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熱狂バイククロニクル【藤原儀彦】

頭の位置を極端に低く構えていた藤原儀彦さんのライディングフォーム

「パワースライド」。80年代から言われ始めたキーワードで、当時世界GPを席巻していたアメリカンライダー特有の走らせ方でした。現在では前後輪を滑らせるドリフト走法は珍しくはありませんが、当時はコーナー立ち上がり時にあり余るエンジンパワーによりリアタイヤが激しくホイルスピンを起こし、白煙を上げて、若干横方向に滑りながら、ブラックマークを残しつつ加速していく様を、パワースライドと呼びました。何とも豪快で派手な走法でした。 

アメリカ国内のダートトラックレースからロードレースに移行し、世界GPに参戦を始め、瞬く間にG P500の世界チャンピオンとなったケニー・ロバーツさんが、まさにブラックマークを残し、3年連続のシリーズチャンピオンを奪取しました。 

これに続くように、フレディ・スペンサーさんがケニー・ロバーツさん同様、アメリカのダートトラックレースの走りを生かし、世界GPに進出。これまたあっという間に3つの世界チャンピオンを奪取してしまったのです。 

さらにこの2人に続いて、エディ・ローソンさんも世界チャンピオンの座を奪ってしまったのですから、アメリカンスタイルのライディングの凄さ、速さが際立ち、それまでトップを争っていたヨーロピアンライダーにはしばらくの間、打つ手がありませんでした。 

 彼らアメリカンライダーに共通する原点は、前述のとおりダートトラックレース! 現在にも繋がる、タイヤを滑らせながら走る豪快な走法を世界GPの場に持ち込んだわけです。 

この時期にも多くの日本人ライダーが、世界GPにフル参戦したり、スポット参戦することが盛んに行われていました。そんな日本人ライダーの代表が平忠彦さん、河崎裕之さん、水谷勝さん。多くの世界GP経験ライダーが、このパワースライド走法を日本国内に持ち込みました。 

ちょうどこのタイミングで全日本GP500に参戦を始めた藤原儀彦さんがいました。87年、川崎市にあった梶ヶ谷レーシングから全日本GP500にフル参戦を始めました。マシンはヤマハワークスのストロボデザインでありながら、見慣れないキャンディブルーカラー。白&水色の型落ち86年型YZR500でした。藤原さんもシンデレラボーイのお一人ですね。 

この時の藤原さんは弱冠20歳でありながら、YZR500でパワースライドを駆使しながら操りました。最初はまだマシンが横方向だけでなく縦方向にも揺れ、マシンが暴れていましたから、いつハイサイドが起こるかとドキドキしていました。 

ですが次第に安定感が出てきて滑らかなスライドになっていきました。そして87年の全日本GP500のチャンピオンとなり、続く88〜89年は先輩である平忠彦さん同様、3年連続で全日本チャンピオンとなりました。まだ若かったわけですから、メーカーがなぜ世界GPにフル参戦させないのか、ファン達は不思議に思っていました。 

ちなみに今回のイラストは、93年のキリンメッツヤマハ時代のもの。筑波の第1ヘアピン進入の逆ハングオフシーンを描きました。この逆ハングオフフォームも、世界GPにスポット参戦した平忠彦さんや水谷勝さんが全日本に持ち込んだ走法でした。他にも清水雅広さんも取り入れていました。 

 藤原さんのライディングフォームの特徴は、深く伏せて頭の位置が低い事でした。おもしろいのが、この後に出てきたバレンティーノ・ロッシ選手も同じイメージのフォームでした。どちらも180㎝前後と背が高いわりに、深く伏せるフォームが共通点でした! 一方同じように高身長だったケビン・シュワンツさんは真逆のフォームをしていて、腰はイン側に落とすものの背中を立てているため、頭の位置は非常に高い場所をキープしていました。マシンの挙動変化を上から俯瞰してコントロールするイメージですね。 

藤原さんとロッシ選手は「背が高いことを利用するフォームではなかった」という事ですね。どちらが正しい、速い、という意味ではなく、そういう特徴を持ったライダー達だったという意味ですね。 

 絵の世界の構図から考察すると、目線が低いとライダー自身は速さを感じる。逆に目線が高いと(俯瞰)、目の中を流れ去る景色のうち、空の割合が多くなってスピード感が薄れるはずなのですが、現役の全日本のトップライダーに聞くと「頭の位置(目の高さ)はあまり関係ないのでは?」とも言っていました。レースをする人達の動体視力の凄さを改めて感じる話しでもありました。

今回は、ライディングフォームの比較イラストを描きました。ご覧のように藤原さんとロッシ選手は伏せがちで頭の位置が低いのが特徴ですスクリーンの中に頭がある感じですね。ロッシ選手が2000年にGP500に乗り始めた頃から、藤原さんとよく似たフォームだなと思っていました。対してシュワンツさんはリーンアウト乗りで、背中を立てる状態でマシンをコントロールしますから、頭は非常に高い位置にありました。さらに言えばシュワンツさんは、フルバンクしたマシンと路面の間にイン側の膝を閉じ、挟むようにしていました。後ろから見るとインの膝が閉じて、アウトの膝が開くフォームをしており、他のライダーの逆になっていた事を付け加えておきます。比較的にロードレーサーは小柄な印象の方が多い気がしますが、藤原さんは180cm、ロッシ選手が181cm、シュワンツさんが179cmもありました。

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