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【ドゥカティ Panigale V4S】速さのために開発されたライダーをサポートする技術を満載【技術解説】

ドゥカティ・スーパーバイクシリーズの“新世代”を名乗る以上、中途半端でお茶を濁すようなモデルチェンジは許されない。新型パニガーレV4/Sには速さを磨く新技術が満載だなのだ。

水冷V4エンジンこそ従来型の熟成版といった感じだが、新型パニガーレV4/Sは各部に徹底的に手が加えられている。

中でもデザイン刷新以外でとくに目立つのは両持ち式スイングアームの採用だが、電子制御システムの大幅な進化も、絶対に見逃せない要素である。

DVOによりほぼ予測的に制御されるトラクションコントロールやウイリーコントロール、市販車初採用となるレースeCBSやスマートEC3.0仕様のセミアクティブサスペンション(S仕様)は、サーキットライディングのレベルアップを狙うファンライド層を、新たな次元に運んでくれることだろう。

ちなみに、ライディングモードはレースA/B、スポーツ、ロード、ウエットの5種類がデフォルト設定され、多彩な電子制御が連動して切り替わる。カスタマイズも可能だ。

車重はトータルで先代比2kg減。これも速さに効く進化である。

環境規制に対応しつつ出力アップを果たし軽量化も達成した1103cc水冷V4

逆回転クランクシャフトを採用した90度V型4気筒エンジンは、最新排出ガス規制のユーロ5+に適合しながらも、吸排気系の見直しなどで最高出力が0.5ps増の216psに。

新作カムシャフトに加えて、パニガーレV4Rと同様のオイルポンプやオルタネーターローター、スーパーレッジェーラV4譲りのギアボックスドラムを採用することなどにより、エンジン単体で1㎏軽量化された。

軽量化も施された新作カムシャフトは、パフォーマンス向上を狙って吸気側0.75mm&排気側0.45mmのリフト量アップ。これに合わせて可変長エアインテークファンネルのストロークも大幅に増え、最大ダクト長が5mm増の80mm、最小ダクト長が10mm減の25mmとなる
軽量化も施された新作カムシャフトは、パフォーマンス向上を狙って吸気側0.75mm&排気側0.45mmのリフト量アップ。これに合わせて可変長エアインテークファンネルのストロークも大幅に増え、最大ダクト長が5mm増の80mm、最小ダクト長が10mm減の25mmとなる
エンジン下部にサイレンサーを配置する手法は継承するが、4-2-1-2集合形式の排気システムにも改良が施され、ヘッダーとサイレンサーともに再設計された。ダブルエグジット・チャンバー・サイレンサーは、触媒監視用のO2センサーが2個増やされて計6個を搭載する
エンジン下部にサイレンサーを配置する手法は継承するが、4-2-1-2集合形式の排気システムにも改良が施され、ヘッダーとサイレンサーともに再設計された。ダブルエグジット・チャンバー・サイレンサーは、触媒監視用のO2センサーが2個増やされて計6個を搭載する

さらに冷却システムも見直され、ウォーターラジエターの有効冷却面積は7%拡大。オイルラジエターには、レース由来のより効率的なデュアルフロー内部水循環レイアウトが採用された。

ドゥカティ・コルセが開発した加速を有利にする予測型制御「DVO」

MotoGPでドゥカティ・コルセが開発したドゥカティ・ビークル・オブザーバー(DVO)を搭載。6軸IMU(慣性計測装置)に加え70個のセンサーからの情報を独自アルゴリズムでシミュレーションすることで、特定状況下で許容できる加速力やエンジン出力を瞬時に判断し、電子制御の介入レベルをほぼ予測的に制御できる。

【DVO(ドゥカティ・ビークル・オブザーバー)のコントロールが加わった電子制御システム】
DTC(ドゥカティ・トラクション・コントロール)
DWC(ドゥカティ・ウイリー・コントロール)
DPL(ドゥカティ・パワー・ローンチ)
【DVO(ドゥカティ・ビークル・オブザーバー)のコントロールが加わった電子制御システム
DTC(ドゥカティ・トラクション・コントロール)
DWC(ドゥカティ・ウイリー・コントロール)
DPL(ドゥカティ・パワー・ローンチ)

トラクションコントロールの場合は介入による変動が少なくより正確に機能するなどのメリット、ウイリーコントロールでは加速性能のさらなる向上などにつながる。

なお、IMUはより車体重心に近く振動の影響も少ない燃料タンク部に移設された。

ライダーの視界を妨げない6.9インチ横長メーターパネル

新型TFTディスプレイは、スマートフォンと同様のオプティカル・ボンディング技術を採用しており、画面に接着されたガラス層により視認性が向上したことから、日中でもブラックの背景を使用できる。サイズは6.9インチ、解像度は1280×480ピクセルで、先代の5インチ&800×480ピクセルと比較して横長。

ストップウォッチ機能や9000rpm以下が圧縮されたタコメーターが特徴のトラックモード
各種情報がスッキリ並ぶロードモード
ストップウォッチ機能や9000rpm以下が圧縮されたタコメーターが特徴のトラックモード(写真上)と、各種情報がスッキリ並ぶロードモード(左)

