【ヤマハ MT-09 Y-AMT】プロに迫るシフト操作が指1本で実現できる
初代のデビューから10年。たゆまぬ進化と深化を続けている、MT-09シリーズ。CP3エンジンは扱いやすさを高めることでよりスポーティーになり、クラッチレスでシフト操作可能な「Y-AMT」も採用された。青木宣篤によるMT-09 SPのインプレッションと、「Y-AMT」のテストをお届けする
PHOTO/S.MAYUMI, K.OKUZUMI TEXT/G.TAKAHASHI, T.TAMIYA
取材協力/ヤマハ発動機 0120-090-819 https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
ヤマハも新技術導入で活気づくオートクラッチ
段変速機を搭載したモーターサイクルのクラッチ制御を自動化する技術が、ちょっとした〝ブーム〞になっている。昨年にはホンダがEクラッチを発表し、今年からCBR650RとCB650Rに導入。今春にはBMWがオートメイテッド・シフト・アシスタント(ASA)を発表し、これは’25年型R1300GSアドベンチャーにオプション設定される。そしてヤマハは、今夏にYAMTを電撃発表。日本国内では9月30日に発売開始となったMT-09Y-AMTに市販車初搭載する。
ヤマハは、マニュアル変速機のクラッチを自動制御化する技術を、’06年型FJR1300ASに搭載されたYCC-Sで確立済み(変速はマニュアル)。今回のY-AMTはその発展形とも言える。
そう考えるとEクラッチやASAの発表から間髪入れず登場したY-AMTは、じつはもっと早くに完成されており、他社参入によって市場の機が熟すのを待っていた隠し玉だったのかも……。
なんて推測はともかく、ヤマハはこのY-AMTを搭載したMT-09の国内発売に先駆け、メディア試乗会を開催した。その舞台は、千葉県の袖ケ浦フォレスト・レースウェイ。敢えてサーキットが選ばれていることからも、「単にツーリングや移動を楽にするための技術としてY-AMTを開発したわけではない」というメッセージが伝わってくる。
Y-AMTの特徴を簡単に挙げると、まずクラッチが完全自動制御化されており、クラッチレバーは装備しない。変速は、自動のATモード(DまたはD+)と、左スイッチボックスに装備されたシフトレバーによるMTモード(スポーツ/ストリート/レイン/カスタム1・2)に切り替え可能。
シフトペダルはなく、ATモード時でもシフトスイッチによる任意のギア選択が可能で、MTモードでも停車直前の極低速になると1速までシフトダウンする機能を備える。
扱いやすいCP3エンジンに、さらに誰でもスムーズにライディングできるシステムを追加したというわけだ。
ハンドシフトを使えば理想の走りに近づける!?
スポーツライディングにおけるY-AMTの〝大本命〞はMTモードだが、まずはATモードでコースイン。1周ごとに一時停止する、ツーリングペースの先導車に続いた。
発進は、DまたはD+を選んでスロットルを開けるだけだが、極めてスムーズ。1→2速のようなギア比が離れているシフトアップの際も、クイックシフターに加えて半クラッチが仕事をしてくれているようで、変速ショックは感じられない。すべてのコーナーをノーブレーキで曲がれるほどのゆっくりペースでは、マニュアル操作がないことの退屈さこそ感じるが、自動制御の違和感やスムーズさに対する不満はまるでない。
「操作が煩雑だからバイクは楽しい」というライダーの主張も尊重するが、バイクをより身近な存在にする技術という意味ではとても秀逸。クラッチワークとシフトチェンジを何も考えずできるようなベテランでも、ロングツーリング後半などの疲労が蓄積した状況では、Y-AMTのATモードにありがたさを感じるはずだ。だってやっぱり、ラクだもの!
