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ホンダ XL750 トランザルプ|ライトウェイトを武器にあらゆる道にチャレンジできる

CRF1000Lアフリカツインに遅れること7年。近年のアドベンチャーバイクブームを受けて、ついにミドルクラスのトランザルプまでもが復活を果たした。では、アフリカツインとのスタンスの違いを検証してみよう。

PHOTO/H.ORIHARA TEXT/H.YATAGAI
取材協力/本田技研工業 70120-086819 https://www.honda.co.jp/motor/
【谷田貝洋暁】
バイク雑誌編集長を経て、フリーのライターに。レース経験のない極フツーのツーリングライダーで、最近はオフロード系の“土物”を担当することが多い。プライベートではテネレ700に乗っている

ダートデビューしやすいアドベンチャーバイク

トランザルプをホンダが750㏄クラスで復活させると聞いて耳を疑った。いくらアドベンチャーバイクが流行っているとはいえ、ミドルクラスにはすでにクロスオーバーコンセプトのNC750Xがあるではないか。

このNC750Xは基本的にロードバイクではあるが、アドベンチャーの雰囲気は十分感じられる。ただ逆に、ロードバイクとしてのキャラクターが強いNC750Xが存在したからこそ、新型750㏄エンジンを積んだトランザルプは、オフロード方向にキャラクターを大きく振った、フロント21インチサイズで登場できたというわけだ。

ただ、なぜ〝CRF750Lアフリカツイン〞ではなく、〝XL750トランザルプ〞だったのか? この新型アドベンチャーを理解するにはそのあたりを紐解くことがキモになりそうだ。

試乗前に行われた技術説明会でも、ホンダの開発陣は「市街地での扱いやすさ」や「安心感」「ジャストサイズ」といったフレンドリーさをアピールする言葉を多用した。オフロードテイストの強いフロント21インチスポークホイールを装備していながらも、アフリカツインのような〝ガチ〞のオフロード性能は追求していないという。XL750トランザルプは、オフロードキャラをウリにしてはいるものの、〝ツーリングユースをメインとしたバイク〞であると言いたいのだ。

新設計となる754ccの270°直列2気筒は、CB750ホーネット(国内未導入)と共用。フレームに関しても補強はしているがベースは一緒
フロント21インチスポークホイールを採用。倒立フォークはφ43mmでストロークは200mm。見た目だけでなく、ダートを走れるようになっている
アフリカツインと“ほぼ”共用というアルミスイングアームでリアのホイールトラベルを190mm確保。タイヤはミシュランのカルーストリートだ

実際に乗ってみて、まず感じたのは車体の軽さだ。スペック上の数値は16Lの燃料満タンで209㎏と、極端に軽いわけではない。だが、サイドスタンドを払おうと車体を起こそうとしてみると、足着き性が良いこともあり思ったよりも軽く感じるのだ。アドベンチャーモデルにありがちな腰高感はなく、開発陣が主張する通り非常にフレンドリーであると感じた。

エンジンを始動すると、アフリカツインに似て低音を強調した、歯切れのいいサウンドが響く。実際、アフリカツインのような音質を目指したそうだが、走り出してもサウンド通りの野太いトルクがあり、出足の加速感もなかなか楽しい。

驚かされたのはエンジン特性よりも車体。舗装路での扱いやすさだ。普段からフロント21インチのアドベンチャーに乗っていて、その扱いには慣れてはいるが、狭い場所での発進やUターンなどでは、自分のバイクでさえ身構えることがある。

だがこのXL750トランザルプにはそれがない。見た目こそアドベンチャーバイクらしい迫力だが、よく切れるハンドルと足着き性、また軽やかな車体のおかげでUターンもスパッと決まる。ミドルクラスとはいえ、フロント21インチサイズのアドベンチャーバイクを捕まえて、扱いやすい、乗りやすいと表現する日がくるとは思ってもみなかった。

フロント21インチの最も身近なアドベンチャー
フロント21インチの最も身近なアドベンチャー

この扱いやすさはワインディングでも印象が変わらない。メインフレームは、ネイキッドのCB750ホーネットとベースは同じだが、ダート走行時の縦の衝撃や荷物積載によるねじれに対応するため、若干フレームの剛性アップを図っているとのこと。実際、オフロード性能を重視したモデルにありがちな、車体の剛性不足からくる不安感はない。むしろライディングモードを「スポーツ」にしておけば、峠道をかなりスポーティに走ることができる。

