元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座/エンジンオイルを交換する
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
リアタイヤを自分で脱着できるようになると、いよいよ整備中級者へステップアップです! バイクにはタイヤより大きな部品はありませんから、サンデーメカニックのゴールと言えるでしょう。走行距離が多いライダーにとって、タイヤ交換の出費は無視できません。自分でホイールを外して持ち込み、タイヤ交換すれば工賃を抑えることができます。
またチェーンやハブダンパ、パッド交換、足まわりの清掃など、自分でできることが格段に増えます。浮いたお金を豪華なランチに使えば満足度もアップ。自分で整備した愛車での走りはまさにプライスレスです。
必要な工具はアクスルナットサイズのソケット(またはメガネレンチ)、スピンナハンドル、150Nm対応のトルクレンチです。もしトルクレンチが無く、メガネレンチのみで脱着する場合は、最初に左右アクスルブロック、左右シャフトの端面、ナットに、それぞれ12時の位置にマジックなどでマーキングをします。
これは組立時に全ての部品を同じ位置と順序、向きに揃えるためです。作業の最後にナットを締め付ける時、シャフトとブロックに打ったマーキング位置までナットを締め付けます。すると、分解前と同じ設定のトルク値まで締め付けられるのです。
ただしこの方法はトルクレンチよりも正確性に欠けます。トルクの高いアクスルナットは少しの回転角のズレで軸力が大きく変化するため、マーキングの打ち方がアバウトだったり、各部品の位置関係と向きが異なっただけで軸力(トルク)は簡単にズレます。基本的にはトルクレンチの使用がオススメです。
長期間ホイールを外していないと、部品がサビなどで固着している事があります。その場合はまず、ナットを緩めてシャフトの端面とナット上面を合わせます(ツラ合わせ)。次にナットを掌底、もしくはプラハンで軽く叩きます。
するとシャフトがスルスルと抜けます。この時ナットで保護せずにプラハンでシャフトのネジ部を叩くと、ネジ山を痛めてしまいます。掌底する場合も面積が小さすぎるため、手を痛めやすいです。
次にチェーンを外します。この時、チェーンアジャスターボルトは触らなくてもOK。シャフトを刺した状態でアクスルブロックをスイングアームから外します。するとブロックの厚み分シャフトが前に押し出され、チェーンがたるんで外れます。
この後が苦労しやすいポイントです。タイヤの下に木片などを置いていないと、キャリパーなどの部品にタイヤの重量が乗ってしまい、上手く外せません。また外したチェーンをスイングアームに掛ける必要があります。
そのままタイヤを抜こうとすると、スプロケットボルトの頭にチェーンが引っかかって外せないばかりか、スイングアームに大傷を入れてしまう可能性もあります。ここはガムテープ等で養生しておくと◎。ホイールを外したらサイドカラーを忘れずに外してください。
今度はホイール装着です。よくある失敗例は、ドリブンフランジ(リアスプロケットの土台)がハマりきっていない事です。これだとホイールの軸部分の幅がスイングアーム内寸より大きくなってしまい、装着できません。ハマっていない事が分かりにくいのでよく起こります。
これを避けるために、まずホイールを水平な地面に置き、ハブダンパを外方向に寄せてガタを詰めてドリブンフランジを入れます。両手で全体を均等に叩いて入れましょう。カラーが着座すると「ゴンゴン↓カンカン」と金属音に変化します。サイドカラーを忘れず装着して、ホイールをスイングアームの間に入れます。この時、少しでもリアタイヤが斜めになると入らないので注意です。
ブレーキキャリパーの脱落対策をすると作業が楽に
車種によっては、キャリパー&ブラケットの脱落防止対策をすると、ホイールを傷付ける可能性を低減できます。また装着する際も落下を心配する必要がなくなり、チェーン掛けなどの作業に集中でき、その結果整備の精度と時短が可能になります。
写真の青い脱落防止ホルダーはMOTO-ACE Store(https://motoace.official.ec/)で販売中(SC88、SC77用)。チェーンアジャスターボルトを使ってブラケットを保持する機構になっています。
リアホイールの外し方【CBR1000RR-Rの場合】
木片などをタイヤの下にかます
アクスルシャフトを上手く抜くには、シャフトが貫通している全ての穴の高さ揃えるのがコツです。
タイヤの重さによってズレる量をなるべく小さくして下さい。
強く締まっているので長めの工具を使いたい
135Nmなんて巨大トルクが指定される事もあるアクスルナット。
1/2サイズの長いスピンナハンドルを1本用意したいです。3/8サイズでは緩められないことも。
ナットを外す前にアクスルシャフトに掌底する
アクスルシャフトは固着する場合が多いので、ナットとボルトの面を合わせたら掌底orプラハンで叩く!
