ブリヂストン装着チームの13連覇 ヤマハファクトリーレーシングチームの4連覇
「盤石」という言葉の意味を体現して見せた覇者
鈴鹿8耐で勝つためには、何が求められるのか? その問いが改めて突きつけられるレースだった。
7月29日、三重県にある鈴鹿サーキットは東から西へと異例の進路を取る台風12号に見舞われ、深夜から早朝にかけて暴風雨にさらされた。 午前11時半、定刻通りに決勝レースがスタートした時、コースはフルウエットだった。だが、台風が西方へと遠ざかるにつれて夏らしい強い日差しがサーキットに照りつけ、路面を乾かした。
かと思えば、再びの雨。そして全車が追い越し禁止の一列となり、前後の距離が一気に縮まるセーフティーカーのたびたびの導入。「何が起こるか分からない」と言われる鈴鹿8耐だが、例年にも増して難しいレースとなった。
混乱の8時間を誰よりも速く駆け抜けて優勝したのは、ヤマハファクトリーレーシングチームだった。このチームは15年の結成以来、表彰台の頂点に立ち続け、今回で4連覇を達成した。
前年の王者が再び王座に就くといえば、まるで安定の結果のようだが、ヤマハは決して安泰で楽に勝てたわけではなかった。エースライダーである中須賀克行が、7月28日のフリー走行開始直後に転倒。肩を負傷し、決勝レースを含めた以後のセッションを走らないことになったのだ。
中須賀克行、アレックス・ローズ、マイケル・ファン・デル・マークというライダー3名のラインナップ、さらにYZF-R1&ブリヂストンタイヤというマシンパッケージは、3連覇した昨年のままだった。そこへきて中心的存在の中須賀を欠いての決勝レースとは、さすがに黄信号が灯ったかと思われた。
だが、中須賀が走れなくなったことは、ローズとファン・デル・マークに火を点けた。「オレたちが何とかする!」と心をたぎらせた彼らは、しかし、耐久レースで勝つための冷静さを見失わなかった。
落ち着いた状況判断。安定したペース配分。ミスのないピット作業。そして不確定要素に負けない臨機応変な戦略作り。ライダーとチームが織りなす総合力で、難しいレースを勝ち抜いたのである。
ヤマハ4連覇を足元から支えたブリヂストンの山田宏さんは、「中須賀選手の欠場で、間違いなく不安はあったはず。バイクレースでは、そういうちょっとした気持ちの動揺がミスにつながりかねません。しかしヤマハファクトリーにはメンタルの強さがあった。過去の蓄積を見事に生かしたレースでしたね」
それはそのまま、今回で13連覇を達成したブリヂストンに当てはまる言葉でもあった。‘06年から鈴鹿8耐の「ウイナーズタイヤ」であり続けているブリヂストンには、過去の実績と技術の蓄積に基づく、揺らぐことのない圧倒的な自信があったのである。
王者に迫り寄る好敵手たち。決戦は1年後に
第41回を迎える今年の鈴鹿8耐は、レースウィークに入る前から一種独特な盛り上がりを見せていた。合い言葉は、「打倒ヤマハ」だった。 「‘15〜‘17年に3連覇を成し遂げ、今年4連覇を狙うヤマハを止めろ!」。 有力なライバルチームが、ついに牙を剥き出しにしたのだ。まずはホンダだ。近年はプライベーターチームとタッグを組むかたちを採っていたが、今年は10年ぶりにファクトリー体制とし、「レッドブルホンダwith日本郵便」としての参戦となった。 かつては10連覇という黄金時代を築いていたホンダである。ビッグスポンサーを付けたファクトリー体制からは、「絶対に勝つ」という強い意志と、「いつまでもヤマハの背中を眺めてばかりはいられない」という強い意地が覗いた。

