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【Historic Bikes/YAMAHA TZR250(1KT)】レーサーレプリカの本能が覚醒する

コーナーを攻めるライダーに最適なマシンが登場。その最大の特徴は、ワークスマシンYZR500(OW76)と直結した走行性能にある。単なるレーサーレプリカではなく、路面状況をダイレクトに伝える車体設定や人間の感性との調和が特徴。開発エンジニアもOW76と同一人物という徹底ぶりだ。

公道を駆けるレーサーのDNA

全開全力疾走。スクリーン越しにコーナーの入り口がみえてくる。超強力なフロントブレーキへ右手をかけざまに上体を起こす。フロントフォークが曲らんばかりの急制動の中、 たて続けのシフトダウン。

後輪荷重がほとんど前輪側へ移行してしまっているはずだというのに、リヤタイヤのグリップ感は確実に残されている。その証しとして、コーナー手前の路面の荒れを通過すると、マシンのテールが軽く身震いをする――まるでOW76だ・・・・・・

このYZR500と共通した素姓はまだまだ続く。乗り心地としては硬質の、路面の状況をライダーの両手両足、そして腰へ伝え続けるサスペンションの設定。これこそが、ほんのわずかなリーンアングルでも、ライダーの意志を見逃すことのない、シャープなハンドリングレスポンスを握る鍵なのである。

さらに17インチの慣性モーメントが適度に残されたフロントタイヤ。低速域でハンドルを切ると、126kgの軽量を疑いたくなるような反力を感じさせる手応えだ。このフロントまわりは、安定感を維持する復元力と、マシンが挙動を開始するときに進路変更のきっかけを与える以外、その存在を主張しない。

一気にリーンする。OW76そのままに、一瞬フロントが反応し、ほとんど同時にリヤタイヤの旋回力がマシンの動きを支配。シートの位置設定がかなり後方なため、ライダーが意識をしようとしまいと、シートへ外側の太
腿がはりつくようなポジションとなって、その体重は有効に後輪荷重を高いままにおく。 後輪ステアのバランスに入ったマシンは、大きな弧を描きながらコーナーのイン側へと向きを変えてゆく。

ピーク域のエンジンをスロットルON。旋回の意志をさらに強めたリヤタイヤと、マシンの方向性を安定する役割りに徹したフロントタイヤ。フルバンクでのシフトアップや路面の段差を通過するときでさえも、そのトレースラインが乱れることはない。

剛性の高いフレームに、パネの反発と減衰力とが互いの領域を守ることで得た路面追従性とスタビリティー。これらの高荷重を前提としたバランスは、ハイアベレージでも常に路面を蹴る実感を持続させる。すべてのレスポンスを、ライダーの意のままにおこうとするOW76の開発テーマが、量販車に具現化されたのである。

目的意識を明確に反映するために、相反する要素へ勇気をもって優先順位を与えてきた、 レーシングエンジニアならではの作品だ。

を得ることが唯一の目標となった。そのフォルムをGPマシンにイメージさせるレプリカをつくるのではなく、ピュアにつくろうとした結果が、YZR500と同じような構成になったのである。

もっとも、 究極の姿であるYZR500を直接開発していたのだから、最高至上のものといえばそのYZR500の構成を迷わずとるのは当然といえば当然であろう。

レーシングマシンの公道版? 何やら非現実的なマシンをイメージされたとしたら、それは間違いである。YZR500は、 確かに300km/hなどというとてつもないパフォーマンスを得ているが、レースに勝つにはトータルバランスを身につけている必要が絶体的に大きい。

ただパワーがあって軽ければ、などという単純な要素ではどうにもならないのだ。その象徴的なものが、YZR500の開発コンセプトである。「人間の感性との調和」これがテーマであり、ライダーがその強大なパワ ―と超軽量な車体という、考えただけでも扱いにくそうな組み合せを、いかにしたらコントロールができて効率のよい走りが得られるか、に終始追われているのが現状なのである。

このYZR500を開発してきたエンジニアとしては、量販モーターサイクルだからといって、考え方を変える理由などあるわけがない。むしろ、他に方法論があるのだろうか、ということになる。

そこで彼らが展開した最新の構成でつくられたTZR250。そのYZR500からダイレクトに流れ込んだテクノロジーとフイロソフィー。そもそも他のロードスポーツと次元が違うのだ。

OW76をそのまま縮少したような、卓越したバランスとセンシティヴなハンドリング。ライダーを駆り立てる、明解な理由であろう。

【掲載月号】
1985 RIDERS CLUB 12
月刊ライダースクラブ12月号 No.90

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