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本質をズバリと説くライディングレッスン|青木宣篤のコア・ライテク

教える側は「決まり事」を伝えたがり、教わる側は「決まり事」を求める。ライディングフォームは特にその傾向が強い課目だ。しかし、フォームは基本的に自由。いくつかのポイントさえ押さえれば、あとはライダーが安心して無理なく乗れる型でいい。

【青木宣篤】長きにわたりグランプリで活躍。’97 年、世界GP500ccクラスで新人賞獲得。ブリヂストン・MotoGPタイヤやスズキ・MotoGPマシン開発も務めた

ライディングフォームは人それぞれ。決まりはない

ライディングフォームは、「ああしなさい」「こうしなさい」と、細かいことを言われがちな項目だ。外から見て分かりやすいものだから、コーチングする側としても指摘もしやすいのだと思う。 

しかし、体格や筋力や柔軟性、体の可動域は、人それぞれ。乗っているバイクも違う。だから私は、「ライディングフォームは人それぞれで構わない」と考えている。

私自身、ミニバイクに乗っていた子供の頃、体を大きくイン側に落とすライディングフォームに行き着いた。いわゆる「ハルナ乗り」だ。今となってはマルク・マルケスを始めとして当たり前のフォームになっているが、当時は「あんな乗り方はダメだ」と影で言われたこともある。 

しかし、一切気にしなかった。自分にとって乗りやすくてタイムが出るフォームなら、それが正解だ。みんながみんな同じフォームになるはずがないのだ。誰に何を言われても、気にする必要はまったくない。むしろ何か言われたら「それは本当ですか?」と疑問を持ってほしい。それが、自分に本当に合うフォームとは何かを考えるきっかけになる。 

3人のグランプリチャンピオンのフォームを紹介するが、まさに三者三様、それぞれまったく違うことが分かっていただけると思う。 

彼らは自分の個性を見出し、それと「速く走るために必要な要素」をうまくミックスさせることで、世界の頂点にまで上り詰めたのだ。

スライドさせるために体を内側に落とす

マルク・マルケス|難易度:★★★★★
タイヤをグリップさせるためには、体を中心に置くのが基本。しかしマルケスは体を大きくインに落とす。タイヤをスライドさせることを前提とした、今のMotoGPらしいフォームだ。フィジカルはキツいが、こうしてタイヤの性能を限界以上に引き出そうとしている

体の軸を車体中心に据えるベーシックさ

バレンティーノ・ロッシ★★
基本に忠実な乗り方をしていたのがロッシだ。無駄な労力を使わないため体力の消耗が少なく、ロッシがレース後半に勝負強かった要因のひとつになっていた。だが、MotoGPでタイヤスライドが不可欠になると同時に、ロッシもフォームを変えざるを得なくなった
基本に忠実な乗り方をしていたのがロッシだ。無駄な労力を使わないため体力の消耗が少なく、ロッシがレース後半に勝負強かった要因のひとつになっていた。だが、MotoGPでタイヤスライドが不可欠になると同時に、ロッシもフォームを変えざるを得なくなった

ハンドルを上から押さえつけている

ミック・ドゥーハン★★★★
ドゥーハンの象徴でもあった極端なリーンアウトは、ハンドルを上から押さえつけながらコントロールするダートトラックから来たもの。ドゥーハンは左右で極端にフォームが違っていたがその理由は本人にも分からず、「そうしたいからそうしていた」だけ
ドゥーハンの象徴でもあった極端なリーンアウトは、ハンドルを上から押さえつけながらコントロールするダートトラックから来たもの。ドゥーハンは左右で極端にフォームが違っていたがその理由は本人にも分からず、「そうしたいからそうしていた」だけ

フォームを変えたロッシ

「フォームは人なり」だが、逆に、フォームを変えることは大変難しい。これを成し遂げたのがバレンティーノ・ロッシだ。もともとは体の軸を車体の中心に置くスタンダードな乗り方だったが、体をイン側に落とし込む最新スタイルに変更。自分のスタイルを捨ててまで勝ちにこだわる姿勢には感銘を覚えた
「フォームは人なり」だが、逆に、フォームを変えることは大変難しい。これを成し遂げたのがバレンティーノ・ロッシだ。もともとは体の軸を車体の中心に置くスタンダードな乗り方だったが、体をイン側に落とし込む最新スタイルに変更。自分のスタイルを捨ててまで勝ちにこだわる姿勢には感銘を覚えた

マルケスは反り腰

「背中を丸めろ」とよく言われるが、マルク・マルケスの写真を見てほしい。完全に腰が反っており、よく「女の子乗り」と言われるフォームになっている。しかしこれで世界一のマシンコントロールをしているのだ。強靱な下半身と体幹を備えるマルケスならではの型。まさに「フォームは人それぞれ」の典型だ
「背中を丸めろ」とよく言われるが、マルク・マルケスの写真を見てほしい。完全に腰が反っており、よく「女の子乗り」と言われるフォームになっている。しかしこれで世界一のマシンコントロールをしているのだ。強靱な下半身と体幹を備えるマルケスならではの型。まさに「フォームは人それぞれ」の典型だ

意識するべきポイントは3カ所

ライディングフォームは人それぞれでまったく構わない。しかしいろいろな人のライディングを見ていると、何か違和感があったり、不安感があったり、「危ないな」感じることがある。 

