コーナリングは”V字ライン”が最新トレンド【中野真矢に学ぶトラクション03】
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今回のライテクは、意外と知らない“トラクション”がテーマ。元MotoGPライダーの中野真矢さんに、トラクションの上手な引き出し方や、トラクションを活かした安全に楽しめるライディングを教わる。
V字で鋭く曲がって立ち上がりを重視しよう
コースレイアウトやマシン排気量などで最適なラインは変わるのですが、下の図のような前後が直線区間のヘアピンカーブを大排気量車で走るなら、いわゆるV字コーナリングにより、しっかり減速してフルバンクの時間を短くし、車体を起こしてフル加速するのが理想。他のレイアウトのコーナーでもこれが基本です。
車体が軽い小排気量モデルなら、高い車速を保ってタイヤのエッジグリップに頼りながら旋回するのが主流ですが、車重とパワーがある大排気量車ではリスキー。タイヤのエッジ付近はエンジンパワーに負けるので、いつまでも深く寝かせていたら立ち上がりでスロットルを大きく開けられず、大排気量車ならではのパワー&トルクを活かしてトラクションを生むこともできません。
レースで大排気量車を速く走らせるためには、コーナーではなくストレート区間でいかに車速をのせるかがかなり重要なのですが、これは本誌が主催するライディングパーティのようなサーキット走行会で、一般ライダーが安全かつスムーズにスポーツ走行を楽しむ秘訣にもつながります。深くバンクしている時間を減らせるだけでなく、立ち上がりでしっかりトラクションを稼げるので、車体の挙動が安定しやすいという利点があるからです。
フロントブレーキのリリース直後に鋭く向きを変えることが大切
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(中野真矢)
タイトに車体の向きを変えれば起こしながら加速できる
![クリッピングポイントがコーナー立ち上がり側に設定されていて、なおかつ車体の向き変えがある程度終わっていれば、車体を起こしてもアウトに大きくはらむことはない。その結果、コーナー立ち上がりでスロットルを大きく開けられるのでトラクションを得やすく、これが車体の安定材料となってスムーズに加速できる](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/07/28-1.jpg)
もっとも鋭く曲げる地点にしっかり減速しながら寄せる
![進入で十分に車速を落として、車体が深くバンクしている時間をなるべく減らして鋭く曲がる。クリッピングポイント(もっともコーナーのイン側に寄る地点)が奥になるライン取りを意識しつつ、フロントブレーキをわずかに残してフォークを沈めながら、鋭く旋回する地点に寄せ、ブレーキリリースと同時にターンしよう](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/07/28.jpg)
トラクションがかかっていれば多少滑っても怖くない!
![「トラクションしている状態は自信を持って操縦できている証。すっぽ抜けもしづらいです。また最近の電子制御は優秀で介入を感じないモデルもあります」と中野さん](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/07/30.jpg)
速度が速くてアウトに膨らみスロットルを空けられない
![インに付くのが早すぎて、なおかつ進入速度も高すぎれば、リスクを負って車体を深くバンクさせ続けても、コーナーの立ち上がり側でアウトにはらみやすい。旋回が終わっていないので、加速すればアウト側にコースアウトしそうな状態。結果、スロットルを開けられないのでトラクションがかけられず、不安定になりやすい](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/07/29-2.jpg)
インに付くのが早すぎるとダラダラ曲がることになる
![進入でインに早く寄ってしまい、なおかつ車速を十分に落とせていない例。上手なライダーなら一度アウトにはらみつつ、立ち上がり側でもう一度インに寄る2段クリップで曲がれるかもしれないが、一般ライダーだとバンク角が深くてリスクのある状態を長く続けながら、ダラダラと寝かせて旋回する走りにつながりやすい](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/07/29-1.jpg)
中野真矢が実験! トラクションを感じやすい回転数はどのあたり?
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- 最高出力:188ps/9700rpm
- 最大トルク:15.2kgf・m/7000rpm
楽しく走りたい時はこれくらいがちょうど良い
![進入でエンジンブレ-キが効くので、フロントブレーキを引きずりながら鋭く曲がる地点にうまく寄せられている。立ち上がりでは、もう少しトラクションをかけられるほうが“速さ”にはつながるが、“爽快さ”を楽しむなら、過敏にならずちょうどいいレベル](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/09/41.jpg)
アウト側にはらみがちでトラクションも希薄……
![旋回時のエンジンブレ-キが弱くなるので、車体を起こした状態でしっかりブレーキングして、理想的なラインよりもさらにアウト側から進入。スロットルを開けてもトラクションをあまり感じられないので、そのまま大回り気味に立ち上がるメリハリのない走りに](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/09/43.jpg)
タイムを狙うならコレ!
![エンジンブレ-キが効き過ぎる印象だったため、途中で電子制御により調整。他のギアと比べて、コーナーではもっとも速度が落ちているが、しっかりトラクションがかかるのですぐに車速が上がり、立ち上がりの到達速度はトップとなった。やや過激だが速さはある](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/09/40.jpg)
物足りなさを感じる
![4速同様、減速でエンジンブレーキが使えず、クリッピングポイントを奥側にとるため進入で大回りに。4速と比べればトラクションがあるのでコンパクトにイン側を立ち上がれるが、2速や1速と比べれば車速は伸びない。中野さんの腕前だから成立するが……](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/09/42.jpg)
![同じコーナーを1 ~ 4速で走り、トラクションの感じ方と、ラインや速度がどう変化するのか、GPSデータロガー「デジスパイス」で検証。各ギアのラインの△の位置は、計測開始ラインからスタートして同じ秒数後の地点。進入時のエンジンブレーキという要素も影響するためトラクションの差によるものだけとは一概に言えないが、3 ~ 4速は大回りになりがちで、車速も伸びない傾向にあった](https://ridersclub-web.jp/wp-content/uploads/2023/09/33.jpg)
楽しさを感じられる適度な回転域を探ろう
スポーツライディングでは、最適なギアを選択することで理想的なトラクションが得られます。でもこれは、必ずしも「高回転を使おう」ということではありません。スロットル操作に対して過敏に反応し過ぎると、操縦が難しくなるからです。
例えば、上で紹介しているハヤブサのテストでは、1速で走行したときに4500rpm付近からスロットルを大きく開けていました。これは7000rpmの最大トルク発生回転数から比べると低いですが、1339㏄のハヤブサは低中回転域トルクが厚く、ギア比がショートなので反応が過敏すぎる印象でした。レースなら何よりも速さ重視なので1速でいいですが、スポーツライディングでは楽しさも大切。だから僕も、普通に走るときはある程度のトラクションが得られて気持ちよさもある2速を選ぶかもしれません。
スポーツライディングにおけるトラクションは、ただ得られればいいわけではなく、適正に引き出すことで車体の挙動を安定させ、その結果としてライダーの安心や自信につなげるためのもの。無理のない範囲でいろいろトライして、トラクションのある走りを追求してみてください。