腐食抑制剤など)」の頭文字をとったもの。成分は非公開だが、使用した場合のエンジンのテストデータは公開されている。

エンジンオイル開発者は、そのテストデータからDIパッケージの特性を判断する。どのDIパッケージを、どのベースオイルと組み合わせるかで、エンジンオイルの性 能は変わる。知識と経験の差が出る部分だ。

DIパッケージの生産は米英四社が寡占状態

アフトンケミカル(アメリカ)
シェブロンオロナイト(アメリカ)
ルブリゾール(アメリカ)
インフィニアム(イギリス)

エンジンオイルの潤滑性能を可視化してくれる”SRV試験”

下の二つのグラフは、異なる二銘柄のエンジンオイルをSRV試験機にかけたテスト結果。縦軸は摩擦係数で、0に近付くほど潤滑性が高い。

横軸はテストの時間経過。上のグラフは摩擦係数が絶えず上下して安定しない。対して下のグラフは、ほぼ一定の摩擦係数を維持しており、性能が安定していることを示している。上は某メーカーの純正オイル、下はA.S.H.のFSのデータ。

岸野さんによれば、性能が安定しないのは、潤滑性を添加剤に依存しているためと考えられるとのこと。ベースオイルの質が高いFSは、低い摩擦係数を安定して維持している。

エンジンオイルをはじめ、様々な潤滑油や添加剤、コーティング皮膜等の性能評価に多く使用されているのがSRV試験機。SRV試験機は、日本語で振動摩擦摩耗試験機と呼ばれ、同試験機を使用したテストをSRV試験と呼ぶ。

テストピースとなる金属プレートと金属球の間にテスト対象のエンジンオイルを塗布し、金属球に一方向から圧力をかけた状態で高速で往復運動させ摩擦係数を計測、

テストピースの傷の付き方と照らし合わせることで、エンジンオイルの潤滑性を計測するものだ。右の図のように金属球を使用すると点接触での試験となる。

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