【しっかり止めて、しっかり曲がる/トレイルブレーキで速くなるPart:02】ブレーキレバーは握らずに触る
ブレーキを引きずったまま、コーナーに進入する「トレイルブレーキ」は、スポーツライディングの必須テクニックだ。多くのメリットを持つ技だが、正しい知識と的確な練習法を知らなければ、ただ怖い思いをするだけになる。なんとなくブレーキを引きずるのではなく、その意味を確実に理解したい。
PHOTO/S.MAYUMI, Red Bull, Ducati, Yamaha, Honda TEXT/G.TAKAHASHI 取材協力/本田技研工業 0120-086-819 https://www.honda.co.jp/motor/ デジスパイス https://dig-spice.com/jp/
止まるのは曲がるため。曲がるのは加速のため。
レーシングライダーは、「止まる」という言葉を使う。「あのコーナーで止まれないんだよ」とか「あの人、止まれてないよね」といった感じだ。
実はこれ、おかしい。コース上で「止まる」のは転倒かトラブルなど、緊急事態が発生した時だけのはずだ。
実際には止まらないのに、頻繁に使われる「止まる」という言葉。その意味を正確に表すなら、「曲がれる速度まで減速すること」だ。
つまりサーキット走行における「止まる」とは、曲がることを意味している。「止まれていない」とは、「曲がれていない」ということだ。そしてここが大事なポイントなのだが、曲がることの目的は、曲がることではない。禅問答のようだが(笑)、これは真実だ。「曲がる」とは、ただコーナーをなぞることではない。「加速できる体勢になること」だ。
もっと丁寧に言えば、「安全に加速できる体勢を整えること」である。
タイヤがふたつしかないバイクは、加速にリスクが伴う。体勢が整っていない││つまり曲がり切っていない状態で無理に加速すると、コーナーのアウト側にはらんだり、ハイサイドでフッ飛んだりする。
「加速できる体勢」とは、バイクがしっかりとコーナーの出口方向を向き、バンク角が必要以上に深くない状態だ。その状態になるために必要なのが、トレイルブレーキである。
トレイルブレーキを行うと、その間、フロントタイヤには常に荷重がかかる。ブレーキがかかることでフロントフォークの内部でスプリングが縮む。それが伸びようとする作用が、フロントタイヤを路面に押しつけるのだ。また、フロントフォークが縮むことで車体姿勢も変わる。キャスター角が立ち、旋回性が高まる。
この理屈は、これまでに本誌記事でもたびたび解説されているし、皆さんも重々承知していることだろう。だが改めて、「トレイルブレーキは、よりよく曲がり、より安全に加速するためのテクニックだ」と頭の隅に置いておけば、前ページで記したような怖さが解消されるはずだ。
今回はデータロガーを積んだCBR1000RR-Rを編集部フジタ氏と私で走らせ、走行データを集積してみた。
ラップタイムにかなりの差があるため、各コーナーでの車速自体はあまり参考にならないが、注目してほしいのは私の方がブレーキをかけている時間(トップスピードからボトムスピードに至るまでの時間)が長く、コーナーのより奥の方でボトムスピード(最低速度)になっているということだ。そしてスピード自体は私の方が高いのに、より安全なラインで加速できている。
つまり、スピードが高い私の方が止まれていて、低いフジタ氏の方が止まれていない、ということになる。トレイルブレーキによって加速体勢が整っているかいないかの差が、はっきり表れている。
筑波サーキット・コース1000
全長約1000m。ブラインドコーナーがなく練習に最適で、各種走行会が多数行われている。今回は貸し切りで四輪レイアウトを使用。
1コーナー
ゆるやかに右に曲がった253mのホームストレートを経て、ほぼ直角に曲がる25Rの1コーナーへ。筑波コース1000の中では減速度が高い。
3コーナー
16Rの右ヘアピンコーナー。すぐに右26R、さらに右コーナーが続くため、これを見越し3コーナーの立ち上がりのラインはアウト寄りになる。