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熱狂バイククロニクル【事故が転機となった、ケビン・マギーさん】

今回取り上げますのは、オーストラリア出身のケビン・マギーさんです。僕にとってケビン・マギーさんの印象は、荒々しい裸馬に跨って大草原を走り回る、ダイナミックなカウボーイのイメージがまずは浮かんできます。運動神経がよく、骨格も大きい筋肉質な肉体を持つ若者のイメージでした。 

そんな想像の世界とは別に、ケビン・マギーさんのリアルは、「モリワキレーシング!」と直感的に出てきます。モリワキレーシングの森脇護社長が持っていた、速い若手選手を発掘する眼力はただ者ではありません。ケビン・マギーさんはそのお眼鏡にかなったわけです。

ケビン・マギーさんの他にも、世界GPライダーとなったグレーム・クロスビーさん、そして世界チャンピオンを獲得したワイン・ガードナーさんも、森脇護社長の眼力をもって、発掘された実力と言えます! ケビン・マギーさんはモリワキのマシンを駆って、たびたび日本国内のレースに参戦してきました。そして、その速さをケニー・ロバーツさんに見い出され、ヤマハ入りしていきました。

’87年シーズンからは水彩画に描いたカラーリングのYZR500を駆り、世界GPへのワイルドカード参戦を始めました。彼の速さは本物で、ポルトガルGPでは3位表彰台をゲットしてみせました! 

続く’88年はケビン・マギーさんにとっては大きな人生の転換点を迎える年になりました。チーム・ラッキーストライク・ロバーツ・ヤマハのエースとして、世界GPへのフル参戦が決まったのです! チームメイトは、後に3度のチャンピオンとなったウェイン・レイニーさんでした。体制的には大きな弱点のない、勝ちを狙えるチームだったのです。そして第3戦スペインGPでは初優勝を飾り、スター選手の道を一直線に突き進んで行きました。 

そんなケビン・マギーさんを、恐ろしい人生の転換点が襲ってきました。’89年の第2戦アメリカGPにて、あってはならない事故を起こしてしまったのでした。 

このレースでは4位となり、表彰台を獲り逃した悔しさと落胆の気持ちを、レース後にバーンナウトして解消しようとしたようなのです。しかし、このバーンナウトでタイヤスモークがコース上に充満。後続車のババ・ショバートさんが前方の確認ができず、ケビン・マギーさんのYZR500に激しく追突。ババ・ショバートさんは頭部に大怪我を負い、ライダーを引退しないといけない身体になってしまったのでした。この追突事故では、当の本人も足を壊し、その後はGPを休みがちになってしまいました。 

この忌々しい事故を起こしてしまったケビン・マギーさんはその後、勝ちが狙える最高のチームから離れる事となり、色々なレースを走りながら’94年シーズンをもってレース界からの引退しています。彼のレース人生は、アメリカGPでの事故がすべてであった印象でした。 

危険と隣り合わせのレースの世界。過去にはフランコウンチーニ選手がバイクに轢かれてしまう事故もありました。この時はワイン・ガードナーさんが当事者でした。まだ若かったにも関わらず、事故の責任を負おうとして、一時期は引退寸前まで精神的に追い詰められました。ですが仲間やチームに励まされ、強い精神力を取り戻して世界チャンピオンにまで、そのレース人生を昇華させたのです。そういう選手もいるわけですから、人生は何とも皮肉で不思議なものなのです。  

ケビン・マギーさんのライディングの考察を始めます。水彩画を観て頂いても分かりますが、コーナリング中は、ほぼリーンアウトで乗っています。前乗りのポジションで、アゴを引いて上目遣いで前方を見ています。頭は少しイン側に入るので、目線は水平になっているとは言えません。 

前乗りとリアステア乗りの違いをイラストにしてみました。前乗りだと一見窮屈そうにも見えますが、バイクの場合、ライダーの体重が占める重要度が大きくなります。ライダーがいるポジションで、よく曲がったり、曲がらないで困ったりもします。「どちらが良い」ではなく、「自分のバイクはどうして欲しがっているのか」を知ることが大事だったりするのです。みなさんも、各メーカーの開発者が、どう考えてバイクを作ったのかに気付くよう、自分のバイクを理解してあげましょう。

さらにケビン・マギーさんのライディング考察を進めます。腰のオフセット量は平均的ですが、腰の落とし方は大き目で、それに伴いイン側のヒザは真下に向かって出されています。これはヒザが路面にタッチしている事が、彼にとって重要だった事の証しとも言えます。 

仮にフロントタイヤが滑り、マシンがバランスを崩した際に、路面にタッチしているヒザで路面を押す(叩く)ことで、態勢が崩れたマシンを立て直すという荒技を使うことができるようになるのです。レーサーは、イン側ヒザでの路面タッチは、マシンのバンク角を測ると共に、転倒を防ぐことにも使っているというわけです。 

資料写真に、ちょうどチームメイトのウェイン・レイニーさんと一緒に走っているシーンがあったので、それを元に前乗りとリアステア乗りの違いとして描いてみました。同じチームなのでマシンもタイヤもほぼ同じですから、その乗り方の違いは実に面白く、興味を惹きます。 

レイニーさんはリアステア乗りの達人で、アクセルのオン/オフでマシンに挙動を作り、パワースライドを駆使して立ち上がりスピードを上げたり、マシンを強く曲げたり、素早く切り返したりして、独特の速さを生み出していました。彼はアウト側の足で体重を支えているので、イン側の足には体重が乗らない状態でした。これにより、路面にタッチしたヒザは軽く閉じたり開いたりできたのです。この乗り方にライディングセンスが滲み出ていて、カッコ良いのですよね! 

ケビン・マギーさんタイプの乗り方ですと、イン側ステップに体重が乗っているので、レイニーさんと同じ事は出来ません。どちらにしても、「コッチが正解、コッチが間違い」ではありません。しかし、そんな風にレースを観たら、また新たな発見もありますから、’23年シーズンは各ライダーのライディングフォームに注目しながらMotoGPを一緒に楽しみましょう!

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