【青木宣篤のサーキットスタイル】エキスパートの流儀：走行編①

例え同じようなバイクでも、例え同じようなペースでも、何かが違う。サーキット走行会で先導にあたるエキスパートライダーたちは、ただものではない。彼らはいったい何を準備し、何を考え、いかにバイクを走らせているのか。そしてライディングに対する向き合い方は、私たち一般ライダーと何が違うのか──。ハイパフォーマンスモデルをものともせず、自由自在に操っている青木宣篤さん。彼の「サーキットでの1日」を解き明かすと、そこには珠玉のヒントが散りばめられていた。

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI
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サーキットとストリートは同じバイクでも別の意識で

一般ライダーの方たちと触れ合うたびに、実に多くの方たちが、サーキットと、ストリートはまったく別のステージであるという事実を理解していないように感じる。別のステージであることの最大の要因は、走る速度域だ。　

例えばペース。ストリートタイヤで街乗りする分には、特にタイヤを意識することはないだろう。今のタイヤは幅広い状況に対応できるし、ウォームアップ性能も高い。そして街乗りの速度域なら、高性能な今のタイヤならまず何も起きない。　

一方のサーキットでは、常にタイヤを意識しながらピリピリするべきだ。知らず知らずのうちに高い速度域で走っていて、知らず知らずのうちにバイクが寝ているから、いかに高性能タイヤでもいつ何が起きてもおかしくない。　

だからレクチャーでは、最初の3周はとにかくゆっくり走るよう、口酸っぱく注意する。ストリートとはまったく別の場所を、別の速度域で走ることを意識してほしいからだ。　

伏せることも同じだ。ストリートではそもそも伏せる意味があまりないが、サーキットではより大きく加速するために伏せることが基本中の基本となる。　

このように、サーキットとストレートは、まったく別。同じバイクでも、意識を大きく変える必要がある。

ペースメイク

3周は絶対に抑えて「手応え」を得てからペースアップ

「ハンドルからの手応え」、つまりグリップの高まりを感じるのは難しい。一般ライダーには、必ず3周は抑えるよう伝えている。3周すればタイヤは温まりグリップは高まっている。

ストレート

漫然と走ってしまいがちなストレートだが、ここも常に全力だ。加速で体が置いていかれないようにしっかりと車体をホールドし、きっちりと伏せることで空気抵抗を減らして最高速を稼いでいる。

「休憩ポイント」ではない

ストレートでひと息入れる……などという考え方は、私にはない。250ccあたりまでの小排気量車ならまだしも、ビッグバイクなら「必死にしがみついている」というのが真実。それだけ加速している。

回転数を意識

ベタ伏せながらも頭を上げ、前方を確認。メーターをしっかり読むほどの余裕。

ヒジは徐々に絞っていく

コーナー立ち上がりで強く加速している時は、ヒジを開き気味にして車体を押さえ込む。加速が安定して速度が高まるにつれてヒジを絞り、空気抵抗を減らしている。

しっかり伏せて筋肉に力を入れる

加速に耐えるために車体ホールドは不可欠。特にニーグリップはかなりの強度で行っている。だからワインディング走行（右）や街乗り（左）とサーキットでは疲労度が違う。

伏せることはスポーツライディングの基本

「伏せる」とは、ただ体を低くすることではない。サーキットでは結局、大きく加速することがターゲット。強い加速力に耐えるべく、「必死に」伏せているのだ。シートにも座らずできるだけ前方に体を持っていき、フロントアップを押さえている。