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【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを考察!|5限目:操縦性と旋回性

二輪工学の専門家、プロフェッサー辻井によるライディング考察 バイクのメカニズムや運動力学についてアカデミックに解説し、科学的検証に基づいた、ライテクに役立つ「真実」をお届けします!

【Prof. Isaac辻井】
元ヤマハのエンジニアでLMWやオフセットシリンダー等さまざまなバイク技術の研究開発を担当。大学客員准教授でもありニックネームは「プロフェッサー」

カーブの手前で減速してバイクを傾けて曲がり、その後加速していくのはバイク乗りにとって醍醐味。この一連の動きを分析するに際し、コーナリングの前後を含め、私は大きく4つの工程に分けて考えたいです。

それは、「減速」「倒しこみ」「定常円旋回」「立ち上がり」です。色々な考え方はありますが、なぜこの4つかと言うと、ライダーの主操作がそれぞれ明確に異なるからです。もちろん、車両の運動状態で鑑みると、サーキット走行などでは時にクリッピングポイントまでを減速区間、クリッピング後の後半を加速区間と、2つに分ける見方もありますが、それは高度なテクニックにもなるので、ここではライダーの基本的な操作を主体として解説させてください。

【講義概要】
今回はついに、バイクの醍醐味である減速から立ち上がり加速に至るまでの過程を4段階に分割して解説してみます。各課程で行っている操作を細かく分けて観察することで、「ハンドリングが良い」「曲がりやすい」など、バイクごとに異なるコーナリング特性がなぜ生まれるのかを理解できるようになるはずですよ。

tips_1:減速

ある意味、最も緊張するのが減速=ブレーキングかもしれません。転倒のリスクを減らす意味も含めて、ここでは直線区間で曲がるための減速は完了していることにします。減速が完了してからバイクの倒しこみに移行するわけですが、サーキットでは減速しながら倒しこむこともあります。前述のように、これは高度なテクニックとも言え、減速が不十分だと車体を倒しこむことができなくなり、真っ直ぐ進んでしまうこともあるので、直線で減速を完了させることを心掛けるのが肝要です。

tips_2:倒しこみ

次に倒しこみ。つまり、バンク角度を調整する工程に移行します。ライダーがイメージしているライン上を通過できたり、適切なバンク角になる図の青いラインを走行できる車両を皆さんはどう評価しますか? 多くの方は「このバイクはハンドリングが良い」と言うのではないでしょうか。逆に赤のようなラインを辿る車両を「ハンドリングが悪い」と言いませんか? そう、この倒しこみの「しやすさ」こそが操縦性であり、ハンドリングなのです。

4限目でも解説しましたが、ライダーが最も複雑かつ繊細な操作をしている工程になります。プッシングステアした度合いに応じて素早くバイクが傾き始め、バイクの倒しこみが完了。そのバンク角を保つことができるととても気持ち良いですよね。それがハンドリングの秘密でありバイク操縦の醍醐味と言っても良いのではないでしょうか。

さらに、その倒しこみが小さな力でできた時、軽快なハンドリングとか、ヒラヒラと曲がってくれるなどと表現されているかと思います。それはプッシングステアが軽い力(少ない操舵トルク)で行えているのです。

まとめると「操縦性が良い」とは、正確な操作ができ、イメージした走行ラインに容易に乗せられ、さらに小さな力で操作できるということ。ハンドリングが良くて軽快感があるバイクと言えます。それは多くのライダーに好まれる、素敵なバイクであると言えるかも知れません。

tips_3:定常円旋回

バンク角が定まると次は旋回工程になります。定常円旋回という単語を聞いたことがあると思います。バンク角が一定で、スロットルもパーシャル(中間開度≒閉じ気味)で、速度が一定の時、バイクは基本的にきれいな円弧を描きます。そして、クルっと向きを変えてくれるバイクを旋回性が良いと表現します。例えば下図の赤のラインを辿ると、向きが変わらないとか、旋回性が悪いバイクということになります。

いかがでしょうか。操縦性、つまりハンドリングと旋回性、つまりコーナリング性の違いをご理解いただけますでしょうか。そしてこの旋回工程では、遠心力と釣り合わすためのハングオンなど、体重移動は実に効果的。バイクのバンク角が同じでも、体重移動によりクルっと旋回することができるので、体重移動はレースでは欠かせないテクニックです。もう少し深堀りすると、実はライダーが操作をすることで旋回性が悪くなっていることがよくあります。

定常円旋回中のバンク角が一定ということは、ライダーが余計なハンドル操作をしていないということです。ここで保舵トルク(ライダーがハンドルを保持している力)を変化させるような微少な操作をすると、バンク角が微妙に変化します。例えばコーナリング中にフラフラするなら、手に余計な力が入っている可能性があります。

また、カーブの終了が待ちきれず、スロットルを開け始めます。すると赤のラインになり、曲がり切れなくなることも。そう、旋回のコツはじっと我慢することなんです。我慢するとあら不思議、意外とバイクはクルっと向きを変えてくれます。

tips_4:立ち上がり

コーナーの仕上げは立ち上がりです。この工程ではスロットルを徐々に開けることで車速が増し、遠心力との釣り合いから自然とバイクが起き上がってきます。トラクションを感じながら無理な加速をしなければ、とても爽快な世界にバイクが導いてくれます。後輪が空転するような急激なスロット操作は厳禁です。ジワッとスムーズに操作させます。

加速せずにバイクを起こす場合は、追いプッシングステアになります。下図の場合は左にバンクしているので、右のグリップを押すか、もしくは左のグリップを引くことで、スロットルを開けなくてもバイクは起き上がってきます。

tips_5:重要なのはライダー操作

ということで、4つの工程ではライダーが操作することが大きく異なります。それぞれを正確に操作できるようになり、各工程にスムーズに移行できると、安全かつ快適で爽快なライディングが楽しめる事をお約束します。

減速時は前後ブレーキ操作に集中することで安全に減速しましょう。倒しこみはプッシングステアで曲がりたい側のグリップを押すことを意識してください。こんなにハンドリングが良かったのかと思うぐらい、バイクが曲がり始めます。ただし、ハンドルをダイナミックに切らないでくださいね。「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。そして、バンク角が定まるとカーブの出口が見えるまでじっと我慢。出口が見えれば少しずつ優しくスロットルを開けてください。

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