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DUCATI Panigale V4 S 原田哲也インプレッション|僕らが戦ったGP500マシンより速い!

ドゥカティのスーパーバイクは、いつの時代もピュアにそのサーキットパフォーマンスやスポーツ性を磨いてきた。’18年にデビューして以来、毎年のようにアップデートを続けてきたパニガーレV4は、スピードを極めようとするスーパースポーツだ。現状に満足することなく爪を研ぎ続ける猛獣を、かつて“クールデビル”として知られた原田哲也さんが手なづける!

WGP王者を唸らせる非日常的な加速

イタリアのボローニャにあるボルゴ・パニガーレを創業当初から本拠地としてきたドゥカティ。その地名から名づけられたパニガーレシリーズは、同社を代表するスーパーバイクとして知られる。’18年型からは、エンジンがそれまでの伝統だったLツイン(挟角90度のV型2気筒)ではなく逆回転クランクを採用した排気量1103㏄の90度V型4気筒となり、エンジン本体をストレスメンバーとするフレーム構造は、アルミ製モノコック構造からさらに一歩進化して、フロントフレームと呼ばれる形式となった。
 
’19年にはレースホモロゲーションモデルのパニガーレV4Rが登場。’20年型ではシリーズのうちスタンダード仕様に相当するパニガーレV4/Sがマイナーチェンジを受け、ウイングレットを採用しつつサイドフェアリングが変更され、フロントフレームの剛性最適化や電子制御の改良も施された。さらに’21年型では、排ガス規制のユーロ5に適合化。トラクションコントロールの制御改良なども施されている。

そして迎えた、V4シリーズとしては5年目の’22年、V4/Sは再び大幅なマイナーチェンジを受けた。その詳細はこの後のページにまとめてあるが、変更箇所は多岐にわたる。

細かいアップデートを積み重ねることで、パニガーレV4 /Sは年々速さに磨きをかけ続けているのだ。

「それにしても……速すぎますよね。もてぎ(MotoGPの開催サーキットとなっているモビリティリゾートもてぎ・ロードコース)ですら、2速でもオーバーレブのところまでなかなか回せませんから!」

かつてロードレース世界選手権で活躍した原田哲也さんに、こう言わしめる加速力。これこそがまずは、パニガーレV4 /Sの魅力だ。オーバーレブの話題になったのは、’22年型のエンジンが以前よりも500rpm高い13500rpmで1.5㎰増となる215.5㎰を叩き出すようになっただけでなく、「ピークパワーを超えた14500rpmでの出力が2.5㎰増加している」と発表があったため。ただし原田さんは、「新旧比較ができなかったので、2㎰程度だとさすがにわかりませんね」と話す。

今回は、V4RやV4SP2などのスペシャルモデルを除いたスタンダードラインナップの中では、上級グレードとなるV4Sをテストした。オーリンズ製の電子制御サスペンション&ステアリングダンパーを装備しているのが大きな特徴だが、「こちらも同じ条件で新旧比較できていないため記憶の範囲内ですが、以前のモデルと比べて動きがスムーズな印象」と原田さん。「ある程度ストロークさせたところで変に反発するような感触がないため、操縦しやすさだけでなく乗り心地もよくなっているように感じられます」という。

また、電子制御サスペンション以上に進化を感じたのは「クイックシフターとトラクションコントロール」とのこと。シフターは、これまで以上に入りやすいという。新型は、変速機の1速と2速と6速のギア比が見直され、DQS(ドゥカティ・クイック・シフト)には新しいキャリブレーションが導入されている。

「従来型のほうが、トラコンが介入しつつも後輪の滑りを多く感じる印象。新型は、制御がより高精度なので、バイク任せでスロットルを開けておけばOK。多少滑っていても、制御が緻密なので気になりません」 

例えば、もてぎの2コーナー立ち上がりはかなりガッツリとスロットルを開けていくポイント。そこでも、「滑っているのかいないのか、トラコンが効いているのかいないのかわからない感じで、しっかりバイクが前に進んでいきます」と原田さん。

トラコンの設定は「5」だったが、それでも「制御が自然かつ極めて細かいので、介入しすぎるような感覚もまるでなし」という。また、この2コーナーアウト側縁石付近は路面にうねりがあるのだが、「サスが上下しても、それで一気にトラコンの介入が増すようなこともなく、とにかく制御は緻密」という。

ただし、高精度な電子制御がライダーの操作を助けてくれるとはいえ、サーキットで乗るパニガーレV4Sは「とにかくワイルドなバイク」と原田さんは表現する。

「パワーがあるというのもそうですが、加えて車体姿勢はリアがかなり高く、そのためコーナーでは曲がるけどブレーキングには難しさがあります。ハードブレーキングからのヘアピンカーブ進入は、とくにその傾向を強く感じやすいと思います」
 

