2020 MotoGPチャンピオン獲得記念 GSX-R1000R スペシャルインプレッション by青木宣篤
スズキのMotoGPマシンGSX-RRと市販スーパースポーツGSX-R1000R。この2台は名前が似ているだけでなく、実際に共通項も多数ある。根底に流れる「扱いやすさ」へのこだわりは、どこから来ているのか、両方のマシンを走らせた青木宣篤さんが、そのルーツを探る
スズキ、20年ぶりにGPタイトル獲得
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コロナ禍で混乱を極めた2020MotoGPシーズンを制したのは、スズキのジョアン・ミル&GSX-RRだった。’00年の世界GP500ccクラス におけるケニー・ロバーツ(ジュニア)以来、20年ぶりとなる戴冠は、 着実に粘り強く好ポイントを積み重ねることによって成し遂げられた[/caption]
GSX-R1000R 柔よく剛を制す SUZUKI GSX-RR 2020 MotoGPチャンピオン獲得 スペシャルインプレ


’17年 にフルモデルチェンジし、MotoGPマシンGSX-RRで培われた技術を多数フィードバックしたGSX-R1000R。突出した扱いやすさで、ビギナーからエキスパートま で幅広いスキルのライダーを満足させる
GSX-RR
MotoGP参戦休止中の’12~’14年の3年 間をかけ開発された並列4気筒1000cc。’15年にフル参戦を開始し、’16年には初勝利を挙げた。’20年はジョアン・ミルとアレックス・リンスで11回の表彰台を獲得[/caption]
しなやかさがもたらす 「乗りやすさ」 の極致 GSX-R1000R
よくぞ王座まで、というのが本音だ。 11年をもってGP参戦を休止したスズキは、それまでのV型4気筒から並列4気筒へとスイッチすることを決断。水面下でモトGPマシンを開発していた。 私も携わっていたが、正直、またモトGPに復帰できるという確証はまったくなかった。リーマンショックの影響が、レースシーンにも非常に大きな影を落としていることは私にも分かった。 しかも、せっかくV4をモノにするヒントを得始めていた矢先に参戦を休止し、並列4気筒へとビッグチェンジを果たそうというのだ。いろいろな意味で問題は山積みだった。 並列4気筒モトGPマシンの開発最初期段階では、GSX-R1000改のエンジンが使われた。ほどなくして専用エンジンとシャシーが出来上がってきたが、特に驚かされたのはフレームのしなやかさだった。 これはV4マシン、GSV-Rでの反省を元にした方向性だった。GSV-Rのフレームは剛性が高すぎて、旋回性にやや難があったのだ。 ライダーに伝わるインフォメーションも不足していた。 [caption id="attachment_671510" align="alignnone" width="900"]
’93年 から世界グランプリに参戦し、’98~’00年には スズキファクトリーライダーとして活躍した。スズキのGPマシン開発ライダーを務め、的確な評価には定 評がある。今回はチャンピオンマシンにも緊急試乗[/caption] 一方、新作されたGSX-RR専用のフレームは、あえて剛性が落とされていた。実際の数値は分からないが、少なくとも開発ライダーとしてはそう感じた。 これはなかなか難しい決断だったと思う。基本的には、速度が高いほど、それに対応してフレーム剛性も高まるものだからだ。堅実なスズキ開発陣としては、かなりの「冒険」だったはずだ。 だが、フレーム剛性は高ければいいというものではない。ロボットが操縦するならまだしも、乗り手はあくまでも人間である。剛性があまりに高いと人間が扱える領域を超えてしまい、ライダーが限界を感じにくくなってしまう。そして、限界がいつどんなかたちで訪れるのか分からないと、ライダーは不安になる。 不安を抱えたままでは、思い切って攻められない。悪循環の結果として、机上のフレーム剛性値は高いのにタイムは出ないことになる。エンジニアリングとライディングがどんどん乖離してしまうのだ。 スズキがGSX-RRのフレーム剛性を落とした大きな理由は、当時のワンメイクタイヤだったブリヂストンタイヤとのマッチングに考慮してのことだった。だが、乗り手へのフィードバックが増えたのも大きなメリットだった。ロードインフォメーション、接地感、トラクション感も豊富になり、非常に扱いやすくなったのを覚えている。このフレーム特性は、15年のモトGP復帰から今回のチャンピオン獲得に至るまで、GSX-RRの大きな武器になったと思う。 タイトル獲得後、GSX-RRをテストする機会があったが、フレー ム剛性は当時に比べて若干高まっていた。これは現在のミシュランタイヤに対応してのことで、基本的なしなやかさはそのままだった。 そしてGSX-R1000Rのフレームも、ダイレクトにこの特性を受け継いでいる。「曲がろう」と思うだけで自動的に旋回してくれる旋回性の高さは、GSX-RRの血統だ。技術者によると、前モデルと同等のフレーム剛性を確保しているとのことだが、走りながら感じるもの は明らかに増えた。 V型4気筒から並列4気筒へ。モトGPマシンのエンジン気筒配列を変更したのは、量産車開発との連携を強めることが主な狙いとされた。だからこそ、後に記すようにエンジンに関しては多くの技術的フィード バックが行われている。だが意外にも、フレームに関しても「しなやかさ」という方向性がフィードバックされているのだ。 スーパースポーツモデルの中でも、際立って乗りやすいGSX-R1000R。私が先導ライダーやインストラクターを務めるサーキット走行会でも、幅広いスキルのライダーがGSX-R1000Rを楽しんでいる姿を多く見かける。 後述するエンジンの扱いやすさも 好影響を及ぼしていることは間違いないが、乗り手があまり意識しないフレームにも、モトGPマシン開発で得た経験が凝縮されている。それが多くのライダーに受け入れられやすい、GSX-R1000Rらしいキャラクターの基盤になっている。 幅広い路面状況でもライダーに不 安を感じさせにくく、ツーリングにも出かけたくなるGSX-R1000R。その特性を支えているのがモトGPマシンGSX-RR譲りのフレームだとしたら、ちょっと誇らしい気分になるはずだ。
いつでも、求めるだけのパワーを GSX-RR













●エンジン:水冷4ストローク並列4気筒●バルブ形式:DOHC4バルブ●総排気量:999cc●最高出力:197ps/13200rpm●最大トルク:11.9kgf・m/10800rpm●サスペンション:F=テレスコピック倒立SHOWA BFF、R=モノショック SHOWA BFRC lite●ブレーキ:F=φ320mmダブルディスク、R=φ220mmシングルディスク●タイヤサイズ:F=120/70ZR17M/C、R=190/55ZR17M/C●全長/全幅/全高:2075/705/1145mm●シート高:825mm●重量:203kg●燃料タンク容量:16ℓ●価格:215万6000円[/caption]]]>