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疲労と緊張から解放してくれる新世代クラッチシステムを搭載|MV AGUSTA DRAGSTER 800 RR SCS

近年、MVアグスタのミドルクラスモデルに採用され始めた新しい機構がある。それが「SCS」と呼ばれる自動遠心クラッチの一種だ。クラッチレバーの操作やエンジンストップの心配から解放してくれるデバイスとして人気を博し現在急速に需要を拡大している。今度は必須アイテムになるかもしれない

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.ITAMI
問/MVアグスタジャパン TEL0538 -23 -0861 
https://www.mv-agusta.jp/

※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。

MVアグスタのニューモデル、「ドラッグスター800R RSCS」の導入が始まっている。同車のインプレッションはこれまで幾度かお届けしているが、今回注目すべきは車名の末尾に付いた「SCS」の文字である。

これは「スマート・クラッチ・システム」の略称で、ギアチェンジをアシストしてくれるデバイスだ。もちろん、今やすっかり普通の装備になったスリッパークラッチやクイックシフターのことではない。分かりやすいバイクを引き合いに出すなら、ホンダ・スーパーカブに備わる、あの自動遠心クラッチを思い浮かべてもらえると話がスムーズだ。

ギアが入ったまま停止してもクラッチ操作が不要

メーターディスプレイの左上に表示されている「1」はギアポジションだ。つまりエンジンが始動して1速に入っていることを意味するが、ご覧の通りクラッチレバーを離したまま、停車していることが可能だ。この状態からスロットルを開けると自動的にクラッチがつながり発進できる。システム自体はまったく目立たず、外観はいたってノーマルだ

というわけで、まずは操作手順を説明していこう。キーを差し、セルボタンでエンジンを始動させるところまではごく普通である。

問題は次のステップだ。
① クラッチレバーを握る
② ギアを1速に入れる
③ スロットルを徐々に開ける
④ クラッチレバーをゆっくり離す
⑤ 車体が前進

こうした流れが一般的な操作だとすると、SCS装着車はここからいくつかの工程を省略することができるのだ。

もし最短のパターンを辿るとすれば次のようになる。
① ギアを1速に入れる
② スロットルを開ける
③ 車体が前進 

というもので、これによってどれほど安楽になるかは、ライダーなら想像に難くないはずだ。もっとも、最初にギアを1速に入れる時だけはクラッチレバーを握った方がショックは少なく、機械にも負担を掛けないが、いずれにしても半クラッチの煩わしさやエンジンストップの心配から解放され、特に渋滞時の疲労を大幅に軽減してくれる機構として、注目を集めている。

ベースになっているシステムはリクルス社(アメリカ)のものだ。オフロードの世界では以前から知られたメーカーで、半クラッチを多用せざるを得ない極低速のガレ場やマディの攻略が容易になることが高く評価され、ポピュラーになった。

驚くのはそのシンプルさだ。これほどの利便性とは裏腹に、クラッチのアウターの中でほとんどすべてが完結。ディスクやプレートが専用のモノに換装されているだけで、ノーマルからの重量増はわずか36グラムに過ぎない。

ただし、ドラッグスターのパワー、トルク、車重はオフロードバイクと比較にならないため、MVアグスタは電子制御をプラス。エンジン回転数やスロットル開度、ギアポジションと連動させることによって、クラッチの繋がりと滑りを適正なものにしている。

実際に使ってみるとデメリットがなにもない。たとえば赤信号が迫ってきてもクラッチレバーを握らずシフトダウン(これは標準装備されるクイックシフターの仕事だ)して減速。完全に停止しても左手はフリーのままでよく、ニュートラルに戻したり、レバーを握って発進に備えたりする必要がない。

よく考えられているのは、きちんとセーフティ機能も働くところだ。操作をサボって高いギアで停止し、そのまま発進しようとしても回転は上昇せず、過度な半クラッチを抑制。2速以下でしか発進できないようになっている。その時の半クラッチ操作は巧みで、不自然なタイムラグも唐突さもなく、極めてスムーズだ。また、ゼロヨンのように急開してもしっかり追従し、実にコントローラブルである。

スーパーカブやDCTのようにクラッチレバーごと省略されているわけではないので、好みや状況に応じてそれを駆使することも可能だ。見た目の派手さはないものの、かなりのイノベーションと言える。今後、純正採用するモデルが増えたとしても、なにも驚きではない。

【ステアリングダンパーの恩恵は大きい!?】ドラッグスターやブルターレの上位グレードには、トップブリッジ上にステアリングダンパーが標準装備される。車体をバンクさせる時の安定性が大幅に向上する有意義な機能パーツだ
【電子デバイス一覧
・エンジンモード
ノーマル/スポーツ/レイン/カスタム
・トラクションコントロール
レベル1~8/OFF
・クイックシフター
アップ/ダウン
・ABS
SCS非装備モデルとはなにが違う?

