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【しっかり止めて、しっかり曲がる/トレイルブレーキで速くなる Part:04】減速Gに耐えながら繊細に操作する

ブレーキを引きずったまま、コーナーに進入する「トレイルブレーキ」は、スポーツライディングの必須テクニックだ。多くのメリットを持つ技だが、正しい知識と的確な練習法を知らなければ、ただ怖い思いをするだけになる。なんとなくブレーキを引きずるのではなく、その意味を確実に理解したい。

【青木宣篤】
2022年、50歳で現役を引退するまで長きにわたりレーシングライダーとして活躍。現在は全国を駆け巡りながらライディングの真髄を伝授する日々。スポーツバイクを限界まで攻め立てるスパルタンな走りは、今も現役さながらの切れ味を見せる
PHOTO/S.MAYUMI, Red Bull, Ducati, Yamaha, Honda
TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/本田技研工業 0120-086-819 
https://www.honda.co.jp/motor/
デジスパイス 
https://dig-spice.com/jp/

重なり合う制動と旋回、体さばきが極めて重要

ブレーキングが難しく、怖ささえ伴うのは、減速Gにより大きな力が加わるからだ。姿勢は前のめりになり、不安定に感じることもある。そんな状況下で、指先を細やかに動かすのがトレイルブレーキである。

トレイル「ブレーキ」と銘打ってはいるものの、実際に行うのはブレーキをかけるのではなく、離す作業だ。しかも、単純にスパッと離すのではなく、フロントタイヤと相談しながら、ブレーキの離し方をコントロールすることが重要になる。これは非常に繊細な操作だ。

さらに、ブレーキングとはコーナリングへの準備である。まずはソフトタッチのブレーキングでスピードを落とすことを習得し、その次のステップとして、ブレーキをかけたままコーナーへ進入し、コーナリングしながら徐々にブレーキを離していく。つまり、ブレーキングとコーナリングはオーバーラップすることになる。

ここが、交通教本に記載されている公道ブレーキングとの最大の違いである。公道では、直立状態でブレーキングを終え、その後にコーナーへ進入するのが基本。つまり、ブレーキングとコーナリングは完全に分離されている。路面状況が分からない公道では、これは確かに安全で理に適った方法だ。

しかし、サーキットでは事情が異なる。何周も走ることで路面状況を把握でき、さらに向上心を持ってライディングを行う場である以上、ブレーキングとコーナリングを分離したままでは、ライディングスキルの向上は望めない。

これは、バイクという乗り物のダイナミクスがそのように設計されているためだ。ブレーキングによる制動Gを利用して高い運動性能を発揮するように作られており、サーキット走行では、ブレーキングとコーナリングをオーバーラップさせることで、より安全かつ効果的なライディングが可能になる。

強大な制動Gに耐えながら、精細な指先の操作を行い、同時にコーナリングの動作へと移行しなければならないライダーの負担は大きい。しかし、コーナリングに向けても制動Gをフル活用することが必要になる。

具体的には、コーナリング時にイン側のハンドルを押し込む動作が必要になるが、この際、制動Gを活用することでよりスムーズに操作できる。肘をロックすることで制動Gをハンドルに伝え、最終的にはフロントタイヤをコントロールすることで、車体をバンクさせる。強大な制動Gを活かすことで、人力だけでは難しい操作を確実に行うことができる。

このように、ネガティブに思える制動Gを無駄なく活用し、それに合わせて自分の体を効果的に使うことが、トレイルブレーキを成功させる鍵となる。そのためには、下半身でバイクをしっかりとホールドすることが重要であり、これが恐怖心の軽減にもつながる。

ライディングでは、心・技・体のすべてをバランスよく連携させることが求められる。それこそが、トレイルブレーキの真骨頂である。

引っ張られて動く程度の弱さを覚える

「触れるブレーキ」ができているかは、ニュートラルでバイクを前から引っ張ってもらうと分かる。人が引っ張れなければ、ブレーキを握りすぎ。ジワジワと動かせる程度でいい。

やってみると分かるが、かなり微妙だ。減速Gに耐えながら、これをコントロールする。

アジャスターを積極活用

指は何本でもいいが、繊細に操作しやすいのは第1関節にレバーがかかっている状態。調整機構が付いているバイクなら、積極的に活用したい

指のかけ方はその人次第

多くのライダーが気にする指のかけ方だが、まるでこだわらないのが青木さん流。人によって手の大きさが違うからだ。

4本から1本まで、1本の場合は人差し指でも中指でも、自分がコントロールしやすければ何でもOK。

肘をロックし制動Gをフロントタイヤに伝える

肘を張るようにロックすることで、制動Gを活用できる。肩から腕を通じてハンドルにより強い入力が可能だし、さらにハンドルからサスペンションを経由してフロントタイヤに荷重をかけられる
肘を張るようにロックすることで、制動Gを活用できる。肩から腕を通じてハンドルにより強い入力が可能だし、さらにハンドルからサスペンションを経由してフロントタイヤに荷重をかけられる
曲がった肘はサスペンションのように作動するので、ハンドルに伝えたい制動Gを吸収する。スピードが低い公道ならOKだが、サーキットには不向きだ
曲がった肘はサスペンションのように作動するので、ハンドルに伝えたい制動Gを吸収する。スピードが低い公道ならOKだが、サーキットには不向きだ

ガッチリと下半身ホールドすることがトレイルブレーキの出発点

①制動Gはかなり強力。体が前に持って行かれないように下半身ホールドもかなりの力を込める。タンクと内モモの間に手が差し込めないぐらいニーグリップする
制動Gはかなり強力。体が前に持って行かれないように下半身ホールドもかなりの力を込める。タンクと内モモの間に手が差し込めないぐらいニーグリップする
②コーナーに向けて車体が傾くにつれて、徐々にイン側に体を落とし遠心力とバランス。ヒザを出すことを意識しすぎるあまり、下半身ホールドを忘れないように
②コーナーに向けて車体が傾くにつれて、徐々にイン側に体を落とし遠心力とバランス。ヒザを出すことを意識しすぎるあまり、下半身ホールドを忘れないように
③上体は徐々に低く構える。体の落ち方が増すのに合わせて、ヒザは自然と前方に出るはずだ。ブレーキングも、肘ロックによる強いハンドル操作も続いている
③上体は徐々に低く構える。体の落ち方が増すのに合わせて、ヒザは自然と前方に出るはずだ。ブレーキングも、肘ロックによる強いハンドル操作も続いている
【後ろに座りすぎると腕に力が入らない】制動Gに耐えることを意識して、おしりを後ろに引きすぎ。制動時にあまりに上体が低いと、腕に適度な力を入れられない
【後ろに座りすぎると腕に力が入らない】制動Gに耐えることを意識して、おしりを後ろに引きすぎ。制動時にあまりに上体が低いと、腕に適度な力を入れられない
【腕で体を支えないと悪循環が発生……】腕に力を入れないと、体が前に持って行かれる。するとヒザが必要以上に開き、下半身ホールド力が不足するという悪循環
【腕で体を支えないと悪循環が発生……】腕に力を入れないと、体が前に持って行かれる。するとヒザが必要以上に開き、下半身ホールド力が不足するという悪循環

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