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元MotoGPライダー中野真矢がトライアンフ スピードトリプル1200RRを試乗インプレッション

英国が生んだ伝統への原点回帰でもあり、現代的な進化とも捉えられる。’21年型でフルモデルチェンジを受けたネイキッドのスピードトリプル1200RSが、世界各国でトレンドとなっているカフェレーサースタイルのRRに、意表を突く発展。美しく洗練されたルックスと高いスポーツ性の融合に、中野真矢さんも高評価!

【中野真矢】ロードレース世界選手権では’00年にGP250でランキング2位。翌年から最高峰クラスに参戦し、ヤマハ、カワサキ、ホンダのマシンで’08年まで活躍。現在は二輪ファッションブランドの56designも運営する。

刺激的なトリプルエンジンのファイターが英国発祥のカフェレーサースタイルに変身

ストリートファイターのパイオニア的な存在として、94年型からの長い歴史を持つのが英国トライアンフのスピードトリプル。昨年、フルモデルチェンジにより最新作となるスピードトリプル1200RSが鮮烈デビューを飾った。 

トライアンフがこだわる直列3気筒レイアウトの水冷エンジンは、スピードトリプルRSの車名で18年にデビューした先代の1050㏄から、1160㏄まで排気量を拡大し、最高出力は30ps増の180psになった。 

アルミ製のメインフレームとシートレール、スイングアームも新設計され、センターアップだったマフラーは車体右側1本出しに。車体全体で先代から10㎏も軽量化された。前後サスはオーリンズ製のNIX30倒立フロントフォークとTTX36リアショックを受け継ぎ、ブレンボ製Stylemaフロントキャリパーの採用でブレーキも強化。加えて、電子制御やメーターもアップデートされた。

「スピードトリプルRSは、先代から大好きなバイクのひとつ。非常にバランスがよくて、公道でもサーキットでも扱いやすいです。その主役は3気筒エンジン。ストリートトリプルの765㏄仕様もかなりいいのですが、サーキットではやはりリッタークラスのほうが欲しいところでパワーを得られるので、気持ちよさがさらに上です」 

中野さんはRSをこう評価するが、RRとなり、ライディングポジションの違いが走りにどう影響するのか、2台をサーキットで比較試乗した。

スポーツに最適だがキツすぎない絶妙なポジションが自在感を高める

「このエンジンは、スゴくいいセッティングが出ている感触があるんです。スロットル開け始めのパワーが立ち上がるところや、スロットルを閉じてエンジンブレーキが効いてくるところなどに、唐突さがありません。だから非常にコントローラブル。スロットルを少し開けるとトラクションがかかって後輪が路面に喰いつき、バイクが『もう大きく開けていいですよ〜』と伝えてくれるから、恐怖感なくコーナーを立ち上がってフル加速させられます。モトGP時代に、4気筒エンジンの爆発タイミングに関する開発テストも多く経験し、2気筒のようなトラクション性能と4気筒の伸びをどこでバランスさせるか……なんて開発にも携わってきました。3気筒というのは、まさに2気筒と4気筒の間にあり、いいバランスです」

ベースにいわゆるカフェレーサーのような仕様変更を加えて、専用の装備も与えたモデルだ。

RRは、RSをベースにいわゆるカフェレーサーのような仕様変更を加えて、専用の装備も与えたモデルだ。97年型から同シリーズのアイデンティティになってきた2眼ヘッドライトに代わり、丸型ヘッドライトを備えたハーフカウルを車体マウント。バーハンドルをクリップオンハンドルに換装し、これに併せてステップ位置を微調整。前後サスは同じオーリンズ製ながらセミアクティブタイプに変更してある。

「大きな違いは、言うまでもなくライディングポジション。セパレートハンドル化されたことで、RSと比べて前傾姿勢になります。試乗前、心配していたことがありました。前傾姿勢により、せっかく公道でも扱いやすいRSの長所がスポイルされるのでは……と。しかしそれは杞憂でした。確かに前傾姿勢だけどスーパースポーツほどではなく、3気筒エンジンと同じように、こちらにもちょうど良さがあります」

