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HONDA CBR1000RR-R FIREBLADE SP インプレッション|ホンダ最強マシンが、静かに進化

ホンダの誇る、スーパースポーツのフラグシップたるCBR1000RR-R。デビューから3年目を迎えて、初のモデルチェンジを敢行。エンジンと電子制御を中心にマシン全体がブラッシュアップされ、その走りは別物に進化。見た目に騙されるな。この仕上がりは、もはや“RR-R 2.0”とでも呼ぶべきだ。

この春、CBR1000RRRがモデルチェンジを敢行した。とはいえ、外観上は何も変わっておらず、いわゆるマイナーチェンジと思われていた。むしろ、シリーズの祖であるCBR900RRの誕生から30周年を記念した、アニバーサリーカラーが期間限定で設定されたことの方が、注目を集めていた。多くの人が注目していなかったかもしれない。CBR1000RR‐Rのモデルチェンジだが、実は大進化を遂げていたのである。

「こんな乗りやすいバイクでしたかね? 全く違うバイクに感じます」

これは、インプレッションを担当した高田速人さんのコメントだ。高田さんは、経験豊富なライダー。CBR1000RRでレースをしていた時代もあり、かつてホンダドリームで店長を務めた経験もある。歴代ファイアブレードにも精通している。もちろん、CBR1000RR‐Rというバイクへの理解も深い。その高田さんをして〝違うバイク〞と言わしめる新型はいったいどこが、どのように変わったのだろう。 

ホンダの発表によれば、主な変更点は4つ。パワーユニット、電子制御、足まわり、カラーリングだ。 

まず、パワーユニットだが、吸気ポート形状とマフラーの集合部形状が変更され、1万1000回転付近の出力を向上させたという。また、ドリブンスプロケットが3丁上げられ、最終減速比が加速方向に振られている。エアクリーナーボックスとエアファンネルも見直され、スロットルバイワイヤのリターンスプリングが軽いものに変更された。 

電子制御は可変走行モードのホンダ・セレクタブル・トルク・コントロールのプログラムが変更。さらに、クイックシフター変速作動時の燃料噴射時間を短縮し、変速ショックの低減が図られている。足まわりに関しては、スタンダードモデルのフロントブレーキキャリパーのピストンが改良された。カラーリングも一新されたが、これは走りに関係することはない要素だ。 

エンジンに投入された新設計パーツは少なくないが、これで、どれだけ走りに違いが出るのだろうか? ホンダは11000回転付近の出力向上を謳っているが、超高回転型のエンジンにとってはパワーバンドの序盤領域。最終減速比のショート化と併せ、過渡特性の向上を狙ったものかと推測されるのだが?

「エンジンにパンチが出ましたね。従来型は全体的にフラットな特性で、モーターのように回るエンジンでした。そのこと自体は悪くない。あれだけハイパワーなエンジンですから、フラットな特性は扱いやすさの面でメリットがある。ですが、どの回転域を使って走ればいいのかが解りにくい。その点、新型はこのシチュエーションなら、この回転域を使えば速いとの判断がしやすい。
エンジンの使い所が分りやすいバイクにもいろいろあるんです。例えば、ドゥカティのパニガーレV4Rは、乗り手を煽るキャラクターだ。ここがオイシイんだから、もっと開けてみろよ! と、バイクが主張します。新型CBR1000RR‐Rは、ここを使うと速く走れるのだと、バイクがレクチャーしてくれるようなイメージですね。スロットル操作に必要な力が軽くなったとのことですが、正直なところ大きな違いを感じとることはできませんでした。個人的には、従来型でも不満がなかったもので……。ですが、少なくとも操作に違和感を感じることはありません。快適に操作できたことは事実です。スプロケットの変更に関しては、サーキットに限定するのなら、もっとショートでも良いと思います。自分がレースに使うなら、そうします。ですが、ストリートを考えれば妥当な設定だと思います」 

パワーの面に関しては、新型はかなり好感触である様子。だが、それ以上に高田さんが評価したのが電子制御の進化だ。

「トラクションコントロールやABSが介入する時の感覚が、それまでの状態からの違和感が小さく、タイミングもリニアです。例えば、トラクションコントロールです。新型と比較すれば……ですが、旧型ではタイヤがハッキリとスライドを始めてから介入が始まっていました。そこに違和感を感じましたし、駆動力をカットした時のパワーの落ち幅が大きかった。新型は、もっと自然に駆動力を抑えて、パワーダウンを最小限にグリップを回復させています。予測制御的な傾向が強められているのだと思います。基本的に安全マージンを多く取った制御で、それは新型も従来型も変わりません。旧型で感じた介入時の唐突さが、新型ではカドが取れてキレイに慣らされている。今回試乗したのは電子制御式サスペンションが装備されたSPですが、こちらのセッティングも同様に良くなっている。ベースセッティングが見直されているのでしょうね。 
従来型はフルバンク領域の安定性は良かったのですが、新型はハーフバンク領域が良くなっています。キャパシティが大きな車体設定ですね。ビギナーが安心して走れて、上級者でも不満が出ないレベルでしょう」 

エキスパートでも乗りこなすのは容易ではないと言われたCBR1000RR‐Rだが、新型は全面的に高性能化が図られ、間口まで広がった。変わらない見た目に騙されてはいけない、劇的な進化を見逃してはいけないモデルだ。

HONDA CBR1000RR-R FIRE BLADE SP

  • エンジン:水冷4ストローク直列4気筒 4バルブ
  • 排気量:999cc
  • 最高出力:218ps/14500rpm
  • 最大トルク:11.5kgf・m/12500rpm
  • シート高:830mm
  • 車両重量:201kg
  • 価格:278万3000円
エキゾーストパイプの集合部形状と、キャタライザーの構造を変更し、排気抵抗の最適化を図る。サイレンサーは従来モデルから継続する、アクラポヴィッチと共同開発された排気デバイス内臓タイプを装備する
SPモデルは電子制御サスペンション、オーリンズ製 Smart ECとブレンボ製 STYLMAキャリパーを採用。スタンダードモデルのサスペンションは前後ショーワ製。ニッシン製キャリパーは、ピストンの材質と処理を見直す
極細スポークを採用した超軽量なホイールも従来モデルを踏襲する。鮮烈なゴールドカラーはSPモデルの専用色、スタンダードはシックなブラック仕上げ
大画面5インチの高解像度フルカラーTFT液晶メーターは、従来型から継続。多彩な画面表示や電子制御のパラメータは、全てハンドルスイッチで変更可能
スロットルバイワイヤの、リターンスプリング荷重を軽減。スロットル操作時のレスポンスを向上させている。統合型ライディングサポートシステムのホンダ・セレクタブル・トルク・コントールは制御プログラムを変更
ドリブンスプロケットを従来モデルから3ティー歯数を増やした43ティーに変更。最終減速比を加速側に変更したことと、過渡特性が向上したエンジン特性と組み合わせることで、より力強い後輪駆動力を獲得している
SPモデルに標準装備のクイックシフターは、制御プログラムを熟成し変速時のトルク変動を軽減。より素早く、パワーダウンの少ないシフトチェンジを実現
吸気ポート内径の一部を絞った形状に変更、吸気速度を上げて充填効率を向上させる。マフラーやエアクリーナーボックスの変更と併せ、中間域の出力が向上

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