よりシンプルなSCS非装着車の方がリニア感、もしくはダイレクト感で勝っているのでは?……と思ったが明確に優位な部分は見られない。13万2000円の価格差を踏まえてもSCSを選ぶメリットは大きい
セパレートハンドルは可変タイプ。標準位置を起点とし、前方と手前にそれぞれ1度ずつ絞り角を調整することができる
セパレートハンドルは可変タイプ。標準位置を起点とし、前方と手前にそれぞれ1度ずつ絞り角を調整することができる
燃料タンク容量は16.5L。エンド部分にはアルミプレートが備わり、質感を高めている
燃料タンク容量は16.5L。エンド部分にはアルミプレートが備わり、質感を高めている
2種類の表皮が用いられるシートの高さは845mm。シートとレールの間に設けられたクリアランスはアイデンティティのひとつになっている
2種類の表皮が用いられるシートの高さは845mm。シートとレールの間に設けられたクリアランスはアイデンティティのひとつになっている
収納時はボディラインの一部になるようにデザインされたタンデムステップ。イタリアンバイクならではのこだわりが光る
収納時はボディラインの一部になるようにデザインされたタンデムステップ。イタリアンバイクならではのこだわりが光る
シフトアップにもダウンにも対応するクイックシフターを標準装備
シフトアップにもダウンにも対応するクイックシフターを標準装備
強烈なインパクトを放つ片持ちのワイヤースポークホイールはKineo社(イタリア)のもの。ハブの仕上げも美しい。タイヤにはピレリのディアブロ・ロッソIIを採用
マルゾッキのφ43mm倒立フォークとブレンボの4ピストンラジアルマウントキャリパーを装備
マルゾッキのφ43mm倒立フォークとブレンボの4ピストンラジアルマウントキャリパーを装備
リアサスペンションにはザックスのフルアジャスタブルタイプが装着されている
リアサスペンションにはザックスのフルアジャスタブルタイプが装着されている

渋滞時のクラッチレバー操作を煩わしく思うそんな自分に理想のシステム

街中やツーリングでの渋滞など、クラッチレバー操作を煩わしく感じる場面は多々ある。そのたびにクラッチレバーの無いバイクに乗りたいと切に思ってきた。でも無段変速は好みじゃないのでギアは欲しい……。スクーターじゃなく、ちゃんとニーグリップ出来て前傾姿勢であれば言うことなし、とも。 その意味でSCSは、僕にとって理想のシステムと言える。もちろん最近のオートシフターは非常によくできており、動いてしまえばクラッチレバー操作はほぼ不要。それでも発進と停止ではそうはいかない。そこにこそSCSのアドバンテージがある。加えてギアを入れての微速前進でもエンストしないのが嬉しい。2速~ 3速でもストールしないため、渋滞時だけでなく、Uターンをはじめ幅広いシーンで恩恵にあずかれるはずだ。ちょっとドキドキするのは、初めての発進と停止のみ。これとて一度体験してしまえば、あとは何ということはない。 唯一気になったのはシフトチェンジの際のショック。ギクシャクするとまでは言わないが、瞬時にダイレクトにギアが切り替わるのだ。個人的にはもう少しファジーに、半クラッチ操作風に滑らかにつながってくれるとより嬉しい。

画像の説明 【本誌編集:河村聡巳】
エンジン水冷4ストロークDOHC並列3気筒
排気量798㏄
最高出力140hp/12300rpm
最大トルク8.87kgf・m/10100rpm
ボア×ストローク79.0mm×54.3mm
圧縮比13.3:1
トランスミッション6 速
全長2035mm
全幅935mm
軸間距離1400mm
シート高845mm
車両重量168kg(乾燥)
フレームトレリススチールパイプ
フロントサスペンションマルゾッキφ43mm倒立フォーク
リアサスペンションザックスプログレッシブモノショック
フロントブレーキブレンボ4ピストンラジアルマウントキャリパー
リアブレーキブレンボ2ピストンキャリパー
フロントタイヤ120/70-17
リアタイヤ200/50-17
燃料タンク容量16.5L
価格257万4000円

※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。

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