元MotoGPライダー中野真矢も頷いた鮮烈な個性 新型DUCATI Multistrada V4Sをインプレ
ユーザーフレンドリーの影に隠した〝パワーの牙” DUCATI Multistrada V4S
新型ムルティストラーダV4Sは、「扱いやすいドゥカティ」になっていた
バイクとしては正常進化かもしれない。でも中野さんは、一抹の寂しさを感じていた
ドゥカティらしい鮮烈な個性は鳴りを潜めてしまったのか。それとも……
若干の不安とともにアクセルを開けていくと、V4エンジンが官能的なサウンドを奏でた
[caption id="attachment_697659" align="alignnone" width="900"] バルブスプリングを採用
吸排気バルブをカムによって強制的に開閉させるデスモドロミックは、MotoGPマシンにも採用されているドゥカティの象徴的な技術だ。だが新型ムルティのV型4気筒エンジンは、デスモドロミック搭載のパニガーレV4をベースとしながらも、バルブスプリングを採用。メインテナンス性を向上させ、ユーザーのランニングコストを抑える狙いだ。独自性よりユーザーニーズを叶えることを選んだ、大きな方向転換と言える[/caption]
アダプティブ・クルーズ・コントロールを二輪車世界初搭載
アドベンチャーモデルには、少々苦手意識を持っていた。私は背があまり高くないので、大柄なアドベンチャーにとっつきにくさを感じていたのだ。 ところが以前、Lツインエンジンのドゥカティ・ムルティストラーダに乗った時、その印象が一変した。重いと思っていたがそれほどでもなく、大柄だと思っていたがしっかり足が着いたのだ。 新型ムルティはV型4気筒エンジン搭載とのことで、もしかしたら大きく、重くなってしまったのではないかとやや警戒していた。だが試乗前の技術説明によると。エンジンはLツインより軽量コンパクトになっているとのこと。驚きながらも期待して走り出した。 エンジンのフィーリングは非常にスムーズだ。パニガーレV4ベースのエンジンとのことで、どんなに猛々しいかと思っていたが、非常に扱いやすい特性だった。あまりに滑らかなので拍子抜けしてしまい、ワガママながら「ドゥカティらしさがちょっと薄まったかな……」と思ってしまうほどだった。 ドゥカティのLツインには力強い鼓動感がある。爆発の1発1発を感じながらガッシリと路面をつかむかのようなトラクションは、ドゥカティ特有の味だった。だが、低回転域では若干の扱いづらさが生じていたのも確かだ。 一方、新型ムルティのV4エンジンは、アクセルの開け始めからスムーズで扱いづらさとは無縁だ。常日頃から私が気にしている、アクセル開度10%までのドライバビリティも優れている。ギクシャク感はなく、アクセルワークに対してとことん素直で従順だ。これがものすごい進化だということは理解している。それなのに個性が薄まったような寂しさも感じているのだから、我ながらつくづくワガママなものだと思う。どんな走行シーンでもひたすら扱いやすい
技術的なトライの方向性も、今回はある意味で振り切っている。アルミ製モノコックフレームこそドゥカティらしいが、バルブ機構はお家芸だったデスモドロミックから一般的なバルブスプリングに変更している。これはメインテナンスサイクルを延ばす狙い。長距離を走り、長く所有するユーザーへの配慮だ。 このことからもよく分かるように、新型ムルティV4は個性あふれるテクノロジーよりも、ユーザーフレンドリーであることを優先して開発されている。 エンジンのリアシリンダーがアイドリングストップする気筒休止システムを導入しているが、これも燃費向上と街乗りでの熱対策を兼ねてのこと。徹底的にライダー目線に立っているのだ。 この姿勢は、より多くのユーザーに届けるマスプロダクトである限り、絶対的に正しい。安心感と信頼感が得られるバイクなら所有したい、と思う人も多いだろう。



ライディング・モード(スポーツ/ツーリング /アーバン/エンデューロ)
パワー・モード
コーナリングABS機能付き慣性プラットフォーム(IMU)
ドゥカティ・トラクション・コントロール(DTC)
ドゥカティ・ウイリー・コントロール(DWC)
デイタイム・ランニング・ライト(DRL)
ドゥカティ・コーナリング・ライト(DCL)
ドゥカティ・ブレーキ・ライト(DBL)
ビークル・ホールド・コントロール(VHC)
●標準装備
ドゥカティ・スカイフック・サスペンション(DSS)
ドゥカティ・クイック・シフト(DQS)アップ /ダウン
クルーズ・コントロール
ハンズフリー・イグニッション
バックライト照明付きハンドルバー・スイッチ
ドゥカティ・コネクト
フルマップ・ナビゲーション・システム
6.5インチ・フルカラー TFTディスプレイ
フルLEDヘッドライト
●レーダー・テクノロジー
アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)
ブラインド・スポット・ディテクション(BSD)[/caption] ユーザーに寄り添う姿勢は、ライディングでも感じられた。低速ワインディングロードに近いハンドリング路では、アドベンチャーモデルだということをすぐに忘れてしまった。ヒラヒラと軽快で、ほどよくツキの良さを発揮してくれるエンジン特性と合わせて、つい攻めたくなる。 たっぷりとしたサスペンションストロークを脚長系なので限界が高いとまでは言わないが、気持ちよくペースを上げていきたくなるのは確か。トラクションのかかり具合と前後バランスのよさがスポーツライディングへと誘ってくれる。

高速域でV4エンジンが本性を露わにする
最後に高速周回路を走った時、その答えが見つかった。開けられるだけアクセルを開けると、一気にV4らしさが炸裂したのだ。 官能的なエキゾーストノートに包まれる。「この音、どこかで聞いたことがあるぞ」と思い出してみると、パニガーレV4のそれだ。2速、3速とシフトアップしていくたびに、フロントが軽く浮く。ウイリーコントロールが絶妙に浮きすぎを抑えている。最高に気持ちいい排気音と加速感は、ドゥカティらしいスポーツマインドに満ちていた。 6速までシフトアップすると、ギア比がちょっとロングなので加速に若干時間がかかるようになる。スムーズさも相まってスピードが出ている感じは薄まるが、高速周回路のバンクに飛び込む直前にメーターを見ると220㎞/hを軽く越えている。 気が付くとそんな速度域にいるのは、空力性能のよさと車体の安定感もプラスに影響している。これなら高速で長距離移動するヨーロッパのツーリングユースにも応えられるだろう。日本ではかなり余力を残してのクルージングが可能だと思う。 ライダーの声をかなり聞きながら作り込まれたことが窺える、新型ムルティV4S。最初はあまりのスムーズさと快適さに個性が薄らいだように思ったが、高速周回路ではドゥカティらしいエキサイティングさが感じられて安心した。 昨今のモトGPはエンジン開発がレギュレーションでかなり縛られている。そんな中ドゥカティは、「それなら車体だ」とばかりに、ウイングレットを含めて車体の開発に攻めの姿勢を見せ続けている。 同じようにアドベンチャーというカテゴリーの中でACCやBSDをいち早く採用し、扱いやすいV4をまとめ上げるなど、やはりドゥカティはアグレッシブ。快適性に新しさを求めて、攻めていた。(中野真矢) [caption id="attachment_697671" align="alignnone" width="900"]