先導車が抜けてからは一気にペースアップ。とりあえず膝が擦れるくらいまで攻めてみた。ATモードの場合、パワーは4段階の下側の3か4にしか設定できないが、それでも加速力は十分。変速をバイク任せにできるため、スロットル操作に集中して完全な〝全開〞にしやすい。
ただしATモードだと、サーキットでのハイペース走行は難しい。まず、コーナー進入時の減速で積極的なシフトダウンが実施されず、エンジンブレーキの利用がほぼ不可能。ターンインでも、エンジンブレーキが弱すぎることが不安につながりやすい。高めのギア選択は、コーナリング中も継続するため、立ち上がりでトラクションを引き出すことは難しい。袖ケ浦FRWの場合、Y-AMTが選ぶギアは、ほとんどのシーンで自分が選ぶギアより2速上。例えば最終コーナー手前の右ヘアピンカーブは1速で走りたいが、かなりハードに突っ込みつつ減速しても、3速までしか落ちなかった。
そこで途中からは、ATモードのままブレーキング時に左手親指でシフトレバーを押して任意でシフトダウン。これにより、エンジンブレーキとトラクションの不足に関する問題は解消した。しかし立ち上がりでは、速度がある程度上がると自動シフトアップされるため、まだ車体が寝ている状態で変速され、トラクションが抜けてしまうこともあった。
そこでいよいよ、MTモードに切り替え。こちらはフルマニュアル変速なので、オーバーレブするようなシフトダウンなどはキャンセルされるが、基本的にはすべての状況で自分が使いたいギアを選択可能。ストレートでレッドゾーン手前までしっかり使い切ることもできる。
高回転キープのシフトアップでは、意外と変速ショックを感じる。とはいえこれは、ATモードで走っているときの極めてスムーズなフィーリングに慣れてしまっていたからかも。後で開発者に聞いたところ、高回転でのシフトアップではクラッチ制御を(ほぼ)介入させず、クイックシフター中心で制御しているようだ。
一方でシフトダウンは、アップよりもむしろスムーズな印象。左手レバーで、何も考えずバンバン落としていける。袖ケ浦FRWの3〜4コーナーは、中速から低速の右ターンを短い直線でつないだ下りの複合カーブで、攻略が難しいセクション。マシンを軽くリーンさせた状態でシフトダウンしたいのだが、Y-AMTはこれがおもしろいようにスパッと決まる。SP仕様のMT-09で同じ走り方をしてみたが、クイックシフターのみだとやはり挙動が乱れる。Y-AMTなら、自分が理想とする走りを実現しやすいことは確かだ。
Y-AMTにはシフトペダルがなく、変速に使えるのはシフトレバーのみ。これまでと違う操作だが、意外なほどすぐに慣れた。正チェンジから逆チェンジに変更するほうが、同じように左足&シフトペダルを使うので、よほど難しく感じる。
シフトレバーは、人差し指側を押すとシフトアップ、親指側を押すとシフトダウン。また、レバーはシーソー式になっており、人差し指側を爪で前に弾くような操作でもダウンできる。ただし私の場合、同じ指を使うということの混乱から、スポーツライディング中に人差し指のみで操作するのは難しかった。「親指ダウン、人差し指アップ」と完全に使い分けるほうが、習得は早そうだ。
近年のスポーツバイクは、アップ&ダウンのクイックシフターを標準装備していることが多く、そのような車種ならサーキットのスポーツライディング中にクラッチ操作は不要。その点は、Y-AMTもクイックシフターも同じだ。ただし大きな違いは、Y-AMTは変速による左足のステップ踏み替えがいらないので、常に母指球で踏んでフットポジションを安定させられる点。理想的なステップワークが簡単になるというのも大きな魅力だ。
酷暑だからガツガツせず軽く走って終わりに……と考えていたが、気づけば1時間以上乗っていた。〝初体験のバイク操作〞と〝スムーズなシフトダウン〞は、ベテランライダーも虜にする。Y-AMTの活用を前提とした新たなライディングテクニックの探求も、できそうな予感。やっぱりY-AMTは、ラクするためだけでなく、楽しくスポーツするための技術なのだ。
(田宮 徹)
YAMAHA MT-09 Y-AMT
エンジン | 水冷4ストローク直列3気筒DOHC4 バルブ |
総排気量 | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5:1 |
最高出力 | 120ps/10000rpm |
最大トルク | 9.5kgf・m/7000rpm |
変速機 | 6段 |
クラッチ | 湿式多板アシスト&スリッパー |
フレーム | ダイヤモンド |
キャスター/トレール | 24°40′/108mm |
サスペンションF | KYB製フルアジャスタブル倒立フォーク |
R | KYB製モノショック(オーリンズ製フルアジャスタブルモノショック) |
ブレーキF | 4ポッドラジアルキャリパー(ブレンボ製4ポットラジアルキャリパーStylema)+ダブルディスク |
R | 1ポッドキャリパー+シングルディスク |
タイヤサイズF | 120/70ZR17 |
R | 180/55ZR17 |
全幅×全高×全高 | 2090×820×1145mm |
ホイールベース | 1430mm |
シート高 | 825mm |
車両重量 | 193(194)《196》kg |
燃料タンク容量 | 14L |
価格 | 125万4000(144万1000)《136万4000》円 |