【ドゥカティ スーパーバイクの軌跡】受け継がれてきた最速の遺伝子
スーパーバイク世界選手権での勝利のために進化してきた、ドゥカティのフラッグシップシリーズがスーパーバイク。35年以上の歴史を持つこのカテゴリーでの成功がなければ、現在のような幅広いカテゴリーでの躍進はあり得なかったかも……。
エンジン生産を皮切りに’46年から二輪車の分野に進出したドゥカティは、草創期からレース活動に積極的だった。’72年にはロードレース世界選手権から一度撤退し、’74年には単気筒エンジンの生産からも手を引いたが、その後も空冷Lツイン(90度V型2気筒)エンジンでレースに臨んできた。
しかし’80年代中盤、ドゥカティは空冷2バルブでのレース参戦に限界を感じるように。またこの時期、経営不振の打開策も模索していた。
そのため急ピッチで開発されたのが、水冷4バルブ+フューエルインジェクションの新型エンジン。’86年の748ccから翌年には851ccに拡大され、プロトタイプレーサーを経て、’87年秋に851として市販車が正式に披露された。
ちょうどその翌年、つまり851のデビューイヤーから、マシン改造範囲をある程度制限した市販車ベースのスーパーバイク世界選手権(SBK)がスタート。851の使命は、2気筒で日本勢の4気筒に対抗して成功を収め、これを市販車の販売にもつなげることだった。
シリーズタイトル獲得こそ3年を待たなければならなかったが、ドゥカティは開幕戦でいきなり勝利するなどの強さを発揮。スーパーバイクでの活躍をセールスにもつなげた。
これ以降、ドゥカティにとってのスーパーバイクは、ブランドを象徴する欠かせない存在となり、それぞれの世代に多くのドラマが生まれたが、中でも重要な役割を果たしたのは、916シリーズとパニガーレV4シリーズ。
916系でのレースと商業的な大成功がなければ、’03年からMotoGPに挑戦するための土台を築けなかっただろうし、その後のMotoGPにおける躍進があったからこそ、パニガーレV4での水冷V4化というドラスティックな刷新を実現させやすかった。
ドゥカティ・スーパーバイクは、レースと密接に関係しながら、最速の遺伝子を脈々と受け継いできた。〝次のパニガーレ〞も、その歴史の中に成り立つのだ。
第1世代 1988|851:SBK参戦のために生まれたドゥカティ初の水冷エンジン
市販車は1987年秋のミラノショーで初披露。水冷DOHC4バルブLツインエンジンを、鋼管トレリスフレームに搭載する。
初代の1988年型には、公道用の851ストラーダとは別にレース用の851キット(レーシング)が存在。
以降、スタンダードと特別仕様(SPやSPSなど)の併売が続けられた。1990年の851 SP2は、ボアの2mm拡大により851→888㏄化を達成。
1993年型でストラーダも888となり、翌年まで販売された。
第2世代 1994│916:タンブリーニの手による革新的デザインも話題に
コンパクトかつエレガントな車体設計で世界に衝撃を与えたのが、851系の後継として1994年型で登場した916。
フレームやエンジンの形式はまるで異なるが、開発には当時の親会社だったカジバがGP500マシンで得たノウハウも使われている。
設計&デザインはマッシモ・タンブリーニらが担当。
1999年に996、2002年には998に進化し、2004年にファイナルエディションの生産が終了されるまで多数のバリエーションが生まれた。
第3世代 2003│999:縦2眼ヘッドライトやCADを駆使した設計が斬新だった
2003年型で誕生した999系は、ピエール・テルブランチの手による異彩を放つデザインに。
2001年型996Rで初採用された、バルブ挟み角が狭くてさらなるショートストローク化が追求されたテスタストレッタエンジンをベースに、数々の改良が加えられている。
916系では片持ちだったスイングアームは両持ち式に。整備性向上などもテーマとし、ライダーフレンドリーな特性を実現、レースでも活躍したが、販売面では苦戦した。
第4世代 2007│1098:ハンドリングを改善しさらなる軽快感を追求した
999シリーズは2003~2006年型の短命に終わり、その後継として2007年型から発売されたのが1098シリーズ。
テスタストレッタ・エボルツィオーネに改良されたエンジンは1099㏄となり、SBKのレギュレーション変更を受け2008年型で投入された1098Rでは1198ccまで引き上げられた(他の仕様は2009年型から1198に)。
デザイナーのジャンアンドレア・ファブロが現代版916の設計を成功させ、販売台数も回復した。
第5世代 2012│1199 Panigale:トレリスフレームを廃しモノコック構造を採用
2012年型で導入された1199パニガーレシリーズでは、フレームを伝統の鋼管トレリス構造からアルミモノコック構造に刷新。
水冷Lツインは、カム駆動がこれまでのベルトからチェーンに変更され、1198系とほぼ同排気量のまま極端にショートストローク化されたスーパークアドロとなった。
2015年型では、1285ccに排気量が拡大された1299パニガーレシリーズに進化。本国仕様はついに200psを突破した。
第6世代 2018│ Panigale V4 S:伝統の設計を刷新して4気筒時代が到来!
2018年型からはV型4気筒エンジンを採用。排気量こそ異なるが、ピストン径や点火タイミング、逆回転クランクシャフトの採用など、デスモセディチ・ストラダーレエンジンにはMotoGPマシン技術が多く使われ、初代V4/Sは当時の量産二輪車史上最高となる214psを達成。
アルミモノコックを進化させたフロントフレーム、2020年型でウイングレットを新採用するなど、2022年型では各部熟成が施された。