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大久保光の2021年シーズンモトE最終戦に迫る

FIM Enel MotoE World Cup Rd6.サンマリノ&リビエラ・ディ・リミ大久保 光が拓くMotoE

大久保 光(おおくぼ ひかり)                                                 1993年8月11日生まれ。2016年から2020年までスーパースポーツ世界選手権に参戦したのち、2021年はMotoEにAvant Ajo MotoEから日本人初のMotoEライダーとしてエントリー。2021年シーズンはランキング11位で終えた

大久保光の2021年シーズンのMotoEへの挑戦は、9月19日に最終戦を迎えた。
電動バイクのレースという新しいカテゴリーに挑み続けた1年だった。
けれど、大久保の挑戦はまだ終わりではない。
彼が見据え続けているのは変わらず、世界チャンピオンだ。

当日に変更された予選方式15分間のタイム計測へ

モトE最終戦は、モトGPのサンマリノ&リビエラ・ディ・リミニGPとの併催で行われた。最終戦は土曜日にレース1、日曜日にレース2の2レース開催となった。

大久保光は最終戦前、スーパースポーツ世界選手権(WSSP)の2戦に代役参戦しており、そのため最終戦では600㏄バイクからの乗り換えを迫られた。

7月には全日本ロードレース選手権JSB1000に参戦した大久保だが、WSSPの600㏄バイクからの乗り換えは、JSB1000の時とは異なっていた。

「今回の経験で、1000㏄バイクの方が、乗り方や攻めるところがモトEマシンの『エネルジカ・エゴ・コルサ』に似ていることがわかったんです。なので、乗り換えに関しては今回の方が難しかったですね」

さらに、土曜日の予選、Eポールでは急きょ方式が変更される。通常のEポールは一人ずつ、1周のアタックラップ。これが全ライダーによる〝15分間で最大3周のアタックラップ〞の計時予選に変更されたのだ。

モト3クラスのフリー走行3回目で2度の赤旗中断が発生し、タイムスケジュールが押したことが原因だった。モトEのこうした変更は今回に限ったことではなく、各大会の決勝レースの周回数が減算されることもあれば、競技規則などがシーズン中に変更されたりもしている。

黎明期のレースであるがゆえ、ということもあるだろうが、大久保を含むモトEに出場するライダーたちは、常にこうした変更へ適応しなければならないとも言える。

今回、大久保は変更された方式で行われたEポールを、12番手で終えている。

余談ではあるが、来季のEポールはフリー走行の結果によりQ1、Q2にライダーが振り分けられ、各セッション10分間の計時予選となることが発表された。つまり、モトGPクラスなどと同じ予選方式が採用されることになる。

そんな予選を経て迎えた土曜日のレース1だったが、スタート直後にアクシデントが発生する。3コーナー先で、5番手を走っていたアレッサンドロ・ザッコーネがハイサイドによる転倒を喫してコース上に残り、後方からやってきた大久保と接触してしまったのだ。

完全なレーシング・アクシデントだった。ザッコーネはけがを負ったものの、幸い命に別状はなかった。レース後、大久保はザッコーネに謝罪のメールを送り、ザッコーネも大久保の状況を理解して「あれはレーシング・アクシデント。明日のレース2、頑張って」と返信があったという。

しかし、どんな形であれ、こうした接触をした事実はライダーを苦しめる。「(転倒後)ピットに戻ったときは、精神的に参っていました」と大久保はそのときの心境に触れていた。

翌日の日曜日に行われたレース2では、レース1のアクシデントが影響して「1周目は様子見をした」という。しかし、周回を重ねるごとにポジションを上げ、今季最終レースを7番手でフィニッシュ。

トップでチェッカーを受けたドミニク・エガーターが最終ラップのアクシデントに対してペナルティを受けたために、最終結果は6位だった。

「今季、課題としていたレース後半のタイヤマネジメントは改善できました。順位としては微妙でしたが、今まで課題となっていたところはクリアできたと思います」

最終戦を終え、モトEの1年目のシーズンを、大久保はこう振り返る。

「そもそもモトE参戦が決まったのは2月と遅く、そこから準備を始めたので、厳しいシーズンではありました。けれど、ワンメイクレースで表彰台を獲得できなかったのはショックでしたね。