レーシングスーツを着用したサーキットでの試乗ということもあり、そのポジションを「しっくりくる」と表現した中野さん。さらに、RSとは異なるステップ位置による操作性の向上にも言及する。

「RSもそうなのですが、ネイキッドをハングオフでフルバンクさせると、足の角度が合わずにリアブレーキペダルをうまく踏めないことがあります。でも、少しバック&アップにセットアップされているRRはまったく問題ナシ。開発陣が、スポーツライディングのことをしっかり考えて設計した結果でしょう」 

カフェレーサーはトライアンフの母国である英国で60年代に生まれたが、当時のカフェレーサーカスタムは、セパレートハンドルの絞り角や垂れ角が多めでかなり窮屈な姿勢で乗るような設計も少なくなかった。しかしRRは、英国伝統のスタイルを受け継ぎつつ扱いやすさも備える。 

とはいえ、ポジションがスポーツライディングに最適化されたことで、中野さんの走りもRRのほうがよりアグレッシブになった。

「サーキットを走っているときに、〝決まっている〞というフィーリングがあります。ライディングモードは、デフォルト設定4タイプのうち、まずはロードでコースイン。ペースアップしてきたところで、トラックにモードを切り替えました」 

RRの前後セミアクティブサスペンションは、モード変更と連動して制御も切り替わる。中野さんは、トラックモードにしたことで、出力特性やトラクションコントロール、ABSなどの制御に加えて車体姿勢変化も、よりサーキット走行にマッチするようになった点にも着目する。

「ロードだと最初は非常に乗りやすいのですが、ペースが上がるとリアサスペンションの沈み込みが大きく、フロントが浮き気味になるシーンが増えました。そこでトラックに切り替えたところ、リアサスがカチッとして、結果的にエンジンのトルクとパワーを推進力へとより効率よく使えるようになりました」 

鋭いコーナリングを連発していた中野さんいわく、「とにかくよく曲がります。前輪の舵角はやや多めに感じるけど、そこから切れ込んでいく感じは皆無」とのこと。切れ込むなら抑え込む必要があるし、逆に曲がらないバイクはどうしても操作に力が入るものだが、「そのどちらでもないので、まったく疲れませんでした」と振り返った。 

【SPEED TRIPLE 1200RR】RRの前後セミアクティブサスペンションは、モードの変更と連動して制御も切り替わる。トラックモードにしたことで、出力特性やトラクションコントロール、ABSなどの制御に加えて車体姿勢変化も、よりサーキット走行にマッチするようになった。
【SPEED TRIPLE 1200RS】フロントにメカニカルサスペンションを備えるRS。「リアはRRのトラックに近いくらいカチッとしていて、フロントはソフト。アンバランスに思えるかもしれませんが、バーハンドルとの組み合わせなら、車体姿勢変化を利用してさまざまな操作をしやすいです」

ちなみに、メカニカルサスを備えるRSは、「リアはRRのトラックに近いくらいカチッとしていて、フロントはソフト。アンバランスに思えるかもしれませんが、バーハンドルとの組み合わせなら、車体姿勢変化を利用してさまざまな操作をしやすく、これはこれでアリ」とのこと。ひとつのキャラクターとして、うまくバランスされている。また、フロントが柔らかめな傾向なのはRRも同じで、「攻めていけるぶん、自分はもう少しハード方向に振るようなセッティングが好み」と中野さん。ただし、「全体的なパフォーマンスと気持ちよさは、これまで乗ってきたナンバー付きのノーマル車としては、自分が経験してきたバイクの中でもかなり上位」とお気に入りだ。

「排気量は1160㏄ですが、まるで800㏄くらいのバイクに乗っているかのよう。とにかく扱いやすいので180㎰もある感じはなく、でも速い。レースするとなったら、2気筒ほど低中回転域のトルクがないとか4気筒ほど上は伸びないなんてネガティブな要素も思い浮かぶかもしれませんが、ファンライドならまさにベスト。気持ちよくスロットルを開けられるバイクです。スゴくお洒落なのに、サーキットもイケるというのが最高。エンジンはもちろん、車体もほぼ完成の域に達しています。ぜひ多くのライダーに乗ってもらいたいバイクです」

