日本のチームが、耐久レースの世界タイトルを獲得!! 【BRIDGESTONE×EWC】
予選のトップ10にTSRの名前がなかった理由 鈴鹿8耐ウィークの土曜日(今年は7月28日)に開催される「トップ10トライアル」は、鈴鹿8時間耐久ロードレースの見せ場のひとつになっている。 前日、金曜日の公式予選で10位以内につけたチームだけが参加でき、1周のタイムアタックで決勝のスターティンググリッドを決める。今年は台風12号の影響で、上位10チームによる計時予選形式となったが、それでも「純粋に速さを競い合うタイムアタックセッション」は大いに注目を集めた。 その出走チームリストの中に、「F.C.C.TSR Honda France」の名はなかった。 藤井正和監督が率いるTSRは、鈴鹿8耐で常に表彰台を競うトップチームの一角であり、’06年、’11年、そして’12年と3度の総合優勝を果たしている。’11年から始まったトップ10トライアルには、昨年まで7年連続で全年出走していた。しかし今年の公式予選の結果は、12位。トップ10トライアルの出場権を得られず、連続出走記録は7で途絶えた。 だが藤井監督は、そのことをまったく気にしていなかった。「予選のターゲットは11位だったんだ。12位に終わったのはちょっと残念だけどね」と言うのだ。予選で11位を狙う。つまりT SRは、最初からトップ10トライアル出場をめざしていなかった。 「今回の我々の目標は、あくまでもEWC(世界耐久選手権)でチャンピオンになること。トップ10トライアルに出れば王座獲得って話ならもちろん狙うけど、まったく関係ないからね」と、藤井監督は笑った。
チャンピオン獲得の障壁になるなら、速ささえいらない
鈴鹿8耐は国内最大の二輪レースである。総合優勝争いは、例年、国内メーカーのファクトリーチーム、もしくは国内メーカーとの連携が強いサテライトチームによって、極めて高い次元で繰り広げられる。「8時間のスプリントレース」と称されるほどハイスピードな展開だ。 その一方で鈴鹿8耐は、EWCの最終戦という位置づけでもある。EWCにフル参戦している欧州中心のチーム群は、総合優勝狙いの「国内限定チーム」よりは少しばかり遅いペース、少しばかり下位のポジションで、シーズンを通した戦いを展開しているのだ。 つまり鈴鹿8耐では、総合優勝争いとEWCのランキング争いが、2層で展開していることになる。そして今回のTSRは、「EWCフル参戦チーム」のひとつであり、日本国籍チーム初のタイトル獲得を目前にして、鈴鹿サーキットに乗り込んでいた。
絶対に崩したくなかった三位一体のバランス
バイクレースにおける「速さ」は、リスクを高めることでもある。藤井監督は徹底的にリスクを退けた。レースが終わった時に、GMT94より1点でも多いポイントを獲得していること。目的はそれだけだった。 「耐久レースで勝つために必要なのは、ライダー、マシン、チームの3要素の力が揃っていること。何かひとつが突出していてもダメ。何かひとつが劣っていてもダメ。いびつな三角形では絶対に勝てないんだ。ライダー、マシン、チームでキレイな正三角形を作らなくちゃいけない」 ブリヂストンのスタッフから「ル・マン24耐に出ない?」と言われ、「よし、出るよ」と参戦開始して以降、3年をかけてEWCを14レース戦ってきた藤井監督。彼が得た勝利への方程式は、三位一体のバランスだった。そして「速さをアピールして自尊心を満たす」ことは、バランスを保つために控えるべき要素だった。
勝利に貪欲であること、徹底的に突き詰めること
7月29日午前11時半にスタートした決勝レースでも、藤井監督はバランスを保つことに徹した。コンディションが目まぐるしく変わり、セーフティーカーがたびたび導入される難しいレース。国内の主力チームがトップ争いを演じる中、TSRは決して目立ったわけではなかった。 それも、藤井監督の狙いだった。要するにランキング2位のGMT94の前にさえいればよかった。1時間経過時点でこそ、GMT94が13番手、TSRは15番手だったが、以降1時間毎のポジションは6番手、5番手、5番手、6番手、5番手と、いずれもGMT 94の前だった。