走行モードに関しては、「スタンダード」に対して、「レイン」はかなりレスポンスがダルになり、「スポーツ」は逆に「スタンダード」に対してピックアップが良くなるのだが、「スポーツ」と「スタンダード」の差は僅か。せっかく切り替えられるのに劇的な違いがないのが少しもったいない。また不満ついでに書いてしまうと、クルーズコントロールがない。電子制御スロットルを備え、トルクコントロール(トラクションコントロール)もパワーモードも、エンジンブレーキすら変えられるのに……である。高速道路走行時の、ウインドプロテクションがものすごくよかっただけに、クルーズコントロールがないのは、厳しいことを言わせてもらえば、少し残念である。

次にダートセクションへと入ってみる。走行モードを「グラベル」にしてみたのだが、これが思いのほかよく走るというのが正直な印象だ。

ワインディングでは、フロント21インチを感じさせない軽快な走りが楽しめる。狭い道でのUターンも不安はない
ワインディングでは、フロント21インチを感じさせない軽快な走りが楽しめる。狭い道でのUターンも不安はない

開発者がしきりに、「競い合うようなオフロード性能に関しては追求していません」と強調していたが、ダート性能もしっかり作り込んでいる。オンロードで感じたコンパクトさがそのままダートでも感じられるから扱いやすいのだ。

モードの「グラベル」は言わば〝初心者安心モード〞であり、トルクコントロールが、極力リアタイヤのスリップを抑えるような制御を行なってくれる。初心者が一番ナーバスになる発進停止あたりの制御の作り込みが絶妙で、とにかく砂利の上での安心感が強い。

近年、ミドルクラスのアドベンチャーには、890アドベンチャーやテネレ700、Vストローム800DEなどなど、フロント21インチモデルだけでもかなりの数が競合している。その中で〝最もダートデビューしやすいアドベンチャーバイク〞という今までなかったポジションに、このXL750トランザルプがハマった感じである。

アドベンチャーバイクでのダート走行は一部の限られたライダーのものと思われがちだが、その存在を身近にしてくれるのがこのXL750トランザルプというわけだ。このフレンドリーなキャラクターこそが、〝アフリカツイン〞ではなく、〝トランザルプ〞たらしめている部分だ。

HONDA XL750 TRANSALP

メーターは5インチフルカラー。モードは、スポーツ/スタンダード/レイン/グラベルと、調整可能なユーザーがある
メーターは5インチフルカラー。モードは、スポーツ/スタンダード/レイン/グラベルと、調整可能なユーザーがある
270°のパラツインらしい、歯切れのいい野太いサウンドが低回転から高回転まで楽しめる。音質もアフリカツインに近い
270°のパラツインらしい、歯切れのいい野太いサウンドが低回転から高回転まで楽しめる。音質もアフリカツインに近い
上下対応クイックシフターはオプション設定。タッチは「ソフト」、「ミディアム」、「ハード」の3種類から選べる
上下対応クイックシフターはオプション設定。タッチは「ソフト」、「ミディアム」、「ハード」の3種類から選べる
高速走行ではスクリーンの防風性の高さと静粛性に驚かされた。オプションにはハイスクリーンやディフレクターもある
高速走行ではスクリーンの防風性の高さと静粛性に驚かされた。オプションにはハイスクリーンやディフレクターもある
料タンク容量は16L。WMTCモード値による燃費は22.8km/Lで計算上の航続距離は364kmを確保している
料タンク容量は16L。WMTCモード値による燃費は22.8km/Lで計算上の航続距離は364kmを確保している
209kgの目標を掲げ、実際は208kgを実現。「キャリアを外せば、テネレ700と同じ(205kg)です」とは開発者の談
209kgの目標を掲げ、実際は208kgを実現。「キャリアを外せば、テネレ700と同じ(205kg)です」とは開発者の談
シート高は850mmと低めで、身長172cmだと、踵が3~4cm浮くくらい。オプションで30mm 低いローシートもある
シート高は850mmと低めで、身長172cmだと、踵が3~4cm浮くくらい。オプションで30mm 低いローシートもある
  • エンジン:水冷4ストローク直列2 気筒SOHC4 バルブ
  • 総排気量:754cc
  • ボア×ストローク:87×63.5mm
  • 圧縮比:11.0:1
  • 最高出力:91ps/9500rpm
  • 最大トルク:7.6kgf・m/7250rpm
  • トランスミッション:常時噛合式6 速リターン式
  • クラッチ:湿式多板
  • フレーム:ダイヤモンド
  • サスペンション:F=SHOWA製φ45mmCFF-CA倒立フォーク R=リンク式モノショック
  • タイヤ:F=90/90-21 R=150/70R18
  • ブレーキ :F=2ポットキャリパー+φ310mmダブルディスク R=1ポットキャリパー+φ256mmシングルディスク
  • 全長×全幅×全高:2325×840×1450mm
  • ホイールベース:1560mm
  • シート高:850mm
  • 車両重量:208kg
  • 燃料タンク容量:16L
  • 価格:126万5000円

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