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【DUCATI Panigale V4S×中野真矢】このバイクの限界点はそう簡単には見えてこない

走り出してほんの数周で肘を擦るとは……。中野真矢さんは驚きを隠せなかった。扱いやすさが身上の新型V4Sだが、それはとてつもなく高い限界へのほんの入口に過ぎないのだ。そのことが、中野さんをさらに驚かせる。

【中野真矢】
1999~2009年にわたり、世界を舞台に戦った。世界グランプリでは250ccクラス、500ccクラス、MotoGPクラスでヤマハ、カワサキ、ホンダを、スーパーバイク世界選手権ではアプリリアを走らせるなど、豊富な経験を持つ
【中野真矢】
1999~2009年にわたり、世界を舞台に戦った。世界グランプリでは250ccクラス、500ccクラス、MotoGPクラスでヤマハ、カワサキ、ホンダを、スーパーバイク世界選手権ではアプリリアを走らせるなど、豊富な経験を持つ

これから僕がお伝えする新型パニガーレV4Sのインプレッションには、少し注意が必要かもしれない。

新型パニガーレV4Sは、車で言えばあくまでもフェラーリやランボルギーニのような「スーパーカー」である。普通の街乗りに適しているとは言いにくいジャンルの乗り物だ。そして、そういう乗り物だからこその緊張感やダイレクト感が、存分に味わえる。

このことを大前提として、インプレッションをお読み頂きたい。

新型は、とても乗りやすくなっている。エンジンの印象は、かなり厳しい排ガス規制、ユーロ5+に適合している影響からか、とてもマイルドだ。エキゾーストノートも、ドゥカティのスーパースポーツモデルにしては、だいぶおとなしくなった。低回転域から高回転域に至るまで全域で非常に扱いやすいので、カッチリとストッパーに当たるまでスロットルを開けられる。

従来型のエンジンはかなり荒々しく、「乗りこなしている!」という充実感はあるのだが、スロットルをおいそれとは開けにくいシーンがあったのも確かだ。

「基本的にスパルタンだが、走り出してすぐに楽しさを感じられる取っつきやすさは大きなメリット」と中野さん。「ただし限界はとてつもなく高い所にあり、並大抵では届かない」
「基本的にスパルタンだが、走り出してすぐに楽しさを感じられる取っつきやすさは大きなメリット」と中野さん。「ただし限界はとてつもなく高い所にあり、並大抵では届かない」

一方の新型V4Sは、どの回転域、どのバンク角からでも安心してスロットルを開けられる。同じコースを走っていても、従来型より新型の方がスロットル開度100%の時間は長いはず。実質的な速さは間違いなく新型V4Sの方が上だ。ユーロ5+に適合しながらもわずかとはいえパワーアップしているのだから、速くなっていても何らおかしくはない。

だが、かなりマイルドな印象でありながらも実際に速いというのは、かなりハイレベルな作り込みの結果だろう。

マイルドという印象は、車体も同じだ。ジオメトリーを見るとしっかりキャスターが立っているのに、新型V4Sのハンドリングにはキャスターが寝ているバイクのような落ち着いた安定感がある。サスペンションが非常にしなやかで動きを感じやすく、トラクション性能が優れているのも印象的だ。

従来型が硬くスパルタンで、ガッツリ荷重をかけなければ思うようにならないのとは対照的で、新型V4Sは低荷重からでも素直に言うことを聞く。バイクの側が先走ることなく、あくまでも従順に、ライダーの意思に忠実に従おうとする。

【新型の方が立ち上がりでトラクションを掴みやすい】スロットルを開けやすいマイルドなエンジン特性、しなやかで挙動が分かりやすいサスペンション、そしてリアタイヤをしっかりと路面に押しつけるトラクション性。どの要素も、新型の方が従来型を上回っている。だが、どちらもとんでもなく体力が求められるスーパーなバイク。乗りこなしに覚悟と気合いが必要という意味では同類だ
【新型の方が立ち上がりでトラクションを掴みやすい】スロットルを開けやすいマイルドなエンジン特性、しなやかで挙動が分かりやすいサスペンション、そしてリアタイヤをしっかりと路面に押しつけるトラクション性。どの要素も、新型の方が従来型を上回っている。だが、どちらもとんでもなく体力が求められるスーパーなバイク。乗りこなしに覚悟と気合いが必要という意味では同類だ

驚かされたのは、前後連動ブレーキのパフォーマンスだ。コーナーに進入し、フロントブレーキをリリースしても、リアブレーキを適切に引きずってくれる。これも車体の安定性向上に間違いなく一役買っている。

MotoGPマシンを走らせていた現役時代、左コーナーで右足が届かず、リアブレーキをうまく使えなかったことを思い出す。このシステムがあれば、もう少しいい成績を残せたかもしれない……(笑)。

「エンジンはマイルド、車体は素直」。この言葉だけではなかなか想像しにくいと思うが、新型V4Sの限界は極めて高いレベルまで引き上げられている。

試乗を開始してほんの数周で、あっという間に肘を擦る。これには自分でも驚いた。それで終わりではないことに、もっと驚いた。新型V4Sは、優しい顔をしながら「限界はまだまだ先だよ」「もっと行けるよ」と、誘いかけてくるのだ。

新型V4Sの限界域を体感できるのは、世界でも一握りの超スペシャリストだけだろう。「乗りやすさ」もレースに勝つための武器。あくまでも「本気のスーパーカー」なのだ。

(中野真矢)

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