【ライディングの醍醐味は感じられる?】|操作の自動化におけるスポーツ性を探求する【自動クラッチ操作がもたらす未来】

オートクラッチやオートシフトにより、ツーリングや街乗りが楽になるのは当然だが、ではスポーツライディングには〝使える〞のか?元MotoGPライダーとサーキット好きライターが、筑波サーキット・コース1000で検証した。
ホンダの2システムは明確に立ち位置が違う
田宮 ここでは、すでに市販車が登場している3メーカー4タイプの自動クラッチシステム搭載車で、そのスポーツ性について検証してもらうことにしました。NT1100とR1300GSアドベンチャーは、車種がそもそもサーキット向きではないのですが、DCTとASAはこれ以上にスポーティなモデルの選択肢がないのでご容赦ください。
そして、4台の中ではE-クラッチのCBR650Rだけが、変速は常時マニュアルとなります。サーキットで乗ってみてどのような印象でしたか?
中野 じつは乗るのは今回が初めて。自動クラッチなのにクラッチレバーもあるので、スロットル操作だけで発進するのは不思議な感じでした。とはいえコースインしてからは、上下クイックシフター付きのマシンと操作は基本的に同じ。これには慣れているので、違和感はゼロでした。
田宮 大きな違いとして、一般的なクイックシフターはダウン時のオートブリッピング機能付き。対して現状のE-クラッチにはこれがないのですが、ダウンの変速ショックは気になりましたか?
中野 基本的には、低いギアに落としたときのみ多少のショックを感じたものの、問題ありませんでした。ただし、より攻めてギリギリのところでシフトダウンするようになってからは、状況に応じて自分でレバーを操作して半クラッチを調整していました。

田宮 ちなみに僕は、中野さんのような半クラ技術はないので、シフトペダルを踏むのと同時にスロットルをあおって対処。とはいえ、2速または1速まで落としたときに10000rpm以上とかじゃなければ気になりませんでした。
中野 何よりも、オートクラッチなのにレバーを握るだけでマニュアルになる、というのが好印象。スポーツ走行ではクイックシフター搭載車と同じように扱えて、ダウンはともかくシフトアップのショックはかなり少なく、マニュアルクラッチ仕様と比べて極端な車重増加も感じません。ライパ自走参加者が、サーキットでは一般的なスポーツバイクとほぼ同じ操縦性を楽しみ、行き帰りは自動クラッチで徹底的に楽して……なんていう楽しみ方が容易に想像できます。今後、他のスポーツモデルにも導入してほしいです!
田宮 当然ながら、ホンダもそのつもりのようですね。だからこそ、なるべくシンプルな構成によりシステムの小型軽量化と低コスト化を追求。その副産物として、操る楽しさが最大限に残されたと考えることができそうです。まあ、クラッチの自動化のみに機能を絞れたのは、ホンダにはDCTという多機能ATがすでにあることも大きそうですが……。そのDCTにも乗っていただきましたが、スポーツ性はいかがでしたか?

中野 DCTに関しては、市販車初採用となった’10年型VFR1200Fの試乗会にも参加しており、そこから約15年間での進化も、折に触れて感じてきました。とくに近年は、だいぶライダーの感覚に寄り添うようになりました。ただしATモードだと、サーキットを走るには厳しい部分もあります。例えば「コーナーが迫っているから、高回転だけどこのまま低いギアをキープして……」なんてところまでは、ライダーの考えを読み取ってくれませんから。
田宮 NT1100のATモードは、通常走行用のDとスポーティなS1、S2、S3から選べます。今回は、まずS2で走っていただきました。

中野 S2だと、各コーナーのギアが自分が選びたいギアよりも高く、トラクションを掛けながら立ち上がるのも難しくなる傾向。サーキットだと走りづらさを感じます。
田宮 そこで、途中からは高回転域を多用し最もスポーツ性を重視したS3で乗っていただきました。
中野 S3にしてからは、少なくとも筑波1000のコースレイアウトにおいては、コーナーで選択されるギアはかなり満足できるように。これには少し驚かされました。

田宮 Y-AMTやASAと比べて、ATモードの変速タイミングが4段階から細かく選べることもあり、ATでのサーキット適応力という点では最も高いと感じたのですが……。
中野 さらに、シフトショックの少なさという点でも、DCTは本当に優秀。ものスゴくスムーズで、ニュルニュルと変速する感じです。ただしDCTは、サーキットを走らせたとき、シフトダウンで〝間〞ができてしまうんです。
田宮 MTモードでシフトスイッチを連打しても、フルブレーキングで3→2→1速みたいなときに、変速が追いつかないことがありました。

中野 DCTは本当に優等生で、ライダーを驚かせるとか、設定してある回転数から外れる可能性があるような作動を、徹底的に排除します。それだけに、サーキットという非常に特殊な走行環境では、シフトダウンで“間”を感じやすく、これが逆にライダーを不安にさせ、フロントブレーキで前輪の負担を増やすなどの操作につながりやすいんです。
田宮 優秀すぎるからこその違和感というのが皮肉。もっとも、ホンダの技術力があれば、サーキット用のDCTだって、その気になればすぐに開発できるんでしょうけど……。

