ノスタルジックな憧れを、呼び起こしてくれる|YAMAHA XSR900
ヤマハの“スポーツヘリテージ”カテゴリーをけん引するXSR900が、’22年型で大幅にチェンジ。排気量拡大などの刷新も受けつつ、’80年代のレーシングマシンを彷彿とさせるルックスに生まれ変わった。’90年代を中心にWGPで大活躍した原田哲也さんが、ツーリングシーンも想定しながらインプレッション!
良い意味で予想を裏切る乗りやすいネイキッド
ヤマハのXSR900は、水冷直列3気筒エンジンを搭載するMT-09をベースに開発されたスポーツヘリテージモデルだ。初登場は’16年型で、このときは正統派ネイキッドの佇まい。その後、何度かのカラーチェンジによって’80年代名車のイメージも取り入れられてきた。
そしてMT-09は、’21年型でフルチェンジ。それから1年遅れの’22年型で、XSR900にも大幅刷新が施され、このときに’80年代のヤマハレーシングマシンを彷彿とさせる意匠に大変貌を遂げた。
この最新シリーズでは、まずエンジン主要部品の大多数が新設計され、排気量が845→888ccに拡大。アルミ製フレームも新作となり、1.7mmの最低肉厚によりデザイン自由度を高め、縦・横・ねじれ剛性のさらなる最適化も実現した。水平基調のテールまわりを生むシートレールはXSR専用設計だが、リアスイングアームは、エンジンやメインフレームと同じくMT系と共通で、従来よりも55mm伸長されている。
エンジンと車体の刷新に加えて見逃せないのが、電子制御の高度化。MT系と同じく6軸IMU(慣性計測装置)が新搭載され、これをトラクションコントロールやスライドコントロール、リフトコントロール、ブレーキコントロールの制御に活用する。また、上下双方向のクイックシフターやクルーズコントロールも新採用。メーターは3.5インチフルカラーとなった。
今回この新型XSR900にサーキットで試乗したのは、’93年WGP250㏄クラス王者の原田哲也さん。当日は冷たい雨が降ったり止んだりという、かなりスリッピーなウエットコンディションだったが、「でも、逆にこの条件だからこそわかったこともあり、興味深い試乗でした」と原田さんは振り返った。
「新型XSR900は、パワーモード(Dモード)をもっともシャープな〝1〞から、穏やかで出力も制限された〝4〞まで4段階。トラクションとスライド、リフトのコントロール(TCSモード)を統合して、2段階+マニュアル+全オフに切り替えられます。この日はウエットで難しいコンディションだったので、まずはDモードを〝4〞にセットしてコースイン。その後に他も試したところ、もっとも走りやすいと感じたのは、Dモードをスポーティな〝1〞にして、TCSモードは介入がやや多い〝2〞にしたときでした」
原田さんがとくに操縦性の違いを感じたのは、筑波サーキット・コース1000でもとくに速度が落ちるヘアピンコーナー。「コーナーの途中で少しスロットルを開けたときに、〝1〞のほうがパワーはあるけど開け始めがスムーズ」と指摘する。
「ドライでのサーキット走行だったらあまり使うことがない領域ですが、今回は速度域やバンク角が公道に近く、ツーリングのような状況。ですから、公道走行でも敢えてDモードは〝1〞や〝2〞を選び、トラコンなどの介入度は高めにしておくという選択は悪くないと思います。〝1〞のほうが加速は激しいですが、開け始めで変に出力が間引かれないのでコントロールしやすく、それでいて、もしも後輪が滑ったときには早めに電子制御が介入して助けてくれますから」
ただし、「本当に市街地を走ったときには、スロットルをオンオフするタイミングや時間がまた違ってくるので、〝4〞が活きるシーンもあるはず。自分は、ワインディングを走るならウェットでもDモード〝1〞でTCSモード〝2〞が気持ちいいと感じたけど、違う設定のほうが適している場合もあると思います」と補足する。
また原田さんは、「デビュー当初と比べたら、最新のヤマハ3気筒エンジンは過度なピーキーさがなくなり〝普通〞の印象」と指摘する。
「でも普通が一番。とくにXSR900の場合、メインで使われるのはツーリングのはず。あまり意識することなく自在に操れるモデルのほうが、疲れず楽しめるので向いていると思います」
そして、先代と比べて気を遣わず乗れるのは、足まわりに関しても同じようだ。
「新型のほうがフィーリングを感じやすく、冷たい雨が降るサーキットでも安心感があります。今回はちょうど、公道のワインディングに近いペースだったはず。これくらいの走りでもサスが適度に動いてくれると安心感が得られます。足がガチガチではないので、公道でも外乱を適度にいなしてくれて、気難しさがなく疲れないはずです。そのぶん、ドライのサーキットでは足が柔らかめに感じるかもしれませんが、前後サスは調整可能でフロントはフルアジャスタブルなので対応可能です」
’80年代レーサーの雰囲気を取り入れつつも、スパルタンな要素は先代よりも少なめ。
「ハンドルはやや幅広だけど、外国車と比べればライディングポジションも親しみやすく、シフトチェンジもアップとダウンともシフター頼みで確実にできるなど、パッと乗って気を遣わずツーリングできるフレンドリーさがあります」と、原田さんもスタイリングや初代から想像するのとは異なる乗り味に驚かされていた。
「乗ると普通なのに、ルックスは個性的。そういう点にも魅力はあると思います。加えて、これをベースにいろいろカスタムしたくなるような雰囲気。自分好みにマシンを仕上げたい人にも、いいと思いますよ!」