本質をズバリと説くライディングレッスン・青木宣篤のコア・ライテク【下半身”パワー”フォールド】
よく聞く「下半身ホールド」という言葉だが、いったい何のために、どれぐらい力を込めるべきで、そこにどんな意味があるのかを説くものは少ない。今回説き明かすのは、下半身ホールドの真髄。下半身ホールドは、ある瞬間に備えての「タメ」だ。
足がプルプルするほど力を入れるのが下半身ホールドの出発点
日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレース。真夏の炎天下、超ハイペースで展開する鈴鹿8耐は、世界でも有数の苛酷なロードレースとして知られている。
走行を終えたライダーたちは、全身汗だくだ。レーシングスーツを脱ぐやプールに飛び込み、体を冷やす。今でこそ禁止されているが、かつては次の走行まで点滴を打つ姿も見られた。それほどまでにフィジカルを酷使するのだ。
鈴鹿8耐は極端な例としても、サーキット走行で汗をかいた経験のある方は多いと思う。それはレーシングスーツが暑いからだけではなく、ライディングが全身を使うスポーツだからだ。そしてここで私が強調したいのは、「もっと力を入れよ」ということである。
世に数多くあるライテク記事を読んだことのある方なら、「下半身ホールド」という言葉を何度も目にしたことがあるだろう。「バイクを安定させるために、ヒザでタンクを挟みましょう」という、アレである。
しかし、それでは生ぬるい。 初めてスキーに挑戦する時、まずはプルークボーゲンから教わるだろう。スキー板をハの時にして滑る基礎中の基礎である。
最初のうちのプルークボーゲンは、足のあちこちが痛くなったり攣ってしまうぐらい、ガチガチに力が入っていたはずだ。
スポーツライディングの下半身ホールドも、まずはスキーのプルークボーゲンと同じぐらい、下半身にガチガチに力を入れてほしいのだ。 そしてできればそれぐらい力を入れて下半身ホールドしたまま、リーンウィズで構わないから、サーキット走行の1枠を走り切ってみてほしい。下半身がとてつもない疲労感に見舞われると思う。しかしこれこそが、スポーツライディングの基本だ。
スキーはガチガチのプルークボーゲンを経て、経験を重ねながら、徐々に力を抜く術を覚える。バイクも同じだ。まずはガチガチの下半身〝パワー〞ホールドを経験してから、力を抜くことを覚えてもらいたい。最初から力を抜くことを覚えるスポーツなど、どこにもないのだから。
下半身でタメを作り、瞬間的に解放するあらゆるスポーツの基本はバイクにも通じる
ゴルフ、野球、テニス、空手……。これらのスポーツは下半身を回転させ、タメを作り、インパクトの瞬間に一気にそれを解放して強大なパワーを得るものだ。ここでは「回転系スポーツ」と呼ぶことにする。
スポーツライディングもそれと同じ……と言うと、ちょっと意外かもしれない。バイクは一連の操作や動作を滑らかにつなげていくもの、という印象が強いからだ。
しかし私は、バイクも回転系スポーツのひとつと捉えている。ライディング動作を思い返してほしいのだが、ブレーキングからコーナリングにかけて、そして立ち上がりに向けて、下半身を回転させているのだ。
スポーツライディングでは、他の回転系スポーツのインパクトにあたる劇的な瞬間はない……ように見える。しかし私は、あると思っている。
それは、ハンドル操作だ。
下半身〝パワー〞ホールドには、「バイクを安定させる」という一般的に謳われる効能がある。だが私がそれにも増して意識しているのは、ハンドル操作に際して瞬間的に強い力を発揮するためにこそ、下半身に力をいれる、ということだ。
「ハンドル操作って、下半身でタメを作るほどパワーが必要なの?」と、訝しがる方も多いことと思う。
ハンドル操作は、当連載のキモであり、すべての項目はハンドル操作に通じると言っても過言ではないほどの重要事項である。
ハンドル操作についてはいずれ詳しくお伝えするが、今回は「ハンドル操作のための下半身〝パワー〞ホールド」というワードを心に刻んでいただけると幸いだ。
コーナーや状況に応じて力の入れ具合は刻々と変化させる
冒頭で、「走行の1枠を全力でパワーホールドしてみてほしい」と言った。それは下半身ホールドの基礎の基礎を知ってもらうため。力を入れることができるようになったら、今度は適切に力を抜いていく必要がある。疲れ切ってしまうからだ。
となると、当然皆さんはこういう疑問を持つ。「どこでどれぐらいの力を抜けばいいの?」「どこでどれぐらいの力を入れればいいの?」と。
その答えは、非常に難しい。コーナーによって違うし、例え同じコーナーでも、どれぐらいの速度で走っているかによって違うからだ。
これは、私はアオキファクトリーコーチングというマンツーマンレッスンを行う大きな動機となっている。人それぞれだったり、コーナーによって異なることを、こうして不特定多数の方が読む文章にするのはとても難しい。実地で体験しながら会得してもらうしかないのだ。
傾向はある。高速コーナーはジャイロモーメントが作用するため、バイクが起きようとする。これを寝かせようとするために、外足にはかなり力を入れる。逆に低速コーナーは不安定になりやすく、勝手に倒れ込もうとする。これをスロットルワークで安定させることが多いので、外足はゆるめる方向となる。
コーナーによって下半身への力の入れ方が異なるのは、結局のところ、先に触れたように「どのようにハンドル操作をするか」に尽きるからだ。高速コーナーはハンドルへの入力にもかなりのパワーが求められることが多いし、低速コーナーはそれほどでもない場合もが多い。
いずれにしても、下半身〝パワー〞ホールドと言っても、経験を重ねるにつれて力を入れたり、抜いたりと変化させるものだということを覚えておいていただきたい。 基礎を身に付けてからの応用が臨機応変ということになるのは、これまた他のスポーツと同様である。