中野 増加する重量や複雑な機構のことも考えたら、DCTはあくまで公道用の技術でしょうけどね。そしてフォローしておくと、公道でゆったりツーリングするなら、僕もDCTは嫌いじゃありません。X-ADVなんて本当にピッタリですしね。
近未来への期待値はハンドシフトのほうが高め
田宮 続いて、MT-09に初採用されたヤマハのY-AMT。こちらは、袖ケ浦フォレスト・レースウェイで実施された試乗会でも、すでに乗っていらっしゃるかと思います。
中野 それだけに、ATモードだとサーキットという特殊な走行環境にはあまりマッチしないことを知っていて、早い段階でMTモードに切り替えてしまいました。
田宮 ATモードはDとD+から選択できますが、よりスポーティなD+でも、まずフルスロットルあるいはそれに近い状況で加速させたときに、シフトアップが早いですよね?
中野 ライダーのフィーリングに反してシフトアップされてしまう感じがあり、サーキットではそれが乗りづらさにつながります。減速方向も、ライダーが望むより高いギアを維持する傾向なのは同様。このため、エンジンブレーキを有効に使えないというケースがあります。

田宮 じつは僕もメーカー試乗会で袖ケ浦を走りましたが、ほとんどのコーナーで自分が選びたいギアより2速上でした。これだとトラクションが掛からず怖いので、ATモードのまま手動でシフトダウンし、これで問題解決と思ったら……。
進入からコーナーの中間まではいいんですが、立ち上がりでスロットルを開けると、やっぱり早めにシフトアップしちゃいました。
中野 ATモードはあくまでも、公道を楽に移動するためという印象ですよね。ただしMTモードにすると、途端にサーキットでの楽しさがアップします。DCTも以前からそうなのですが、Y-AMTはハンドシフト。これまで足でやってきたことを手でするのは難しさもあるのですが、慣れるとゲーム感覚でシフトチェンジができて、もちろん使いたいギアと回転数をキープできるようにもなるので、スポーツ性も一気に高まります!

田宮 左足のステップワークを安定させられるなど、ハンドシフトには利点も多いですよね?
中野 深くバンクしているときでも変速OK。下半身の体重移動をジャマすることもありません。現状ではレギュレーション的に難しそうなのですが、もしもMotoGPがハンドシフトになったら、あっという間に市販車でもスタンダードになる可能性があると思います。
田宮 クルマのパドルシフトも、F1からの流れでスポーツカーを経て、現在ではファミリーカーや軽自動車にも採用する車種があるほどまで普及していますしね。

中野 シフトダウンのショックが極めて少なく、2→1速でニュートラルに入ってしまう心配もないから、深いバンク角でもシフトダウンできるだけでなく、1速を大胆に使えます。これまでサーキットのセオリーとされてきた攻略方法とは異なる走り方を模索できる武器としても、機能するかもしれません!
田宮 では最後に、BMWのASA。こちらの自動変速モードはDのみですが、変速制御はライディングモードとも連動しています。
中野 こちらも、サーキットという特殊な環境では、ライダーが望むより高いギア、低いエンジン回転を使いたがる傾向。ATでは難しさを感じました。

田宮 とはいえロードモードでも、Y-AMTよりはシフトアップせず粘ってくれる感じですね。あと、排気量が大きいので、低い回転数でもなんとかなりやすいなあ……と。
中野 たしかにそういう印象もあります。少し残念なのは、MTモードにしたとき、シフトペダル操作に対してワンテンポ遅れるような感覚がある点と、変速ショックが大きい点。でも、そもそもR1300GSアドベンチャーをサーキットで評価するというのが酷なのでは……。だって公道でのツーリングなら、林道走行を含めても、サーキットほど急いでシビアにシフトチェンジするようなシーンはほぼないですから。
田宮 ライバルと乗り比べちゃうと変速ショックもやや大きめですが、排気量がありますしねえ……。

中野 今回のテーマであるスポーツ性からは少し外れちゃいますが、R1300GSシリーズにASAが組み合わさることの大きな魅力のひとつは、エンストしないということ。なにせこの巨漢ですから、エンストをきっかけとした立ちゴケの心配がないだけでも、少し身近に感じられるかもしれません。
田宮 では最後に、中野さんは4台のスポーツ性をどのように総括しますか?

中野 ATモードについては、サーキットで使うのはまだ厳しいです。一番の問題は、減速でエンブレを十分に引き出せないこと。もうひとつは、コーナーのギア選択が高めになりがちなことです。これらは、GPSと連動して事前にプログラムを入力するとか、AIに学習させるなどの大きな技術革新がない限り、そう簡単にクリアできる課題ではないと思います。
一方でマニュアル変速については、自分でコントロールしたいという要求もある程度は満たしてくれるし、スポーツライディングのテクニックやスタイルの進化に、何らかの変化を与える可能性まで垣間見えました。