シャフト先端をハンマリングするとネジ山を痛めるので厳禁。ナットで保護します。
後輪を前に押し出してチェーンを外す
少しアクスルシャフトを押し出し、左右のブロックを外したら、ストッパーボルトまでアクスルシャフトを前に押します。
するとチェーンが弛んでスプロケットから簡単に外す事ができます。
アクスルシャフトを抜いたらサイドカラーの紛失に注意
サイドカラーはホイールを外した直後に外して保管します。
これを忘れるとホイールを移動させている途中、知らぬ間に外れて行方不明になってしまいます。すぐに外して保管して下さい。
リアホイールを後ろに引き抜く
ホイールを後方に真っ直ぐに抜き、ディスクをキャリパーから外します。
次にディスクをキャリパーに当てないよう、ホイールを後方から見て右側(上端を2時の方向)へ傾けて抜きます。
ホイールハブ脱着の手順
両手で引き抜けばハブは外簡単に抜ける
サイドカラーを外し、ホイールを地面に置いた状態でスプロケットを真上に抜きます。
硬いゴムの感触がありますが、根気よくグリグリしながら引っ張ると、ドリブンフランジが外れます。
ハブダンパを外して状態を確認する
ハブダンパは消耗品で、劣化が進むと痩せたり亀裂が入ったりします。
ドリブンフランジがスポッと抜けたら要注意! 痩せるとスロットルOFF-ONの操作感に悪影響を与えます。
ハブダンパを中心から遠ざける方向に寄せてガタ詰めする
挿入スペースを広げるため、ホイールを地面に置いた状態でハブダンパを外周方向へガタ詰めします。
ホイールを立てているとダンパが中心へ寄ってスペースが狭くなり、入りません。
両手で叩いてしっかりはめる
ドリブンフランジをダンパケースに上手くハメるコツは「均等に叩く」です。ダンパを縮めながら入れるのでそもそも入りにくい構造。
両手で均等に真っ直ぐ叩く事で上手く入ります。
装着時のコツ
キャリパーのパッドを開くと装着しやすい
パッドを0.5mm程度広げておくとGOOD ! ディスクがパッドの中に簡単に入ってくれます。
パッドを開くツールが無い場合は、平たい工具でパッドに傷をつけないよう開いてください。
サイドカラーは正しく装着しないと入らない
サイドカラーをスイングアーム内側に入れるのは難関。ポロッと落ちる理由は、ホイールが斜めになっているかフランジが入り切っていないどちらか。
落ち着いて観察し、見極めて下さい。
ホイールは足で持ち上げて入れる
ホイールを右足で持ち上げ、高さを調整します。全ての高さが揃えばシャフトはスルスル入ります。
また斜めになっていない事も要確認。隣り合う部品同士のセンターを確認して下さい。
グリスを塗る場合はナットとワッシャの間に
ワッシャ両面へのグリス塗布はNGです。ナット座面と接触する面だけに塗布して下さい。
ワッシャとナットの間が滑る事で車体の傷付きを最小限に食い止め、摩擦を長く安定させられます。
トルクレンチで正しくトルク管理を
本文ではマーキングによるトルク管理の方法も紹介しましたが、これはあくまでもトルクレンチが無い場合の緊急手段。
後輪は高トルクがかかる部分なので、トルクレンチで管理が基本です。