【Historic Bikes/HONDA CBR1000RR SP】1度は乗ってみたい、ハイパフォーマンス4気筒
急激に電子制御化を進めるライバルを横目に劣勢を強いられてきた、ホンダのスーパースポーツ「CBR1000RR」がついにモデルチェンジを受けた、果たしてそこに込められた進化はどれほどのものなのか? 上級グレードに当たる「SP」のインプレッションを通して検証していこう。
取材協力/本田技研工業 0120-086-819
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PHOTO/K.OHTANI, T.FUCHIMOTO, N.SHIBATA TEXT/T.ITAMI
※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。
すべてのスペックが引き上げられながら快適性もまったく失われていない
ようやく、と言っていいだろう。ホンダのCBR1000RRがモデルチェンジを受け、3月からリリースが開始されている。センターアップマフラーを廃し、今に引き継がれるダウンタイプのマフラーが採用されたのが、2008年型のこと。通称SC59型と呼ばれたそれは、途中で大小さまざまな改良が加えられながらも基本構成を変えないまま、2016年モデルまで継続された。
それが今回、SC77型へと型式名を変更。つまり、これにて待望のフルモデルチェンジが敢行されたことを意味し、9シーズンに渡って第一線に立ち続けてきた旧CBRは、その役割を新型へと受け渡した。「ようやく」というのは、そういう意味に他ならない。
その9年の間、スーパースポーツ界は目まぐるしく変化した。最初の衝撃は2009年に登場したアプリリア・RSV4だ。各種ライディングモードやエンジン搭載位置の可変システムを備えていたそれは、ファクトリーマシンさながらの作り込みで新時代を切り開き、やがてBMW・S1000RRがその流れに追随した。
そして、近年で最も話題になったのがヤマハ・YZF-R1Mに盛り込まれた電子デバイスの完全フル装備だった。そのインパクトはカワサキにもスズキにもドゥカティにも影響を与え、「最高出力200ps&車体重量200kg&IMU(慣性測定装置)が揃っていてこそ、スーパースポーツ」という流れが、わずか2年ほどの間に完成したのである。
一方のホンダは頑なだった。とりわけ国内向けモデルに関しては、「お好きな人はどうぞ逆輸入のフルパワー車に乗ってください」という態度をよしとせず、パワーを大幅に制限してでも専用セッティングの、つまり日本の規制を真っ向からクリアしたCBRを作り続けた。それこそが、二輪における世界No.1メーカーとしての企業努力であり、責任だったからだ。
ところが、いわゆるユーロ4規制が2016年秋から施行されたことで、再び流れが変わった。国によって仕様を作り分ける必要性が基本的になくなり、極めて単純に言えば欧州と同じフルパワー車に日本でも大手を振って乗れることになったのだ。CBRはまさにそのタイミングでモデルチェンジが図られたのである。
ホンダとて、なにも放置していたわけではなく、最善の機を待っていたということだろう。実際、ライバルメーカーに対して劣勢を強いられてきた期間を取り戻すべく、あらゆる部分が見直され、刷新された証は車体の隅々にまで及んでいる。
新たなCBRの開発に際して、まずシンプルな指標が掲げられた。それが、通称ファイアーブレードと呼ばれた初代CBR900RR(1992年)への原点回帰である。
言い換えれば、それは徹底した軽量化を意味する。CBR900RRの車重はカタログスペックで185kg(乾燥重量)。これは中型クラスとほぼ同等で、当時のリッタースポーツと比較すると40〜50kgほども軽かった。排気量拡大による絶対的パワーではなく、軽量化によって運動性を高めるというそのコンセプトは世界中のライダーに称賛され、最終的にはCBR954RR(2001年)へと進化を遂げた。
では、新型CBRは旧型比でどれほど軽くなり、どこを削り取っていったのか?
