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ベースの良さが光る2台|KAWASAKI Z650RS & Z650 試乗比較

’70年代レトロテイストをまとい’22年4月にデビューしたZ650RSは、ストリートファイターのZ650を大幅に仕様変更した注目モデル。となれば多くのユーザーが気になるのは、ベースモデルとの走りの違い。元MotoGPライダーの中野真矢さんが、サーキットテストで検証する。

乗車姿勢の違いが、乗り味にも差を生む

カワサキは、エントリーライダーが最初の愛車として選択するのにもベテランライダーがダウンサイジングを選択するときにも最適なミドルクラスで、649㏄水冷パラレルツインエンジンを高張力鋼管トレリスフレームに搭載したシリーズを展開する。’22年4月には、かつてのバイクが持っていた雰囲気を現代的な技術も用いながら再現したヘリテイジカテゴリーに属するZ650RSが導入され、さらに選択肢が増えた。

’18年に発売が開始された948㏄水冷直列4気筒エンジンのZ900RS/カフェは、’70年代の900スーパー4(通称Z1)を思わせるルックスが好評で3年連続でクラストップセールスを記録する大ヒットとなったが、Z650RSにも’70年代Zの雰囲気が与えられていて、「ザッパーの再来」なんてワードとともに注目を集めている。ザッパーとは、’76年に登場したかつてのZ650のこと。当時、カワサキはZ1で北米市場などを席巻していたが、その地位をさらに盤石のものとすべく投入されたのが弟分のザッパーだった。Z1よりも軽快に扱え、ナナハン(ホンダのCB750フォア)よりも速く手ごろな価格というのが、ザッパーのコンセプト。ちなみにザッパーとは、風を切る擬音の「ZAP」に由来しているというのが定説である。 

しかしながら”現代のザッパー”は、軽快さはともかく速さを追求する設計とはちょっと異なる。これは、開発ベースが現行のZ650であることにも大きく関係している。

「久しぶりに乗りましたが、相変わらず絶大な安心感。身長168cmの僕でも両足の裏がほぼ接地する良好な足着き性で、車体は引き起こしの段階から軽くて、アシスト&スリッパークラッチのおかげで発進時のクラッチレバー操作もとにかく軽い。250㏄クラスと勘違いするような〝とっつきやすさ〞です」 

最初にZ650をあらためて試乗した元MotoGPライダーの中野真矢さんは、このように評価する。ただし現代のZ650は、乗りやすさだけで終わるバイクではない。

「アイドリング時はおとなしそうな雰囲気ですが、サーキットでスロットルを大きく開ければ、そこはやっぱり650。それなりのパワー&トルクがあり、ときにはリアタイヤが軽くスライドしながらコーナーを立ち上がることもあるほど。250㏄クラスとはかなり違います」 

中野さんは以前の試乗でも、「低回転域に力強さがあるため、これは逆に高回転域は8000rpmくらいで終わりかな……と予想していたら、レッドゾーンに入る10000rpmまできれいに伸びました」と、その意外性に言及している。

「おいしいゾーンは6000rpmあたりから。とはいえ唐突にパワーが立ち上がるわけではなく、滑らかに加速が続く印象」とのことだ。 

現行Z650には、4気筒のZ900というひとつ上の〝兄貴〞がいて、容姿はかなり似ているが、「アグレッシブな雰囲気こそ共通ですが、乗り味はだいぶ異なります」と中野さん。「フロントにスゴく荷重がかかるわけでもなく、攻撃的なルックスなのに乗るとひたすら乗りやすいネイキッドという印象。前後のバランスが非常にいいのが、走りに表れています」と話す。

「これは感覚的な表現なのですが、自分の中では『もっと、もっと攻めてみよう!』と思えるというのが、いいバイクかどうかの基準。Z650は、ベーシックな装備とはいえ車重や車速に対するブレーキの制動力も十分で、前後サスペンションが柔らかめだからこそ限界も教えてくれます。だからこそ『もっと……』という気持ちにさせてくれるんです」

そして新たに追加されたZ650RSは、このように素性がよいZ650をベースに開発されている。エンジンの性能は完全に同一。つまり、発進での扱いやすさや豊かな低回転域トルク、広めのパワーバンドとレブリミットまでの滑らかな伸びを備えている。一方で車体は、外装類以外にもシートレールやハンドルバーが異なり、これにより乗り味にも違いが演出されているようだ。

「ハンドルがアップタイプでシートクッションも厚いので、よりコンフォートな印象を受けます。Z650の『もっとスポーティに』という感覚に対して、Z650RSは『のんびり楽しく走らせたい』と思わせるバイク。ライディングポジションの違いで、走りに対するイメージは意外と大きく異なります」 

