【3シリンダーの誘惑】青木宣篤が3メーカーの3気筒を試乗 SUPERVELOCE 98
レースの血統を感じるMVアグスタの特性
MVアグスタのスーパーベローチェは、何とも特徴的なバイクである。直列3気筒エンジンをあまり回さず、流すぐらいのペースで走っていると、どうにもしっくり来ない。フロントにすべてがあるような感覚で、うまく乗れないのだ。
しかし、回転を上げると、途端に面白くなってくる。スロットルがアドレナリン噴射装置になったかのようで、回せば回すほどしっくりと来る。フロントがすべてで、リアを感じにくい印象はそのままなのだが、回転が上昇するにつれてどんどん高揚してくる。
昔はよく「カムに乗る」という表現をしたものだが、まさにそういったフィーリング。高回転域になるほど回転数とパワー感がリンクする。思いっ切りスロットルを開けてパワーを引き出す気持ちよさは格別だ。
秀逸なのは12000〜12500rpm。わずか500rpmという狭いエリアだが、ずっとここで走っていたい(笑)。この領域ではいろんなものが思い通りに反応する。この500rpmを目がけてすべてが合わせ込まれているのだろう。
レースモードにすると、そのリアクションがさらにシャープになる。そして気付かされる。「3気筒はよく曲がる!」と。「寝ろ、寝ろ」と念じる4気筒に対して、3気筒はいつの間にかスパッと寝ている。
それにしても、スーパーベローチェの高回転域は絶品だ。カムに乗ると実にシルキーかつ上質なフィーリングでライダーの魂をつかむ。
より正確には、「レーシングライダーの魂を……」と言いたくなる。ここには、レースに重きを置き続けてきたMVアグスタの歴史的背景が、そのまま反映されている。
同じ気筒配列でも、各メーカーによって狙い所は明らかに異なる。今回試乗したヤマハ、MVアグスタ、そしてトライアンフの中で、MVアグスタは別格でレーシング方向に振り切っている。
「フロントがすべて」という感覚は、独特だ。しかしクセがハッキリしている分、分かりやすい。しかも剥き出しのパフォーマーなので、もっとも直列3気筒らしいバイクでもある。
それが顕著なのが、回頭性、そして旋回性のよさだ。スパッとバイクが寝てくれて、グイグイと旋回性を発揮するのは、直列3気筒ならではの美点。レーシング方向に割り切っているスーパーベローチェだからこそ、その特性が鮮明である。
こういう明確なキャラクター作りは、イタリア車の得意分野だ。ある意味では乗り手を選ぶことになるが、ハマる人はとことん偏愛する。
正直なところ、万人に勧めやすいバイクとは言いがたいが、147㎰の直列3気筒エンジンを高回転域までブン回すことができ、高荷重をかけられる人なら、このバイクだけの愉悦の瞬間を我が物にできる。
【SPECIFICATIONS】MV AGUSTA SUPERVELOCE 98 Edizione Limitata
エンジン | 水冷4ストローク 直列3 気筒DOHC4 バルブ |
総排気量 | 888cc |
ボア×ストローク | 78x62mm |
圧縮比 | 11.5:1 |
最高出力 | 120ps/10000rpm |
最大トルク | 9.5kgf・m/7000rpm |
変速機 | 6 段 |
クラッチ | 湿式多板 ダイヤモンド |
キャスター/トレール | 25°20′/ 110mm |
サスペンション | F=KYB 製φ41mm テレスコピック倒立フォーク R=モノショックリアサスペンション |
ブレーキ | F=φ320mセミフローティング ダブルディスク+ 対向4ポット ラジアルマウントキャリパー R=φ220mm シングルディスク+1ポットキャリパー |
タイヤサイズ | F=120/70ZR17 R=180/55ZR17 |
全長×全幅×全高 | 2160×690×1180mm |
ホイールベース | 1500mm |
シート高 | 835mm |
車両重量 | 200kg |
燃料タンク容量 | 14ℓ |
価格 | 143万円 |
スーパーヴェローチェ800SをベースにMVアグスタの1号車「MV98」と同色のボディカラーなど、外装を中心にカスタムした300台の世界限定車。逆回転クランクのエンジン、マルゾッキ製フォーク、ザックス製リアショック、ラジアルタイヤ対応のスポークホイールなどは継承