自分の実力不足だと思っています。ただ、全6戦7レース中、2回の転倒はどちらも巻き込まれたもので、それ以外では全てシングルフィニッシュを果たしています。

結果に浮き沈みが激しいライダーが多いモトEで、僕は安定して結果を残せていました。このアベレージを上げることができれば、チャンピオンも近くなると思います」

今季、継続して取り組んでいたライディングスタイルの変更については「だいたい60〜70パーセントくらいは達成できたのではないでしょうか」と大久保。

しかし、電動バイクの走らせ方は奥が深いようで「今回のレース2で(エリック・)グラナドと近いポジションで走ったので、とても参考になりましたね」とも語る。

電動バイクは倒しこみや起こすタイミングが内燃機関のバイクとは異なり、中でもグラナドはそこが巧みなのだという。「今後のトレーニングに取り入れたいと思っています」と、意気込みを見せていた。

大久保は来季もモトEへの参戦に向け、意欲を示している。モトEチャンピオンへ向かう新たな道のりを拓き続けていくに違いない。

レース2で大久保はMotoE参戦3年目のグラナドと8周にわたってポジション争いを展開。グラナドの走りを観察し、オフシーズンのトレーニングに取り入れたいと考えている

FIM Enel MotoEWorld Cupとは?

2019年より始まった、電動バイクによるチャンピオンシップ。ライダーが走らせるワンメイクマシンは、イタリアの電動バイクメーカー、エネルジカ・モーターカンパニーの『エゴ・コルサ』。タイヤサプライヤーはミシュラである。決勝レースは超スプリントで、第6戦はレース1が7周、レース2が8周で行われた。日本ではMotoGP.comの有料ビデオパス購入で過去の予選、決勝レースが視聴可能である

2021年MotoEチャンピオンに輝いたのはジョルディ・トーレス

2021年シーズンのチャンピオンが決定したのは、MotoE最終戦のレース2だった。

レース1を終えた時点で、ランキングトップはジョルディ・トーレス。8ポイント差でランキング2番手のエガーターが追う展開だ。

レース2はコース上でこの二人が激突し、まさにチャンピオンを懸けた大接戦となった。残り2周でエガーターがトップを走るトーレスの背に迫ると、ハードブレーキングで何度もトーレスにオーバーテイクを仕掛けるが、その度にトーレスは立ち上がりで先行し、エガーターを抑え込んだ。

そして、最終ラップにそれは起きた。タイトな14コーナーで、エガーターがトーレスのイン側に入りながらブレーキング。しかし、止まり切れずにはらみ、アウト側にいたトーレスと接触。トーレスは転倒し、エガーターはトップでフィニッシュラインを駆け抜けたのだった。

このアクシデントは審議の対象となり、レース後、スチュワードパネルはエガーターの14コーナーでの走行に対してライドスルー・ペナルティを科し、それに相当する38秒のタイムが結果に加算された。

最終的な結果はエガーターが12位、トーレスが13位。こうして、トーレスが2年連続のチャンピオンを獲得したのである。

トーレスはレース直後、悲嘆に暮れていたが、結果が覆ったことがわかると喜びに咆哮した。二人の残りトップ争いは、“静か”でありながらも、見る者を興奮させるチャンピオン争いにふさわしいレースだった。

だからこそ、こうした形での決着に、少々の残念さは禁じ得ないが、MotoEが年々激しさを増していることを感じさせる最終戦でもあった。

「全力を絞り出して、自分のペースに100パーセント集中したレースだった。チャンピオンが獲れなかったと泣いていたら結果が変わって、今度は感動して泣いちゃったんだ(笑)」と、トーレス。参戦2年目にして、MotoEで2連覇を果たした

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