いろいろな要因があるが、バイクを操れていないことが最大の原因だと思う。ライディングフォームについて語る時、よく使われるのが「力を抜いて」という言葉だ。しかし私はこの言葉に懐疑的である。バイクを意のままに操るには、どうしても力を入れる必要があるからだ。 

考えてみてほしい。200kgはあろうかというバイクがそれなりの速度で動いているのだから、かなりのエネルギーが発生している。 

これを操る、つまり強力なエネルギーのベクトルを変えるには、どうしても力が必要になる。ふわりとバイクの上にまたがっていて、的確にコントロールできるはずがない。「入力」という言葉の通り、まさに力を入れることでしか、バイクを操ることはできない。そして私は、ライディングフォームとは「的確に力を入れることができる型」だと思っている。 

ここでは、もっとも基本的なバイク操作に欠かせない3つのポイントを挙げた。この3つを意識すれば、フォームも自然と「いい感じ」に収まるはずだ。 

私はMotoGPマシンの開発に携わっていたこともあり、人のライディングをものすごく細かくチェックするクセがある。その結果、的確に力を入れられていない人のフォームは、すぐに見抜けるようになった。 

また、自分がトレーニングを重ねながら、どこをどうすればうまくバイクを操れるかを追求した。 その結果たどり着いたのが、キモは3カ所にアリ、という結論だ。簡単に思えるかもしれないが、自分なりの裏付けがあってのことだ。

【フォームの成否を判断するポイントは「ハンドル操作ができるかどうか」】ここに挙げた3つの項目のどれもが大事だが、バイクコントロールという点ではイン側の腕、つまりハンドル操作が最重要となる。各項目については、追ってこの連載で詳細をレクチャーする予定だ。
【フォームの成否を判断するポイントは「ハンドル操作ができるかどうか」】ここに挙げた3つの項目のどれもが大事だが、バイクコントロールという点ではイン側の腕、つまりハンドル操作が最重要となる。各項目については、追ってこの連載で詳細をレクチャーする予定だ。
【車体に触れる外足】いわゆるニーグリップだが、ヒザというより内モモ全体をタンクに引っかけるようにする。車体ホールドを司るポイントなので、安定感を高めるために必須だ
【イン側の腕】私がもっとも重視しているハンドル操作を司るのが、イン側の腕だ。ここにきちんと入力できるかどうかを出発点に、逆算しながらフォームを組み立てるといい
イン側のステップ倒し込みのきっかけ作りや、コーナリング時の安定性向上のためにイン側ステップに入力する。どのような型でも構わないが、しっかり力をこめて踏み込めることが大事

操作すればフォームは自然と変位する

ライディングフォームのレクチャーは、たいてい静止状態で行われる。レーシングスタンドを使ってバイクを直立させたり、サイドスタンドで多少斜めにしながらも、動きのない状態で型を作るというやり方だ。 

しかし、教わる側が素直であればあるほど、静止状態でのフォームが固定化してしまう、という弊害が起こる。実際のライディングはダイナミックで、走りのパートによってフォームもかなり変位するものだが、教わった通りの固定化したフォームのままで走り続けてしまうのだ。 

恐らくそういう人は、走りながら「何かしっくりこないな」と違和感や不安、恐怖心を感じているはずだ。冒頭で、「教わったことにも『それは本当ですか?』と疑問を持ってほしい」と述べたのは、このあたりのことも指している。 

実際に走ってみて少しでも怖さを感じれば、それは何かが違うということ。フォームも静止状態で教わったひとつの型だけではなく、ダイナミックに変わっていい。

「こうすべし」という決まりごとをお伝えしていないので、物足りなく感じる人もいるだろう。しかし、「ライディディングフォームに決まりはない」「押さえるべき3つのポイントがある」「走りのパートによってフォームは変位する」という要素は、フォームの本質。これだけでも頭の片隅に置いていただけると幸いだ。

【ストレート

ストレートで伏せることはフォームの基本とされ、実際にメリットも多い。だが実は伏せるのは非常に難しい。無理に伏せると腕が伸びハンドル操作に支障を来すので、最初のうちは伏せをあまり意識しない方がいいかもしれない。

【✕】フォームが全く変わらない
【〇】操作に応じフォームが変化

【ブレーキング】

これも追って詳報するが、ブレーキはイン側の腕を突っ張るように適切に力を入れ、制動により発生したGを余すことなく前輪に伝える。もちろん減速Gに耐える意味もある。ヒジが曲がったままだとGが逃げ、体も支えられない。

【✕】フォームが全く変わらない
【〇】操作に応じフォームが変化

【コーナリング】

ブレーキングとコーナリングはワンセットの動作だ。イン側の腕を突っ張るのは、倒し込みのためでもある。これを折り畳むと、ハンドルがスッと入り、もう1段階バイクが回り込む。その時、上体はより低く構えることになる。

【✕】フォームが全く変わらない
【〇】操作に応じフォームが変化

【立ち上がり】

立ち上がりでは前輪の浮き上がりを防ぐために上体を伏せる。コーナリング時に上体を低く構えているはずだから、自然な流れだ。今回は雨中の極低速で分かりにくいが、フォームが変わらない走り方は各パートでかなり不安定だ。

【✕】フォームが全く変わらない
【〇】操作に応じフォームが変化

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