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熱狂バイククロニクル|シンデレラボーイ 本間選手の衝撃

無名新人ライダーの伝説

’80年代後半は毎シーズン、世界GPが終了してから、日本のファンは贅沢なレースを観れる状況になっていました。今で言うならMotoGPのオフシーズンに、クアルタラロ選手やマルケス選手らトップライダーが日本に集まりレースをしてくれる! という事です。それはそれは幸せな状況でした。

’86年シーズンの鈴鹿サーキットでは、全日本の「日本グランプリ」と呼ばれるレースがあり、菅生では「TBCビッグロードレース」がありました。さらに富士スピードウェイでは「富士スーパースプリント」もありました。

どのレースにも、シーズンオフとなった日本メーカー契約のトップライダーが招かれ、走りました。世界GPが終了してからのイベントレースとはいえ、展開によっては真剣勝負になる事も多々ありました。そんな真剣勝負となったレースのひとつに、平忠彦さんの伝説となった一戦がありました。

そのレースは’86年9月14日の鈴鹿サーキットで開催された、全日本の日本グランプリでした。ワイン・ガードナーさんと大バトルとなったのです(ちなみに翌’87年にガードナーさんは世界チャンピオンを獲得しました)。結果は平忠彦さんの優勝となりました。

続いて伝説となったのは、3週間後の10月5日の菅生でのTBCビッグロードレースでした。こちらでも平忠彦さんは、エディ・ローソンさんとの大バトルを見せてくれました。そしてこちらも平忠彦さんの優勝となったのです。

この時のローソンさんは、’86年に世界GP500クラスでのシーズンを制し、世界チャンピオンとなった直後でしたから、平さんの勝利は日本中のレースファンが驚きました。たった3週間の間に世界GPのトップライダー2人に勝ってしまったわけです。

そんな世界GPのオフシーズンに行われた日本でのレースで、もうひとつの物語がありました。それも’86年、9月21日の富士スーパースプリントでした。無名の新人ライダーが伝説を作ったのです。その新人ライダーは本間利彦さんでした。

全日本でもその名を知るファンはほとんどいなかったと思います。その伝説は富士スピードウェイ特有の濃い霧が発生した雨の中で作られました。彼が出走したGP250クラスには、世界チャンピオンのアルフォンソ・ポンスさんをはじめ、ファン・ガリガさん、アントン・マンクさん、ドミニク・サロンさんという、世界GP250クラスを代表するトップライダーが参戦しました。

この富士スーパースプリントは2ヒート制で、なんと全日本でもほぼ無名の新人が第1ヒートで勝ってしまったのですから、ファンは騒いだわけです。 

そしてさらに、この伝説に拍車をかけたのが、なんとこの無名のプライベートライダーの練習走行シーンを、テレビカメラが撮影していたことです。

本間選手は練習走行中にガス欠になり、コースサイドにマシンを止めていました。ちょうどそこにテレビカメラがあったため、偶然にもこの後、第1ヒートの優勝でシンデレラボーイとなるプライベートライダーにインタビューしていたのです。それがイラストにしたシーンです。

本間選手 熱狂バイククロニクル

この無名のプライベートライダーが、その後ヤマハにスカウトされ、ワークスライダーとなるわけです!

まさにシンデレラボーイの誕生を日本中のレースファンがテレビを通じて目撃したのでした。

テレビはその後の本間さんの足跡を追う事になるわけですが、凄かったのがあの日から2年後の88年です。フランスGPにスポット参戦する事となった本間さんを、カメラが追いました。

緊張の予選のシーンは圧巻で、本間さんのタイムは予想以上に速く、上位につけてみせました。最終的には予選2位と、フロントローに並び、決勝レースでも4位と、GP初参戦とすれば素晴らしい結果を残したわけです。

映像では、好結果を残した予選後に、さらにセッティングを合わせにいきたい本間さんを、ベテランメカニックがたしなめるように、「ペースが上がり速くなれば、新たな問題が次々に出て来るものだ!」と、本間さんを落ち着かせたシーンもカメラは抑えていたのです。

このシーンは本間さんをはじめ、チームの真剣さが強く感じられ、感動すら覚えました。初参戦でこの結果でしたから、順調に世界GPにフル参戦していたら、原田哲也さんよりも前に世界GP250のチャンピオンになっていたかも知れません。

その本間さんのフォームは、典型的な前乗りでした。前乗りのライダーの特徴は、シート位置の前方に腰を置く感じで、タンクに腰が付くくらいまで前に着座します。その結果、外足のヒザがタンクから離れます。これを前方から見ると、ヒザ頭がピョコンと突き出して見えます。メインの水彩画の感じですね。

世界GPでは、前乗りのライダーが意外と多く、ケニー・ロバーツさん、フレディ・スペンサーさん、ケビン・シュワンツさんもそれにあたります。メーカーを問わず速いライダーに多い印象です。

ただし、前乗りの方が良いとか、腰は引き気味が良い、というわけでは無い事も付け加えておきます。

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