オイルの役割を改めて識りたい【もう一度、オイルについて考えてみる:Think with A.S.H.】
その重要性“だけ”は理解していても、なぜ重要であるのかは、曖昧にしかわからない……。そんな、身近ながら知らないことが多いのがエンジンオイル。ここでは、改めてオイルについての見識を深め、エンジンオイルを上手に使い、走りに役立てる糧としたい。
PHOTO/Y.ARAKI, K.ASAKURA ILLUSTRATION/H.TANAKA TEXT/K.ASAKURA 取材協力/ジェイシーディプロダクツ http://www.jcd-products.com/
エンジンオイルがなぜ重要なのか? を再考
エンジンオイルの重要性は誰もが認識しているだろう。劣化するので交換が必要であることも、よく知られている。だが、エンジンオイルが実際にどう働き、なぜ劣化するのかを理解しているだろうか? 明確に答えられる人は、案外少ない。
身近でありながら、わからないことが多いのがエンジンオイル。ここでは、高性能オイルとして話題を呼んでいる「A.S.H.」ブランドを展開するジェイシーディプロダクツの代表を務める岸野修さんをインストラクターに迎え、改めてエンジンオイルについて学んでみたい。まず、エンジンオイルの役割についてだ。
エンジンオイルはいくつかの役割がある。まず潤滑、これは金属部品の集合体、かつ金属同士が擦れあいながら稼働しているエンジン内部を潤滑し、スムーズに動かし部品を保護する働き。エンジン内部を循環するため洗浄や冷却の効果や、ピストンリングとシリンダー内壁の機密性を上げる密閉の役割も担ってはいるが、最も重要なのは潤滑だろう。
エンジン内部の潤滑は全てをエンジンオイルが担っていると言って過言ではない。例えば、冷却を担っているのは冷却水や走行風であるし、密閉は本来ピストンリングの役目だ。一部のパーツに、自己潤滑性を持つコーティングが施されている例もあるが、あくまで潤滑の主役はエンジンオイルなのだ。なにしろ、名前からして「潤滑油」なのだから。
エンジン内部には回転する部品が数多く存在している。回転をスムーズにする部品にベアリングがあるが、稼働中常に回転し続けているカムシャフトは、一部を除きベアリングが使われていない。カムシャフトの軸の形に合わせ、半円形に窪んだパーツ同士で挟み込んで支持されている。
【オイルによる潤滑がなければエンジンは壊れる】
イラストは、カムシャフトがシリンダーヘットに固定されている状態の断面図。一部のエンジンを除けば、カムシャフトの支持にベアリングが用いられることはない。概念図ではあるが、カムシャフトはオイルで浮かされた状態で支持されていると考えていい。カムシャフトと同様に稼働中は常に回転しているクランクシャフトも、ほぼ同じ考え方。クランクシャフトとクランクケースの間には、プレーンベアリングと呼ばれる金属板が存在するが、これはクリアランス調整目的が強い部品で、軸のスムーズな回転をサポートする機能は持たないと考えていい。
ここで重要になるのがエンジンオイル。カムシャフトの軸とシリンダーヘッドの軸受けの間に入り込んだエンジンオイルが、カムシャフトを浮かした状態で回転させているのだ。この時、カムシャフトの軸を覆っているエンジンオイルの膜を「油膜」と呼ぶ。もし油膜が切れれば、カムシャフトはすぐに焼き付いてしまうことになる。
この油膜の維持に重要なのがオイルの粘度だ。エンジンオイルはポンプでエンジン各部に圧送されるが、適正な粘度がなければ油膜を維持することができない。エンジンによってエンジンオイルの指定粘度が異なるのは、これが理由のひとつだ。設計時に想定した粘度がなければ、本来必要な油膜が形成されないのだ。
また、ここで問題となってくるのがエンジンオイルの劣化だ。エンジンオイルが劣化すると、新品時の粘度を保てなくなる。オイルが劣化する原因もさまざま。燃焼室で発生したカーボンがオイルに混入し「スラッジ」と呼ばれる汚れの元となったり、シリンダーから吹き込んだガソリンによる希釈、水分の混入等々。品質の悪いエンジンオイルの場合、オイル自体が劣化の原因となりやすい成分を含んでいることもある。
エンジンオイルは「ベースオイル」と呼ばれるオイルに「添加剤」を配合して作られている。ベースオイルは、精製方法の違いにより全合成油、合成油、鉱物油に大きく分けられる。ベースオイルについては、改めて紹介する機会を持ちたい。では、添加剤についてだ。添加剤はベースオイルに加えることで、エンジンオイルの特性を変化させるのだが、その目的のひとつがエンジンオイルの粘度を上げることだ。
【エンジンオイルはベースオイルと添加剤をブレンドして作られる 】
エンジンオイルはベースオイルに添加剤を加えることで作られる。ベースオイルは原油を精製することで抽出され、加工法の違いにより鉱物油、合成油、全合成油に分けられている。鉱物油は原油を蒸留して精製されたもの。全合成油は、原油から精製された石油系原料から化学合成されたもの。合成油は、鉱物油と全合成油を配合したものだ。添加剤はベースオイルに配合する化学物質で、どういった成分をどれだけ配合するかで、エンジンオイルの性能が変わる。一般的にはエンジンオイルの80%~90%程度がベースオイルで、残りが添加剤とされている。
「よく使用される添加剤にポリマーがあります。ポリマーは安価で容易に粘度を向上させることが可能ですが、熱の影響を受けやすく、エンジンオイルの性能低下の原因になります。ですから、A.S.H.のモーターサイクル用オイルにはポリマーは使用していません」
と、岸野さんは語る。ポリマーは日本語に訳すと高分子。分子が結合し、分子量が大きい状態の総称だが、ここでは粘度を上げるために使用される合成高分子を指す。ポリマーは高温・高負荷の状況下で〝せん断〞という分子結合がズレたり切れたりする現象により、エンジンオイルの粘度低下を起こしやすいという。
A.S.H.のエンジンオイルは、ポリマーを添加しないことで、より安定して性能を維持し、ロングライフであることが特徴のひとつ。では、どのようにして粘度を上げているかというと、特殊な高粘度の化学合成油を使用することで粘度を高め、加えて高品質なベースオイルを用いることで、強力な油膜を形成させている。
さらにFM剤(フリクションモディファイヤー)という独自に開発した潤滑剤を使用することで油温が上昇しにくく、高温による粘度変化を防いで油圧の安定化を図る。それがA.S.H.オイルのコンセプトなのだ。
なぜ、ここまでオイルにこだわるのかと思ったが、岸野さん自身の経歴を聞いて納得できた。
「以前、4輪のチューニングを手がける会社に勤めていました。そこで、レーシングオイルの開発を担当していたんです。オイルの大切さは、当時の経験で学んだことが多い」 岸野さんが所属していた会社というのがトラスト、四輪レースのファンなら知らぬ者がいないチューニングの大御所だ。800㎰や1000㎰を発生させる、本物のレーシングエンジンと、日常的に向き合っていたのである。
極限を知るからこそ、要求値は当然高い。岸野さんが求めるオイルの性能は、そのレベルにある。次回も、エンジンオイルの世界に、より深く踏み込んでいきたい。
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