原田さんのライディングを見ていると、コーナーの手前で早めにしっかり止めて、それほど強くフロントブレーキを引きずらずクリッピング方向にアプローチしていた。このライディングが、サーキットで新型パニガーレV4Sを攻略するひとつのヒントになりそうだ。ちなみに、新旧を比べるとシート高は15㎜アップ。

「従来型もかなりリアが高い印象でしたが、それにも増して新型はリアが高い感じ」という。またそれだけに、「それほど強くブレーキングせずアプローチするような中高速コーナーは、曲がりやすいと思います」ともアドバイスをもらった。

では、原田さんから見た新型パニガーレV4Sとはどんなバイクなのだろう。ふたつのサーキットで乗り終えた後、原田さんはこのように総括してくれた。

「このパワーはそれだけで価値があります。速すぎて、もてぎのダウンヒルストレートで耳がキーンってなりました。それくらい速いバイクなので、少なくとも日本の公道でその真価を味わうことはまず不可能ですが、ライパとか僕がレーストラックアカデミーのメインインストラクターを務めているDRE(ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス)などのサーキット走行会やスクールで、これまで経験したことのないような加速を味わってみたい人には最高かもしれません。

だって、僕らがGP(ロードレース世界選手権)で乗っていた〝ゴヒャク〞より加速も最高速も上回っていて、車体は安定しているし扱いやすいんです。しかも電子制御は多彩で、V4Sならサスを含め、工具やパソコンがなくても細かくセッティング可能。自分好みにするという楽しさもあるでしょう。そして極めつけは、この美しさ。所有欲も満たせます。例えばもてぎに持ち込んで、ストレートでの加速を味わうだけでも十分。そこに待つのは、間違いなく非日常ですよ!」

原田さんは筑波サーキット・コース1000でのテストライディングに先駆けて、7月に実施したモビリティリゾートもてぎでのライディングパーティでもパニガーレV4Sを駆った

DUCATI Panigale V4S

1299パニガーレ系(水冷Lツイン)の後継として’18 年型で新登場したのが、水冷V4エンジンのパニガーレV4シリーズ。’22 年型では’20年型以来となる2度目の大規模なマイナーチェンジを受け、オイルポンプの改良とサイレンサーアウトレットの大口径化、マップ変更により最高出力が214→215.5psに高められた。サイドカウル下部には、冷却効率の改善を目的に新設計エアアウトレットを採用。V4Sは、V4よりも上級な装備が与えられている
シートはブレーキング時にライダーをサポートする効果を高め、体重移動がよりスムーズになるよう、よりフラットな形状に変更されると同時に表皮も見直された。Sは新たに黒×赤のツートーンに
V4Sのリアサスペンションは、従来型と同じくオーリンズ製のTTX36で、スマートEC2.0システムを用いたセミアクティブタイプだ。また、ステアリングダンパーもオーリンズ製の電子制御式となっている
V4/Sには’20年型で初採用されたウイングレットは、従来型よりも薄くコンパクトなダブルプロファイルデザインに。それでいて、300km/hでは従来型と同じく37kgのダウンフォースを発生する
V4S は、これまで同様に電子制御式のオーリンズ製前後サスペンションを装備。フロントはこれまでのNIX30から加圧式カートリッジダンピングシステムがオイルキャビテーションリスクを最小限に抑えるNPX25/30に変更された。ホイールトラベルは5mm増の125mmとなり、スプリングレートは10→9.5N/mmに。よりソフトな設定も選べるようになった
燃料タンクは後部形状の見直しによりブレーキング時などのホールド性を向上。公道走行時の快適性アップも図られた。ハングオフ時にアウト側の腕が接触する面積も拡大。タンク容量は16→17Lに増
アルミ製の片持ち式スイングアームは、エンジン後端にマウントされる。そのピボット位置は従来型より4mm上方に。これによりアンチスクワット効果を高め、加速時の安定性向上を図る
電子制御やメーターパネルも刷新。パワーモードのロジックも新しくなり、フル/ハイ/ミディアム/ローの4モードが設定された(フルとローは新設)。ハイとミディアムは、6速それぞれに専用のマッピングが適用される。ローモード時は150psまで抑制
標準仕様のV4は5スポーク鋳造アルミ製の前後ホイールを採用するのに対し、V4Sは3スポーク鍛造アルミ製。リアブレーキは、2ピストンキャリパーと245mm径ディスクを組み合わせる
1速、2速、6速をハイギアード化。1速は11.6%、2速は5.6%高くなり、タイトコーナーで1速を使いやすくし、1 ~ 2速のクロス化でクイックシフターがより機能しやすくなった
試乗車はドゥカティパフォーマンス製アクセサリーパーツとなるアクラポヴィッチ製の政府認証サイレンサーを装着。チタン合金製ボディでカーボン製エンドキャップだ

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