また、感覚的な違いだけでなく、「実際の走りでもこの2機種は少し違います」と中野さん。

「Z650RSのほうがアップライトなので、リアで乗る感じ。フロント荷重がかかりづらい傾向なので、サーキットでアグレッシブに操るときには、フロントがやや軽すぎるフィーリングも……」と指摘する。

「こうやって乗り比べると、同じエンジンとメインフレームを使いながら、スタイリングに合わせて走行性能もしっかり味つけできていると思います。どちらがいいとかではなく、サーキット走行を含むスポーティな走りに興味があるならZ650、公道でゆったりバイクを楽しみたいならZ650RSが向いています。
とはいえ、素性のいいZ650はツーリングでも扱いやすいですし、Z650RSでサーキット走行がまるで不可能なわけでもありません。そうなると、結局のところ最後はスタイリングの好みが決め手……なんてことになるのかも。ちなみにミドルクラスは、車両価格がリーズナブルでノーマルの設計がベーシックな傾向であるぶん、カスタマイズしていく楽しさもあると思います」 

ちなみに、Z650RSのほうがシートレールは寝ているが、シートに厚みがあるためシート高は10mm高く、その差が足着き性にそのまま表れるため、中野さんがZ650RSに跨るとカカトが少し浮く。ただし、「車体も軽いし、全体的な扱いやすさもあるので、もっと小柄なライダーでも不安は少ないはず」とのこと。

だからこそ、「どちらの車種でもいいので、エントリーライダーにはこういうバイクでステップを踏んでほしいし、大きなバイクに疲れたベテランライダーには肩肘張らずライディングする楽しさを満喫してほしいです」と中野さんは話す。

「最新リッタースーパースポーツのようにエキサイティングで電子制御満載というわけではないけど、だからこそ〝素のバイク〞をじっくり味わえる楽しさもあると思いますよ」

KAWASAKI Z650RS & Z650

  • エンジン:水冷4ストローク直列2気筒4バルブ
  • 排気量:649cc
  • 最高出力:68ps/8000rpm
  • 最大トルク:6.4kgf・m/6700rpm
  • シート高:790mm(800mm)
  • 車両重量:189kg(188kg)
  • 価格:85万8000円(103万4000円)
  • ※( )内はZ650RS

Z650RS

丸型LEDヘッドライトは、ロー/ハイビームで上下に点灯エリアを分けつつ、ポジションランプを備えることで全体が光っているイメージに
往年のカワサキZ系をオマージュした楕円形のLEDテールライトは、点の集合体ではなくバルブ(電球)のような点灯パターンを採用
Z900RSと同じく、前後アルミキャストホイールはワイヤースポーク仕様を連想させる造形。ブレーキディスクはオーソドックスな円盤状に
丸みを帯びた専用設計の燃料タンクを装備。コンパクトさを強調して車体のスリムなイメージにも繋げる。Z650より3L少ない12L容量だ
シートも前後一体型の専用品。レトロさと快適性を大切にする。Z650よりシートレールの角度は緩やかだが、シート高は10mm増の800mm
ハンドルはZ650よりアップライトな仕様。液晶パネルを内蔵した指針式2眼メーターは、細部を専用化しながらZ900RSと似せている

Z650

ツーピース構造のヘッドライトカウルとシャープな意匠のチンスポイラー&メーターバイザーで、現行Z系らしいSugomiデザインを演出
LEDテールライトはX字状に点灯。タンデムシート下にETC2.0車載器を標準装備する。チェーンカバーと一体のインナーフェンダー付き
ニッシン製のベーシックな片押し2ポットフロントブレーキキャリパーはZ650RSと共通だが、Z650は前後ディスクがペタル形状だ
フラットなバーハンドルを装備。4.3インチTFTカラー液晶スクリーンはスマホ連携機能を備え、電話着信やメール受信なども確認できる
前後セパレートタイプのシートは、ライダー側を低めにセットし、なおかつ燃料タンク側を絞り込むことで、足着き性を向上してある
フラットなバーハンドルを装備。4.3インチTFTカラー液晶スクリーンはスマホ連携機能を備え、電話着信やメール受信なども確認できる
高張力鋼管トレリスフレームに搭載される649cc水冷パラレルツインエンジンはシリーズ共通設計で、’06年型ER-6f/n用がルーツ。アシスト&スリッパークラッチを搭載するが、とトラクションコントロールやパワーモードは装備しない

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