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【16年のインタビュー・シーズンを振り返る】加速にこだわった'16 SUZUKI GSX-RR

加速にこだわった2016シーズン 2016 SUZUKI GSX-RR 並列4気筒エンジンを搭載するスズキのMotoGPマシンは、’15年からチャレンジを始めたばかりだが’16年には第5戦フランスで3位表彰台を獲得。そして第12戦イギリスにおいて、マーベリック・ビニャーレスが初優勝を独走で飾った。日本車勢トップの最高速も記録するようになるなど、大きく進化したのだ 好評だった「GSX-R1000/R」の開発・試乗会の短期連載の引き続き、今回もGSX-Rをフラッシュバックする。シリーズの頂点に立ち、再びMotoGPに復帰し、表彰台と優勝を獲得した’16年のシーズンを宮城光さんがインタビュー。今回も短期連載として前編はインタビューに、後編も改めてマシンの詳細にクローズアップする。 2017年4月号より MotoGP第12戦、初優勝を果たした [caption id="attachment_549913" align="alignnone" width="900"] 河内健さん(写真左)
1968年生まれ、’92年に入社。’95年から二輪レースグループに参加、車体設計&実験を担当。’11年からMotoGPチームの技術監督を務める
聞き手/宮城光(写真中央)
1962年生まれ。’80年代にモリワキで活躍した後、HRC契約ライダーに。日本GP500㏄にも出場。日テレMotoGP放映では解説者を務める
寺田覚さん(写真右)
1964年生まれ、’88年入社。二輪レースグループでGPマシンのエンジン実験を担当し続けた。’12年からMotoGPのプロジェクトリーダーに[/caption]

たぐり寄せた初勝利はライダーとチームが一丸となった結果だった

宮城 16年はマーベリック・ビニャーレス選手が初優勝を果たし、3位表彰台に3度上がり、ランキング4位。彼がモトGPのトップライダーとして確実な成長を遂げたのは明らかですが、GSX-RRも間違いなく進化していました。 寺田 15年の段階で、加速力不足が課題になりましたから、強化するために、まずエンジンの馬力を上げる開発を進めました。同時に、加速力に直接効くシームレストランスミッションを投入し、ウインターテストでセットアップを詰めていきました。そこがひとつのポイントだったと思います。 宮城 シーズン序盤の段階でドゥカティに次ぐトップスピードを発揮していたのが印象的でした。馬力はどれぐらい上がったのですか。 寺田 正確にお答えするのは難しいのですが……4%ほど、約10馬力以上、でしょうか。 宮城 ECU統一ソフトウエアの影響はなかったのでしょうか。 寺田 もちろん、ありました。オリジナルのソフトでは、こういう制御をしたいから、こういうプログラムをつくろうと考えることができますが、統一ECUソフトではまず、プログラムを理解することから始めましたから、どうしても時間がかかってしまいます。 宮城 何ができるかを把握したうえで、じゃあ、こういう制御をしていこうという考え方になる。開幕戦の段階で、どの程度使いこなせていたと思いますか。 寺田 60%ぐらいでしょうか。 宮城 とすると、まだまだ伸びしろがあった。シーズンを戦いながら、解析は進むはずです。 寺田 確かに新しい発見もあったのですが、オリジナルの制御から失う部分もあるので、そこを含めると、なかなか難しかったです。 宮城 それでも、GSX-RRの加速力は上がっている。 河内 加速させるためにフレームも変えました。試行錯誤の途中で、まだ足りない部分もありますが。 宮城 マシンが確実に前へ進むようになったのですね。ライダーが求めるものに対して、リニアに反応するようになった。 河内 コントロール性は重視しています。スロットルを開けたときにスピンして前に進まなくなっていた部分を改善し、安定して加速できるようになりました。ただ、まだ足りていません。その意味では加速力の強化、という課題は今も残っているのですが、15年よりは良くなった、というのが16年の結果に表れたところだと考えています。 宮城 ブリヂストンからミシュランへの変更も影響します。 [caption id="attachment_549913" align="alignnone" width="900"] 河内健さん(写真左)
1968年生まれ、’92年に入社。’95年から二輪レースグループに参加、車体設計&実験を担当。’11年からMotoGPチームの技術監督を務める
聞き手/宮城光(写真中央)
1962年生まれ。’80年代にモリワキで活躍した後、HRC契約ライダーに。日本GP500㏄にも出場。日テレMotoGP放映では解説者を務める
寺田覚さん(写真右)
1964年生まれ、’88年入社。二輪レースグループでGPマシンのエンジン実験を担当し続けた。’12年からMotoGPのプロジェクトリーダーに[/caption]