コントローラブルなエンジンを軸にスポーティな装備で全体をまとめる

フレームマウントのハーフカウルを装備。クラシカルな雰囲気だが、スクリーン両端に設けられたエアルートや肉薄のバックミラーステー、両サイドのカーボンファイバー製パーツなどで、空力特性を高める設計が施されている。丸型LEDヘッドライトはデイタイムランニングライト機能付き
ラジエターのサイドパネルは、RSのアルミ製に対してRRはカーボンファイバー製
燃料タンクからフロントシートにかけての下部に配されたサイドパネルも、RR専用となるカーボンファイバー製。ちなみにフロントフェンダーは、RSとRRともにカーボン素材が使われている
シートは前後セパレート型で、ピリオンシートに加えてシートカウルが付属する。フロントシートは最適なグリップを得られる2タイプ切り替え表皮を採用。
’21年型RSでショートストローク化されつつ排気量は1050→1160ccに拡大されたエンジンは、RRも同様の性能。
メッツラー製レーステックRR K3を履くRSに対して、RRはピレリ製ディアブロ・スーパーコルサSP V3を装着する
オーリンズ製のリアサスは、フロント同様にセミアクティブ仕様。IMUなどの情報を演算して瞬時に減衰力が調整される。
ブレーキにはコーナリングABSや前後連動機能も与えられ、走行モードに連動して制御が変化。ABSキャンセルも可能。
Bluetooth によるスマホ連携機能付きの5インチフルカラーディスプレイは、左手側のジョイスティックなどで操作
フロントブレーキのブレンボ製マスターシリンダーはMCS仕様。レバー位置に加えてレシオを3段階で調整可能だ
トップブリッジ上にバーハンドルをセットするRSに対して、RRは専用トップブリッジ下側にセパハンをクリップオン
フロントフォークはRSとRRともにオーリンズ製だが、RRは電子制御セミアクティブ式。減衰力が自動調整される

Riding Position

シート高はどちらも830mmで、身長167cmの中野さんがレーシングスーツを着用した状態だと、両足のつま先が着く程度。RSでもステップ位置は高めだが、RRはさらに少しアップ&バックにセットされている。「前傾姿勢となるRRのほうが自然なポジションですが、ハンドルが高いRSのほうが取り回しは楽で、足着きがあまりよくない状態でも安心感があります」と中野さん。

【SPEED TRIPLE 1200RR】
【SPEED TRIPLE 1200RS】
SPECIFICATIONS【SPEED TRIPLE 1200RR】【SPEED TRIPLE 1200RS】
エンジン水冷4ストローク直列3気筒DOHC4 バルブ
総排気量1160cc
ボア×ストローク90.0×60.8mm
圧縮比13.2:1
最高出力180ps/10750rpm
最大トルク125Nm/9000rpm
変速機6速
クラッチ湿式多板油圧式、スリップアシスト
フレームアルミニウムツインスパー
キャスター/トレール23.9°/104.7mm
サスペンションF=オーリンズ製φ43mm フルアジャスタブル 倒立フォーク/Smart EC 2.0F=オーリンズ製 φ43mm NIX30倒立フォーク
R=オーリンズ製モノショック/Smart EC 2.0R=オーリンズ製TTX36モノショック
ブレーキF=φ320mmダブルディスク + ブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパー
R=φ220mmシングルディスク + ブレンボ製2ピストンキャリパーR=φ255mmシングルディスク + ブレンボ製2ピストンキャリパー
タイヤサイズF=120/70ZR17
R=190/55ZR17
全幅×全高758×1120mm792×1089mm
ホイールベース1439mm1445mm
シート高830mm
車両重量200kg199kg
燃料タンク容量15L
価格228万5000円203万円

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