1. HOME
  2. COLUMN
  3. テクニック
  4. 高田速人さんのスポーツライディングブートキャンプ|Vol.6 バイクを”曲げる”ボディアクションと視線

高田速人さんのスポーツライディングブートキャンプ|Vol.6 バイクを”曲げる”ボディアクションと視線

前回はバイクを“曲げる”ことの重要性と、ステップワークの練習法を紹介。今回は引き続きコーナリングをテーマとし、実践的なテクニックを公開。ポイントは“頭の位置”と“脱力”。効果絶大、コーナリングが変わる!

MFJ公認インストラクター【高田速人】

’76 年生まれ。東京都出身。鈴鹿4耐優勝を経て国際ライセンス取得。全日本や鈴鹿8耐の参戦多数。’13年から3年間、世界耐久選手権にフル参戦、最高ランキングは4位。バイクのタイヤとメンテナンスのプロショップ「8810R」代表

“腕をつっぱる”から“力を抜く”への移行が“バイクを曲げる”ポイント

今回はコーナリングについてさらに、理解を深めていこう。写真の連続版後は、筑波サーキット・コース1000の第3コーナーでの高田さんの走り。写真の番号は、左のコース図での位置を示したものだ。

①コーナー進入に向けてフルブレーキング。左右の腕を、しっかりと“つっぱる”ことで、減速Gに対抗し、フロントタイヤに荷重をかけてストッピングパワーを引き出している
②マシンはバンクし始めているが、腕は“つっぱった”まま。マシンをバンクさせるきっかけ作りは、イン側ステップへの荷重で行っている。急激でなくスムーズな荷重がポイント
③コーナー内に進入し、バンク角もかなり深くなってきているが、まだ腕は“つっぱった”状態を維持。狙ったポイントでバイクを“曲げる”ために、姿勢を維持し続けている
④コーナーの頂点近くまできて、ようやく腕の力を抜く。ステアリングをフリーにしてから、舵角がつくまでにラグがあるため、バイクを“曲げる”ポイントのやや手前を狙って脱力
⑤ステアリングに舵角がしっかりとついて、マシンはグイグイと向きを変えていく。スロットルを、ごくごく小さく開けることで加速を始め、トラクションがかかり車体も安定する
⑥この地点では、まだマシンは旋回状態にあるが、荷重がリア方向に移動しフル加速に備えた体勢をとっている。加速度が上がれば、意識せずとも荷重はリアに乗るようになる
⑦荷重がリアに乗り、次のコーナーに向かってフル加速。バイクを乗り手の意思で“曲げた”ことで、次のコーナーへ余裕を持って進入できる理想的な走行ラインを通っている

注目して欲しいのは、③の位置までしっかりと腕をつっぱっていること。バンク角はかなり深いが、ステップワークだけで、ここまで寝かし込むことが可能なのだ。 ポイントは④の位置、ここで腕の力を抜きステアリングをフリーにしている。そうすることで、ステアリングに舵角がつきバイクは向きを変える。どこで腕の力を抜くかで、バイクを〝曲げる〞ポイントをコントロールしているのだ。 

ブレーキングでは腕を〝つっぱる〞、マシンを寝かす操作は、ステップワークで行う。そして通りたい走行ラインを見据えて、腕の力を抜くことでバイクを〝曲げる〞ことができる。 

とはいえ、この〝力を抜く〞が難しい。そこで、簡単な練習方法を高田さんが教えてくれた。それは、進行方向をしっかり見ること。この時、目を動かすだけではダメ。頭全体を行きたい方向に向ける。そうすることでイン側の肩を後方に捻るかたちになり、自然と腕を〝つっぱる〞ことでかかっていた、ハンドルへの力が抜けるのだ。

〝力を抜く〞練習をする時は、ステップワークと同様に、スムーズな動作を心がけること。急激な動作は、マシンの挙動の乱れを招き、コントロールを失う。最初はゆっくりとした動作を心がけよう。バイクを思い通りに〝曲げる〞ことより、挙動の乱れを起こさないことの方がプライオリティは高いと考えるべきだ。

「子供抱き上げる時を思い浮かべてください。子供の方から抱きついてくれば、抱き上げるのに必要な力は少なくて済みますよね。嫌がって、ジタバタと暴れられると、抱き上げる動作に力が必要です。これをバイクの挙動が乱れている時と考えれば、スムーズに挙動を乱さないように走ることのメリットが分かります。 

抱っこで一番力が必要なのはどんな状態だと思いますか? それは子供が眠って、脱力している時です。ダラっと脱力した状態は重い。今度は、さっきと逆に自分が子供の立場になってみます。ライダーが脱力していると、車体に体重が乗りやすいということです。力を抜くことで、効果的な荷重ができるんです。バイクを操るのに、基本的に力は要りません。ブレーキングや切り返しなど、瞬間的に力を入れることを必要とするシーンはありますが、自分の体重を利用すれば、ラクにバイクを操ることができるんです。 

バイクを〝曲げる〞ために、〝つっぱった〞腕から力を抜くと説明してきましたが、これは効果を体感しやすいテクニックとして紹介しています。本来必要なのは全身の脱力です。リッタースーパースポーツの車重は200㎏前後、馬力は200㎰、運動エネルギーは人間の力でどうにかできるレベルじゃありません。力を使わず、脱力した状態でバイクをコントロールすることが、楽しく、上手く走るためのポイントです」 

ライディング中の〝脱力〞を身につければ、バイクは面白いように〝曲げる〞ことができる。無駄な力を使わないことで、走った後の疲労度も小さくなる。ぜひ習得して欲しい。

コーナリングの基本中の基本“バイクはライダーの向く方向に進む”を実践

目の動きだけでなく頭ごと進行方向を向く

GOODでは、頭ごとコーナーの脱出方向を向くことで、イン側の腕から力が抜け、ステアリングに舵角がつき、コーナリングフォースを引き出している。NO GOODは、視線だけコーナーの脱出方向に向けている。ほぼ、同じ位置で撮った写真だがバイクの向いている方向が明らかに違う。

頭の向きでバイクを曲げるには?

“頭ごと進行方向を向く”動作を人間だけで再現。右コーナーの場合、頭をしっかり右方向に向けることで右肩が後方に引かれ、肘が曲がって“つっぱって”いた腕から力が抜ける。分りやすいように動作を大きくしてはいるが、ライディング中の動きと基本は同じだ。

クリッピングポイントだけに集中せず幅広い範囲に意識を配る

進行方向を向くだけでなく、視線をどこに置くかも重要。ありがちな悪い例が、クリッピングポイントだけを注視してしまうこと。これでは限られた視覚情報しか得ることができない。高田さんのようなプロライダーは、進行方向を向くと同時にコースの広い範囲を見ている。人間は視覚で得た情報に反応してアクションを起こす。情報量を多くすることで、走りに余裕が持てて、不意なアクシデントにも対応しやすくなる。視界を広く持つことを意識して走ろう。

思うように腕の力を抜けない時の解決法

コーナリング中の脱力が上手くいかないという人に、簡単な解決法がある。それは、頭をイン側のハンドルに近づけること。自然と腕が曲がり力も抜ける。前傾の強いバイクに慣れていないと、コーナリング中に腕が伸びきったままで、ステアリングに舵角がつく動きを阻害することが多い。バイクが曲がらないと感じているなら、ぜひ一度試してみて欲しい。

関連記事