【タイヤと路面の接点を感じる”感じるグリップ”】グリップを感じにくいのは原因がある
バイクはタイヤがグリップしていなければ車体をバンクさせることはできないが、「グリップ感が分からない」というライダーも多い。しかし中野真矢さんは「ライダーなら誰もが感じているもの」と言う。では、どうすればグリップを感じ、引き出すことができるのか? そのテクニックを中野さんにレクチャーしていただく。さらに、タイヤメーカーと二輪エンジニアから、得体の知れないグリップの正体を解説してもらった。これを読めばあなたもグリップを感じて、安心してスポーツライディングができるはず!
原因はいくつかある
我々ライダーは、タイヤから伝わるグリップのことを「接地感」と表現することが多々あります。
この「接地感」というのは曖昧なワードで、ライダーによって何を指すのか微妙に違うことも。しかし一般的には、ライダーが感じ取れるタイヤからのインフォメーションを指すことが多いでしょう。
接地感が希薄なときは、インフォメーションだけでなくグリップそのものも不足している場合が多いので、接地感はグリップ力とほぼイコールと考えることもできます。とはいえ、「接地感があるから安心感につながり、その結果としてライダーがタイヤのグリップを引き出す操縦ができる」と考えるほうが、よりライダーの感性に合っていると思います。
つまり、タイヤからの情報を感じることが、安全でスムーズなスポーツライディングの基礎になるわけですが、そのとても大切な接地感は、さまざまな要因で変化し、ときには〝まるでない〞と感じるときも……。
そこでまずは、ライダーにとって大切な接地感がなくなる、主な原因を挙げてみました。
(中野真矢)
エンジン回転数が低過ぎる
コーナリングであまりに低い回転数(&高いギヤ)を使っていると、スロットルを開けてもエンジンの反応が弱く、トラクションがかからず後輪のグリップを引き出せない。また進入時のエンジンブレーキの不足もグリップ感を得にくい要因になりやすい。
ミドルクラス以上のスポーツモデルなら、パワーバンドより少し手前の、力はあるけど過敏過ぎない、トルク変動が少なめな領域を積極的に使いたい。
体が固まってしまっている
「プロレーサーでも、レースウィークのフリープラクティス1本目なんて、バキバキに力が入り過ぎていて本来のパフォーマンスが発揮できていないことはよくあります」と中野さん。
ライダーが積極的にタイヤを機能させられないのでグリップは引き出せないし、そもそもグリップを感じる能力も落ちるので、恐怖心につながりやすい。
サスペンションのセッティングが合ってない
サスセッティングがハードすぎれば、加減速によるピッチングが掴みづらく、タイヤへの入力が分かりにくくなるとか、タイヤの路面追従性が低下して滑りやすくなるなどの現象が発生するかも。
逆に柔らかすぎても、車体が動き過ぎてタイヤへの入力が安定しないなどの問題につながりやすい。結果、グリップを感じづらくなることもある。
体調が悪い
意外な盲点かもしれないが、グリップを感じるのはあくまでもライダーの役割なので、体調が優れなければセンサーとしての機能が低下し、いつものような接地感を得られないことだってある。風邪や発熱などの症状がある明らかな体調不良はもちろん、寝不足や疲労でもベストなパフォーマンスは発揮できない。
とりあえず、走行会の前日は早めに寝て備えるべし!
路面の摩擦力が低い
濡れている路面や、路面とタイヤが冷えた冬期、あるいは路面温度が高くなり過ぎる真夏は、タイヤと路面の間に発生する摩擦力が低めになったり、タイヤが十分な機能を果たせなくなったりする。つまりグリップが低下するので、結果的に接地感がなくなりやすい。
中でもライダーが嫌がるのは、大丈夫そうなのに実際は接地感が得られない、真冬のドライ路面かも!
下りコーナーで後輪荷重が不足
下りコーナーでは、傾斜によりフロントに荷重されやすいので、どうしてもリアの荷重が抜けがち。これにより、リアタイヤの接地感が希薄になる傾向だ。路面の傾斜も考慮しながらライディングしてみよう。
下りではエンジンブレーキをより積極的に使うとかリアブレーキを引きずるなど、平地や上りとは異なるテクニックを使うことで、足りないグリップ感を得る努力をしよう。
タイヤの空気圧が適切でない
空気圧が高過ぎるとブレーキングやスロットルオンで入力してもタイヤが潰れにくく、ライダーがタイヤの状態を感じづらいし、実際のグリップレベルも上がらない。逆に低過ぎると腰砕けのような状態となり、本来の機能を発揮できない。
押し引きでは抵抗を感じるし極低速走行ではグリップが上がったように錯覚するが、実際の走行ではグリップを得られない。
タイヤが古くなっている
タイヤのグリップレベルそのものが低いと、ライダーに伝わる接地感も薄くなりがち。そして、溝が十分残っているタイヤでも、使用開始から年数が経っていると、紫外線などによる劣化で本来のグリップ性能を発揮できない場合があるのだ。
別記事「教えてディアブロマン!」の項でも解説するが、使用開始から最長3年を目安として、溝が残っていても新品に交換したい。