表示モードはロード/トラックの2タイプで、どちらの選択中でも「ビュー」と呼ばれる新機能により、さまざまな情報を視覚的なグラフィック画面で確認可能。

オプション追加によりサーキットの区間タイム表示などにも対応している。

多彩な表示機能が用意されており、走行中のリーンアングルや加減速度、パワー&トルクの瞬間値なども確認可能。電子制御の状態確認と調整もでき、走行中のABSモード変更も可能になった
多彩な表示機能が用意されており、走行中のリーンアングルや加減速度、パワー&トルクの瞬間値なども確認可能。電子制御の状態確認と調整もでき、走行中のABSモード変更も可能になった

横方向の剛性を40%落としタイヤのグリップを最大化

エンジンをシャシーの構造部材として使うアルミ製フロントフレームは、MotoGPで培ったノウハウに基づき横剛性を40%低減。

これにより17%(730g)の重量削減という副次的利益も得た。ねじれ剛性は維持され、安定性を保ちつつ柔軟性を向上。

深いバンク角でも高い応力の吸収性を発揮するので、グリップをさらに高められ、タイムアップに貢献する。

2.7kg軽量化しバイクとの一体感を高めたリアエンド

スイングアームは左右対称中空構造の両持ち式に刷新された。先代の片持ち式と比べて16㎜長く、横剛性は37%削減。スイングアームおよび鍛造リアホイールアッセンブリーの合計値で新旧V4Sを比べた場合、リアエンドは2.7㎏軽い。

この変更はスリックタイヤの潜在能力を最大限に引き出すことなどが目的で、トラクションを高めることや加速時の操縦性向上、タイヤのメカニカルグリップをさらに引き出し、なおかつレース終盤にでもパフォーマンスを安定させることなどが狙われている。

V4SはMotoGPからヒントを得てドゥカティが設計した、5本接線スポークの鍛造アルミ合金ホイールを装備。フロントは先代V4S用よりもさらに150g軽い
V4SはMotoGPからヒントを得てドゥカティが設計した、5本接線スポークの鍛造アルミ合金ホイールを装備。フロントは先代V4S用よりもさらに150g軽い

開発前提条件として、アンダーマフラーレイアウトの維持と最適なライダーフットペグ位置の確保が挙げ、最終的には左右フットペグを10mmずつ内側に追い込むことにも成功している。

より精密な減衰調整により荷重の伝達を最適化する

V4Sは、オーリンズ製のNPX30フロントフォークとTTX36リアショックで構成された電子制御サスペンションを装備。

市販車初採用のオーリンズ・スマートEC3.0では、ダンパー調整に従来の円錐形ニードバルブではなく、バルブの物理的作動で発生するシリンダー内の圧力変動を補正しながらより速くて精密な調整を可能とするスプールバルブが用いられる。

リアショックには新設計のシングルロッドリンケージが採用され、長さを短縮して重量を0.6kg削減。本体をブッシングではなくニードルベアリングで装着することで、摩擦を低減してタイヤグリップ向上に貢献
リアショックには新設計のシングルロッドリンケージが採用され、長さを短縮して重量を0.6kg削減。本体をブッシングではなくニードルベアリングで装着することで、摩擦を低減してタイヤグリップ向上に貢献

これにより入力量の変化に対する反応の速さや、調整範囲の広さが向上。もちろん、制御はライディングモードと連動して変更。固定セッティングモードも選べる。

V4Sのフロントフォークは、2022年型以降と同じくレース用から派生したオーリンズ製加圧タイプをベースとする電子制御タイプだが、これまでのNPX 25/30からNPX 30に進化されている
V4Sのフロントフォークは、2022年型以降と同じくレース用から派生したオーリンズ製加圧タイプをベースとする電子制御タイプだが、これまでのNPX 25/30からNPX 30に進化されている

前後連動ブレーキに加えてポストラン機能搭載のレースeCBS

新型パニガーレV4シリーズは、ボッシュ社との共同開発によるレースeCBSコンバインドブレーキシステムを市販車初採用した。アンチロック機能を備えた複合ブレーキシステムにより、制御がアクティブの状態でフロントブレーキを掛けると、自動的にリアブレーキが作動。7レベルのうちレベル1~5はサーキット用、レベル6~7は公道用となっている。

フロントブレーキキャリパーは、スタイルマの進化系となるブレンボ製モノブロック構造のハイピュア仕様。革新的な非対称設計で、片側30gの軽量化も実現された。未入力時の引きずりも軽減。ディスクはφ330mmだ
フロントブレーキキャリパーは、スタイルマの進化系となるブレンボ製モノブロック構造のハイピュア仕様。革新的な非対称設計で、片側30gの軽量化も実現された。未入力時の引きずりも軽減。ディスクはφ330mmだ

このうちレベル1は、リアブレーキに最大の圧力がかかり、ポストラン機能が起動。減速ではリアブレーキが自動的に作動してフロントの荷重移動を制限して安定性を高め、進入から旋回の段階ではポストラン機能により、フロントブレーキのリリース後もリアブレーキ圧を短時間維持して、プロの走りを再現する。

レベル3はポストラン機能なし、レベル2とレベル4は前後連動機能がキャンセルされ、レベル5ではスライド・バイ・ブレーキが有効となる。公道用は、よりリアリフトを抑制し安定性を高める制御だ。

φ245mmのリアブレーキディスクは、厚さ0.5mm減で80g軽量。リアブレーキのフルードリザーバータンクをマスターシリンダーに統合し、これも軽量化につなげる
φ245mmのリアブレーキディスクは、厚さ0.5mm減で80g軽量。リアブレーキのフルードリザーバータンクをマスターシリンダーに統合し、これも軽量化につなげる

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