分かりやすい数値を出すと、2016年型CBRに対して実に16kgのダイエットを実現。装備重量は195kg(ガソリン満タンの走行可能状態)に抑えられ、これはドゥカティのスーパーレッジェーラといった一部の特殊なモデルを除けば、スーパースポーツの中で最も軽い。つまり、その開発コンセプトは見事に達成されたのだ。
実はフルモデルチェンジとは言うものの、エンジンとフレーム、スイングアームといった車体の基本構成パーツは従来のものがベースになっている。そこで、グラム単位で削るべきところは削り、かと思えば根本的な設計変更によってキロ単位で軽くするなど、さまざまな手段が用いられた。
中でも印象的なのは、燃料タンクとマフラーにチタンが採用されたことだ。この効果は大きく、この部分だけで4kg以上の軽量化に成功。他にも、バッテリーのリチウムイオン化や外装のコンパクト化など、結果的に車体全体の68%ものパーツが見直された成果が、マイナス16kgという数値をもたらした。
そしてもうひとつ。軽量化によって高められた運動性をサポートするために盛り込まれたのが、最新にして最良の電子デバイス群だ。これはもう、今考えられるあらゆる装備の全部載せと言ってもいい。
比較対象として、あのRC213V-Sを挙げると分かりやすい。というのも、スロットルレスポンスが5段階の中から選べる「パワーセレクター」、トラクションとホイールのリフト量を9段階(OFFも可能)に調整できる「セレクタブルトルクコントロール」、エンジンブレーキの強弱を3段階に変化させられる「セレクタブルエンジンブレーキ」といった制御は、RC213V-S由来のものだからだ。
しかし、減衰力が自動的に変化し、その強さも選べるオーリンズの「スマートECサスペンション」や「コーナリングABS」、シフトダウンの際にクラッチレバーの操作が不要な「クイックシフター」はCBR独自のもの。この事実だけでも、オーナーの心は満たされるに違いない。
さて、一体それらはどんな走りをもたらしてくれるのだろう。
ホンダの逆襲は達成されるか!? その答えはまだこれからだ
伊丹:軽くなりましたね、明らかに。押し引きの際の手応えもそうですが、ハンドリングという意味でも旧型とは明らかに違います。結果的に車体がコンパクトに感じられ、一体感が格段に高いですね。
宮城:フィーリングの違いは、パワーが比較にならないほど上がっていることも大きく影響している。旧型比で69㎰増の192㎰でしょ。それはもうまったく別の乗り物だよね。実際の加速性能もさることながら、ドライブ感っていうのかな。排気音がかなり刺激的なことも手伝って、すごいスペックのバイクに乗っている感覚に浸れるから、満足度は高いと思う。
ひと昔前のホンダは「馬力競争はしない」と言っていた。にもかかわらず、やっぱり世の中のニーズにも応えなくてはいけないから、このスペックも必要だったんだろうね。もちろん、それをフォローできる電子制御があってのことだけど。
伊丹:ライバルが軒並み200㎰に達している中、192㎰に留めたあたりにホンダの良心を感じますし、本当にそれが必要な人は「SP2をどうぞ」ということですね。
宮城:エンジンに関してはパワーもさることながら、スロットル開け始めのナチュラルさに感心した。これはホンダのスポーツバイクの中で最良と言ってもよく、他のモデルにもフィードバックされていくだろうね。そういう躾の良さはどのモードにも共通しているから、僕はどんなステージでも最も穏やかなMODE3でいいと思えた。無理にアグレッシブさを演出するわけでも、必要以上にマイルドに振るわけでもなく、すべての電子デバイスが関連し合いながら扱いやすさを引き上げる。そういうバランス感覚がCBRのいいところ。
そういう意味で、他のスーパースポーツとは明確にスタンスが違っていて、決してレーシングバイクのイメージでは作っていないね。
伊丹:SPと名のつくような上級グレードの場合、一般的にはサーキット色が強くなりがちですが、むしろ路面が濡れていたり、雪が残っているような悪いコンディションになるほど、電子制御サスペンションやトラコンがもたらす安心感に包まれますよね。そういう間口の広さに、ホンダの言う「トータルコントロール」の意義があるのでしょう。
宮城:なにより大切なのは、今回のモデルチェンジによってユーザーが望むものがすべて揃えられたという事実。これがホンダの回答であり、まさにフルコースと言える内容だから、他メーカーのスーパースポーツに対してどれくらい勝っているかはいずれ検証したいね。
伊丹:少なくとも、これまで我慢してきたホンダファンには待望の1台。それにふさわしい仕上がりになっているのは間違いありませんね。
エンジン | 水冷4ストローク並列4気筒 |
バルブ形式 | DOHC4バルブ |
総排気量 | 999㏄ |
ボア×ストローク | 76×55.1mm |
圧縮比 | 13:1 |
最高出力 | 192㎰/13000rpm |
最大トルク | 11.6㎏f-m/11000rpm |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | アルミツインスパー |
装備重量 | 196kg(195kg) |
キャスター/トレール | 23° 20′ /96mm |
サスペンションF | テレスコピック倒立 |
R | ユニットプロリンクモノショック |
ブレーキF | ダブルディスク |
R | シングルディスク |
タイヤサイズF | 120/70 -17 |
R | 190/50 -17 |
全長×全幅×全高 | 2065×720×1125mm |
ホイールベース | 1405mm |
乗車定員 | 2人(1人) |
シート高 | 820mm |
燃料タンク容量 | 16L |