【青木宣篤のサーキットスタイル】エキスパートの流儀:準備編
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例え同じようなバイクでも、例え同じようなペースでも、何かが違う。サーキット走行会で先導にあたるエキスパートライダーたちは、ただものではない。彼らはいったい何を準備し、何を考え、いかにバイクを走らせているのか。そしてライディングに対する向き合い方は、私たち一般ライダーと何が違うのか──。ハイパフォーマンスモデルをものともせず、自由自在に操っている青木宣篤さん。彼の「サーキットでの1日」を解き明かすと、そこには珠玉のヒントが散りばめられていた。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/スズキ 0120-402-253
https://www1.suzuki.co.jp/motor/
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ハイスピードな世界だからこそ事前の下準備が重要になる
「レースは準備がすべて」とか、「サーキットに来る前に、8割方勝負は決まっている」などと言われる。過去、準備不足でいろいろと痛い目に遭ってきた私としては、まったくその通りだと強く思う。
私の場合、レースというモロに結果が出る世界に身を置いていたから、なおさら準備の大切さを実感しているのだが、サーキット走行会でも基本的には同じことだ。多くのクラスに分かれている走行会は細かくタイムスケジュールが区切られていて、意外と慌ただしい。丸1日の走行会だとしても、のんびりしていられるのはお昼休みぐらい。あとは常に時計とのにらめっこだ。
だから事前の下準備が不足していると、当日のピットでドタバタしてしまうことになる。私ほどの経験があれば、あわててピットアウトしても走りには1mmも影響しない……と言いたいところだが、現実はそう甘くない。サーキットはハイスピードな世界。少しでも気がかりな部分があると私でも走りに集中できないし、ミスをする可能性が高くなっていることを感じる。
バイクの整備は前日までに済ませておくべきだし、ここで紹介したコース図のチェックなどもできるだけ事前に行っておきたい。サーキットに到着したら、「あとは走るだけ」という状態にしておくのがベストだ。
バイクのチェック
サーキットを走る際は、その前日までにキッチリと整備しておくのが基本中の基本だ。
サーキットに到着してからは意外と慌ただしいので、最終チェックで簡単に済ませられるようにしておきたい。
空気圧を確認する
冷間時に車両メーカー推奨の空気圧に合わせて走り出し、走行後の温間時に上がった空気圧を再び推奨値に調整。
あとは食いつきに応じ、基本的には下げていく。走行会ではシビアに計測することはないが、確実に下げる方向だ。
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レバー調整
レバー操作はライディングの要。レバー調整は必ず行いたい。指の長さは人それぞれなので、「これが正解」という位置はない。操作しやすければOKだ。私は「走ってみてどうか」を重視し、走行後に調整している
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各種設定
エンジンモードは漢のフルパワー。トラコンはさすがに0というわけに行かず、2段階ほど介入させる。
一般の方には、もちろん推奨しない(笑)。特にトラコンは介入度を高めた方が安心。
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サスペンションセッティング
ガチのレースならともかく、走行会や試乗などではまずSTDのセッティングで走る。走ってみて気になる所があれば変更していくスタイル。STDは硬めの設定がほとんど。基本的には緩めていく。
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ライダーのコンディショニング
ライディングは、人の心と体を駆使して行うれっきとしたスポーツ。体作りは日常的なトレーニングを行っているものとして、サーキットでは主にメンタル面を整えることを意識。
イメージトレーニング
1周を思い起こしながら、「ここでブレーキ」「ここでスロットルオープン」とシミュレートするイメトレは、やっておくに越したことはない。走行中は、スピードに翻弄される。
あらかじめ脳内にイメージを刷り込んでおいて、とっ散らかりを防ぐ。
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コース図チェック
事前のコースチェックは欠かせない。イメージトレーニングと合わせて、どこをどう走るかをあらかじめ組み立てておくと、走行時に余裕が持てて、操作のミスを減らせる。
安心できる環境をできるだけ整えることを意識。
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リラックスを心がける
サーキットにいる間はずっと緊張している。失敗が怖いのだ。レースかイベントかで程度は違うが、胃が動かず、味もあまり感じず、食事というより栄養の摂取という感じ。
務めてリラックスを心がけるが、これが難しい。
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走行直前に集中力を高める
長くレースをしているので意識的に集中力を高めることはなく、走行直前は自然と集中している。リラックスする方がよほど大変(笑)
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