2年目の並列4気筒エンジンは課題の出力を確実に向上させた

河内 ミシュランさんのタイヤは、ワンメイク初年度としては高い性能を発揮したと考えています。我々にとっては、リヤのグリップが高かったことに助けられました。ただ、耐久性を重視した仕様に変わっていったことで、そのメリットが少なくなっていきました。 宮城 ウインターテスト?シーズン開幕直後は良好だったのが、徐々に難しくなっていった。 河内 ただ、私の個人的な意見になりますが、たとえブリヂストンさんを使い続けたとしても、我々の開発はそれほど変わらなかったのではないか、と思っています。課題は、加速力。もちろん、タイヤが変われば影響しますが、我々の開発自体は結局、変わらなかったのではないかと思うのです。 寺田 いかに加速させるか、ということですね。15年からそればかり言ってますが、本当に、我々がクリアするべき課題なのです。 宮城 トップスピードは十分に伸びています。最終戦バレンシアでも日本車勢のトップ。 寺田 そのような結果を出すことができるようになったのは素直にうれしいのですが、ご存知のように、最高速だけでは勝てません。16年においても、コーナー立ち上がりでの加速力をもう少し強化する必要がありました。 宮城 そこも速くなれば、GSX‐RRは常にトップを争えるマシンに、さらに近づく。そういった進化を含め、V4からインライン4へのエンジンレイアウト変更は正解でしたか? 寺田 私は正解だと思っています。 それぞれいいところ、悪いところがありますが、インライン4に変更したことで、苦手なコースも減ってきましたから、間違った選択ではなかったと思っています。 宮城 インライン4のメリットは、どんなところにありますか。 寺田 ハンドリング、高速コーナーでの安定性に優れていると思います。例えばV4時代、フィリップアイランド(オーストラリア)を苦手としていたのですが、スーパーバイク(GSX-R)は昔から得意としていて、GSX-RRでも苦手ではなくなった。ムジェロ(イタリア)やカタルーニャ(スペイン)でも、いいところを出せるようになってきました。 [caption id="attachment_549919" align="alignnone" width="900"] 初めて公表された並列4気筒エンジン。ただし詳細は未発表で、公称ピークパワーは176kW(240?)以上。前傾したシリンダーと、それを包みこむフレーム周りが特徴的で、カーボン製のハンガーが採用されている[/caption] [caption id="attachment_549920" align="alignnone" width="900"] ビニャーレスが、マシン開発の成果を結果で表現した。彼を支えたチームスタッフとの一体感も、当然高まった(第5戦フランス)[/caption] 宮城 それはなぜですか。 寺田 V4はパワーを出しやすく、ハンドリングでは軽快さを持たせやすいのですが、安定性を生み出すのが難しい、と言えます。対して、インライン4は安定性を生み出す部分で許容範囲が広い印象があります。V4に対してエンジン幅が広くなってしまい、クランクも大きくなるのですが、安定性に効いてくる部分があるので、それを生かす開発を進めています。 宮城 そこでGSX-Rで積み重ねてきたノウハウが活きてくる。それにしてもモトGPで使い始めてわずか2年目、急速な進化を遂げていると思いますが、16年の達成度はどのように評価されますか。 寺田 80点ですかね。16年に残すことができた結果はある程度、評価していいと思っていますが、もちろん、あの成績が最終目標ではありません。常に優勝を争い、少なくとも表彰台に上がるレベルにいなければいけませんから。 河内 私としては70点。まずは表彰台、という目標を16年は達成し、優勝することもできたのですが、マシン開発における課題を完全にクリアできたわけではありませんし、アレイシ・エスパルガロ選手のマシンではトラブルを出していますので、その反省点もあります。それらをクリアしていかないと、さらなる好成績は望めません。 宮城 GSX-RRを投入してのチャレンジで頑張ってくれたビニャーレス選手とアレイシ選手がチームを離れるのは残念ですね。 寺田 マーベリックは、本当に期待通りというか、期待以上に速くなってくれました。彼がいてくれたからこそ、16年の成績があります。なので彼と別れることになってしまったのは、非常に残念です。一方、モトGPでの経験が豊富なアレイシは実戦における初期の開発を引っ張ってくれ、本当に感謝しています。それだけに16年、十分な成績を残すことができなかったのが残念です。ふたりそろって表彰台、というのを実現したかったのですが、タイヤとライディングスタイルを上手く合わせることができず、我々も十分なサポートをすることができませんでした。 宮城 17年はライダーを一新しての再チャレンジになります。アンドレア・イアンノーネ選手とアレックス・リンス選手。ドゥカティから移籍してきたイアンノーネ選手はファクトリー経験者。 寺田 うまく乗り換えてくれたかな、という印象はあります。コメントも非常に分かりやすく、何を求めているのかも明確でした。 宮城 リンス選手については? 寺田 モトGPマシンを乗りこなす、という意味で、まだまだこれからになりますが、すでに“さすがだな”、という走りも見せてくれています。マシンのコントロールが非常に上手ですね。 宮城 16年は確実にトップ争いへ近づき、17年はそのトップグループと常に競り合うチャレンジになりますが、ライダーが変わることで調整すべき項目は増える。極めてチャレンジングです。でも、15~16年に達成したことを考えると、非常に楽しみです。 寺田  17年はシーズン中のエンジンアップデートができなくなったり、ホンダさんやヤマハさんと同じ土俵に上がることになります。そして16年を上回る結果を残すには、モトGPチャンピオンがひしめく領域において戦わなければならないのですが、ご期待にそえるよう、全力を尽くします。

加速力を上げるためフレームも変更シーズン中のアップデートも行う

[caption id="attachment_549921" align="alignnone" width="900"] 美しい曲面を描きながら、ギュッと絞り込まれたスイングアームピボットプレートなど、GSX-RRでは当初から独自のフレームデザインにもこだわる。かなり極太に見えるメインチューブも、下半分はシリンダー後方ハンガーだから決して太くない[/caption]]]>

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