【DIRTSPORTS】チャンピオン 渡辺学に学ぶ!! 超実戦的エンデューロライテク ワダチ&障害物編【ライテク】
JNCC史上最多6度のチャンピオン、渡辺学選手が教えてくれるエンデューロライテク。「より役に立つリアルなライテクを解説したい!」という学選手の情熱を受け、人気レースビッグバード&AAGP会場「高井富士」を舞台に、実戦で役立つライテクを解説していただいた!
※本企画はX-JAM高井富士、JNCCの許可を得て特別に走行取材させていただいたものです。許可なくコースを走行することなどは絶対におやめください。
PHOTO/H.Inoue 井上演 TEXT/D.Miyazaki 宮崎大吾
解説
渡辺 学 わたなべ まなぶ 全日本モトクロスヤマハワークスライダーとして活躍後、JNCC史上最多の6度のチャンピオンに輝く最強ライダー。ISDE参戦経験がありJECでも優勝するなど活躍中で、今季はJNCC&JECの2大チャンピオン獲得を目標としている入念な下見と洞察力で勝利を引き寄せる
JNCCをはじめ大人気のクロスカントリーレースは、普段の練習コースではなかなか走ることのできないロケーションが多数ある。その代表がウッズセクション。「せっかくならば、実際に多くのライダーがレースで走る会場のコースでライテク取材をしませんか」という渡辺学選手の提案もいただき、今月号のライテク取材は特別編として、X-JAM高井富士でおこなうことになった。
かつての爺ヶ岳スキー場に匹敵、あるいはそれ以上の豊富なウッズ区間を持つ高井富士は、ラインが多数あり、レース中に正解を見つけることはなかなか難しい。渡辺選手がウッズ区間を得意とするのは、なんといっても入念な下見によるものだという。タイヤ1本分の誤差による大きさを理解しているからこそ、下見にはこだわる渡辺選手なのであった。 さらにレース中もほかのライダーの通るラインとの比較をおこない、タイム差などを探るのだという。
ゲレンデのハイスピード区間を攻めるのはリスクがあるが、ウッズのライン選択だけで大きな差を作れるなら、やらない手はない。この頭脳的なライディングはまさに渡辺選手の武器であり、JNCC史上最多6度のチャンピオンを獲得したゆえんと言えるだろう。またウッズ以外にも滑りやすい斜め状の丸太や、ハイスピードなガレ場セクションも解説してもらった!
学の頭脳派ウッズ攻略法
ウッズの轍はバンクとして活用! 速度を高め、リスクを軽減
今回のウッズライテク取材のきっかけは、昨年AAGPに参加した本誌(DIRT SPORTS)岸澤の悩みだった。なぜエンデューロライダーがウッズのなかで軽快に走れているのか? そんな疑問を取材中に投げ、学選手が解説するなかで明らかになったのが、この旋回走法。ウッズでは轍の底部を走るライダーが多いためギャップができやすく、ブレーキングなどでも不安定になりがちだが、学選手の場合は壁をバンクに見立てて荒れていない部分を積極的に使っていたのだ。まさにバンクのごとく前後輪を張り付かせることでスピードものせやすく、ブレーキングもしやすく、滑りにくい。レベルの高い技ではあるが、この思想を持つだけでウッズがより快適になるはずだ。
ウッズを難しいと感じるライダーの多くは、走っている場所を確認してみよう。丸まった底部を通りがちだが多くのライダーが走るため路面が荒れがちで、車体コントロールも困難になる。すぐに実現できるようなものではなく練習が必要だが、積極的に壁を使って車体を寝かしていくことを覚えたい
ウッズの障害物も回避!
本取材でウッズの中を歩いてよく見かけたのが、ハンドガードなどでこすれた枝の跡。おそらく多くのライダーが枝を避けられずに当たっていたものと思われるが、轍バンクを利用した旋回/車体寝かせのテクニックを使うことで回避できると学選手。負傷や転倒のリスクも軽減するための技でもあるのだ
学選手ならどのラインを選ぶ?
切り残した切り株に注意!
レース主催者が切ってくれている切り株の頭部分が残っていることもあるので、要注意。切った根元から草が生えてきがちなのでカモフラージュされて見落としがちなのだ。
JNCCで使われる広大なウッズはラインが交錯して選択を迫られることが多い。たとえばここ、多くのライダーが通った跡のある直線的なラインの先にはアーチ型に横たわる木の枝が待ち構えている。ここで学選手の頭の中をのぞいてみよう。
「まっすぐ進むとアーチの木が気になってそこで失速しそうだし、下った先で右に曲がっているとしたら、角度が急ならばブレーキを使わなくてはいけない。だったら手前の右のラインのほうが速いんじゃないか」。みんなが下、横向きに走っているところを、なるべくそうならないようラインを早めに見つけることで、アドバンテージを築くのだ。
この場合、右側にもラインがあらかじめ出来ているのでわりと選びやすいが、走行跡がなく枯葉などが覆っている場合はリスクも大きいので、事前の下見で自分だけの安全なラインを見つけることが大事。自分のラインを確保するため、レース中にブレーキをかけてタイヤ痕をつけ、進行方向の目印にすることもあるという。
学選手の「下見力」の極意とは?
元モトクロスワークスライダーなど強力なライバル達を相手に勝利を重ねる学選手の強さの秘訣のなかに「下見力」がある。そこでどのような下見をおこなっているか尋ねてみた。まさに頭脳と下見力で勝負しているのだ。
「レース前の金曜日は1日かけてコースを下見します。自転車(E-MTB)で3〜4周、歩きで1周ですね。E-MTBは特に下りなどはバイクの感覚で見ることができます。でもしっかり見るためにはやはり歩きですね。そこでやるのは複数のラインを見つけることです。
ウッズでいえば入り口と出口をまっすぐに繋ぐラインがベストですが、そうではないラインを見つけておくということです。たとえば30秒で通過できるところが10秒遅ければそのラインは使いませんが、3秒くらいならアリです。周回遅れで3秒くらいは必ず詰まりますし、誰も通らない自分だけのラインをマイペースで走り続けることで石もなくなりだんだん走りやすくなるし、体力も温存してタイムも詰められます。上手に走る技術がなければ、みんなが通るラインを外れるのは難しいかもしれません。でもどこを有利に進めるかを考えたときに、ウッズの中で複数のラインをもっておくのは武器になります。
下見のときはざっくりと『ここは右がいい、左がいい』という曖昧なものではなく、どこに前輪を入れるかなどシビアに見ています。みんなが『イン側が危ない』と言っていたラインも、僕にはさらに内側の安全なラインが見えていたこともあります。最初は怖いと思いますが、なるべくコースを広くみて、様々なラインを走る練習をすることで自信がついてくるはずです。
レース中ウッズでは最初の3周くらいは毎回ラインを変えています。そのときに他の選手のウエアの色を覚えておき、そのレベルのライダーが通るラインと、自分のラインを比較するんです。出口でその人のほうが早く抜けたのか、変わらないのか。そんな見方をすれば良いラインが見つけられます。ライバルに比べて、そこで3秒早ければ、コース、レース全体では30秒くらいの大きな差になりますし、ほかのセクションで30秒のタイム差を詰めるのはリスクもあり、疲れるし、埃もあって大変ですが、ウッズのライン選択だけで早められるなら、やらない手はありませんよ」