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気温の変化に合わせてエンジンオイルの粘度は変えるべきなのか?【もう一度、オイルについて考えてみる:Think with A.S.H.】

気温が下がれば油温も下がる。これから寒い季節に向かうにあたり気になるのはオイルの粘度。果たして、メーカー指定のオイル粘度は万能なのか?

PHOTO/Y.ARAKI,K.ASAKURA
TEXT/K.ASAKURA
ILLUSTRATION/H.TANAKA
取材協力/ジェイシーディプロダクツ 
http://www.jcd-products.com/

残暑という言葉が、実にリアルに感じられた今年の9月。だが、徐々にではあるが気温は下降を始め、時折秋の気配を感じるようになってきてはいる。そこで今回は、来るべき寒い季節でのエンジンオイルの取り扱いについて考えてみたい。まだまだ暑く感じる日は多く、ピンとこない人が大半かもしれないが、冬は考えている以上に早いスピードで訪れるものなのだから。

これまで、エンジンオイルは油温が上がるに従い粘度が落ちることを学んだ。逆もまた真であり、油温が低い時のエンジンオイルは粘度が高い。真冬の時期、日本の多くの地域で最高気温は10℃を下回る。果たして、気温40℃近くまで達する夏場と同じエンジンオイルを使用していてもいいものだろうか? 今月も高性能オイルブランドA .S .H .を展開する、ジェイシーディプロダクツ代表の岸野 修さんに聞いてみよう。

「バイクメーカーが指定した、マルチグレードのエンジンオイルを使用しているのなら基本的に問題はありません。ですが、ウインターグレードを下げることは有効でしょう。低温時の粘度が下がりますから、始動性向上などの効果が見込めます。エンジンが冷えている状態でも、オイルの回りが良いことが確認できています」

ウインターグレードとは、マルチグレードの粘度表記で低温時の粘度特性を表す値。例えば「10W-40」の「10W」がそれだ。Wの前の数字、ここでは「10」を「5」に落とした「5W-40」に変えると、その分低温時の粘度が下がるのだ。

「以前、気温が25℃を超えると、冷却性能との関係でエンジンオイルへの負荷が高まると言いましたが、気温が10℃を割るとやはりエンジンオイルには厳しい条件だと言えます。気温10℃以下で走るのならば、ウインターグレードを下げたオイルを使用することは面白いと思います。問題は起きませんし、低温時のレスポンスなどが向上しますから。気温が下がると空気密度が上がり、エンジンパワーが上がる条件が揃います。ある意味で、バイクを楽しめる時期なのかもしれません」

だが、注意すべき点もあるという。「温まったエンジンが冷えた時、クランクケース内が結露して、エンジンオイルに水分が混入します。少しなら、エンジンをかけた時の熱で蒸発するのですが、場合によっては加水分解をおこしてエンジンオイルが機能を失ってしまいます」

保管状態の悪いバイクで見られる、乳化現象が水分の混入によっておきる。ミルクコーヒーのように白く濁っていたり、クリーム状になったオイルは交換しないとエンジンを壊す。「冬場は乗らないという人は注意してください。エンジンオイルの質にもよりますが、通常は半年くらい放置してもエンジンオイルは劣化しません。ですが屋外保管の場合、昼間に日光でエンジンが温められ、夜間に冷えた時クランクケース内で結露が起きることがある。それを繰り返すと、水分が混入しエンジンオイルを劣化させる可能性があります」

長期保管時に注意すべきポイントは、それだけではない。「長期間エンジンをかけないと、エンジン内部のオイルが、重力でオイルパンに落ちてしまうことがあります。その状態での再始動が、いわゆるドライスタートで、十分な潤滑が出来ずにエンジンにダメージを与える可能性があります」

点火させずにセルでエンジンを回す、プラグホールからオイルを垂らすといった対処法を聞いたことのある人もいるだろうが、あまり効果は見込めないとのこと。コールドスタートを防ぐ一番の対策は、高性能なエンジンオイルを使用すること。あらゆる場面で、高性能なエンジンオイルはエンジンを守ってくれるのだ。

冬場のオイルの大敵は水分だ!

上のイラストは、エンジンオイルの温度変化とクランクケース内の結露をイメージしたもの。岸野さんが語っているように、走行中に温まったエンジンが、停止後に温度が下がると、クランクケース内に結露して水分が発生する。この水分の混入が、エンジンオイルを劣化させる理由の一つ。オイルの成分と水分が結合し、加水分解してしまうのだ。古くなった樹脂製品が、加水分解でボロボロになったところを見たことがあるだろう。あのような崩壊がオイルでもおきると考えれば、危険性が理解できるだろう。気温が高ければ、そうそう結露は起きない。やはり、結露する可能性が高いのは、気温が下がる冬場だ。多少の水分なら混入してもエンジン稼働時に蒸発するので問題はない。ただし、混入した水分が長期間に渡りエンジンオイル内に滞留すると、劣化の原因となる

長期間の放置からの再始動ではドライスタートの危険性に注意

エンジンオイルは、オイルポンプで圧送されることでエンジン内部を環流する。つまり、エンジンが停止している状態では、エンジンオイルの供給は止まり、やがて重力に引かれてオイルパンへと落ちていくことになる。エンジンオイルは、金属表面にへばりつく油性と呼ばれる特性を持つため、全てのエンジンオイルがすぐにオイルパンに落ちてしまうわけではない。だが、時間の経過と共に徐々に落ちていくのも事実。長期間エンジンを稼働させないとパーツから油分が失われ、再始動の時にエンジンを傷つける可能性が高い。この症状をドライスタートと呼ぶ。ドライスタートを防ぐ最も有効な対策は、金属への吸着性が高い、確かな性能を持ったエンジンオイルを使用することだ

左のイラストは、A.S.H.のエンジンオイルで使用しているエステル系ベースオイルの特性を表現したもの。エステル系ベースオイルは、電気的作用によって金属表面に強く吸着。ドライスタートを防ぐ

PAO+エステルレースを戦えるオイル

ベースオイルに厳選したポリアルファオレフィン(PAO)と、同じく厳選したエステルを使用した100%化学合成油。良好な低温温度特性と高い粘度を併せ持つベースオイルにより、耐熱性と油膜強度に秀でた、レース使用にも対応する高性能エンジンオイル。もちろんポリマー不使用で、性能低下しにくくロングライフ

A.S.H.製品に関する問い合わせ先

A.S.H.の製品について、もっと深く知りたい。A.S.H.製品はどこで買えるの? といった読者から声が増加中。そうした質問に回答してくれる、問い合わせ窓口のメールアドレスを紹介

● オイルや添加剤他、製品に関する問い合わせ
ジェイシーディプロダクツ 
info@jcd-products.com
● A.S.H.製品取り扱い店に関する問い合わせ
ジェイシーディジャパン 
info@jcd-japan.com

ジェイシーディプロダクツ代表
岸野 修さん

四輪チューニングメーカーで、エンジニアとして活躍。オイル開発を経験し、ジェイシーディプロダクツを創業。ブランド名の「A.S.H.」はフランス語で“高級”という意味を持つ「haute」の頭文字「h」の発音表記。バイク用のオイルを作るためにと、66歳にして普通二輪免許を取得したライダー

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