オイルの必要性を再考する|【オイルの基礎知識を深める<Think with A.S.H.>】
エンジンのダメージ軽減し、性能面でも重要な意味を持つエンジンオイルの“潤滑”機能。今回はエンジンにとって大敵である“摩擦”と絡めて、潤滑への理解を深めたい。
エンジンオイルの基礎摩擦と潤滑について考える
これまで、バイクに使用される様々な油脂類について深掘りしてきたこの企画。今回は原点に戻り、エンジンオイルの役割について、再び考えてみたい。講師はもちろん、高性能オイルブランド「A.S.H.」を展開するジェイシーディプロダクツで代表を務める岸野 修さんだ。
「エンジンオイルには、様々な役割があります。その一つが潤滑です。エンジン内の可動部品は、稼働中は常に擦れ合っていて摩擦が発生しています。摩擦が発生している部分では、触れ合っている部品の表面がどんどん壊れていきます。最終的にはエンジンが壊れてしまう」
エンジン内には数多くの回転する部分がある。例えばクランクシャフトやカムシャフト、ミッションなどは回転する部品の塊だ。その全てが軸受の構造を持っている。摩擦によって、その軸とのクリアランスが広がってしまったら? パワーは下がり振動が大きくなり、やがてエンジンそのものが壊れる。
シリンダーとピストンリングも擦れ合う部品の代表格。こちらも摩擦で摩耗が進むと、パワーダウンや未燃焼ガソリンのエンジンオイルへの混入といったトラブルの原因となる。摩擦をなるべく小さくすることは、あらゆる面でエンジンにとって大切。性能面でもコンディション維持でも、エンジンオイルの潤滑性能は非常に重要なのだ。
では、その潤滑性能のキーポイントとなる要素は何か?
「まず大切なのは、エンジンオイルの油性が高いことです」
以前にも登場している〝油性〞という言葉。これは、簡単にいえば金属にへばり付くような特性。油性の強いエンジンオイルは、金属部品の表面に強く吸着する。下の図を見て欲しい。これは、オイルと摩擦の関係性を表す、ストリーベック曲線と呼ばれるものだ。左側の境界潤滑領域という部分は、ドライスタートに当てはまる。油膜が切れて摩擦が大きい状態だ。だが、油性の高いエンジンオイルであれば、エンジンが停止して時間が経っても油膜を保持し、エンジンを守る。
「エンジンオイルの、粘度と油性は正比例します。油温が上がり粘度が下がると油性も下がり、油膜が切れやすくなる。その性能低下の指標となるのがエンジンの油圧です」
本企画の第7回、A.S.H.エンジンオイルの実走インプレッションを行った時のテスト車両には油圧計が装着されていた。走行中に油圧をモニタリングし、エンジンオイル性能をチェックすると同時に、エンジンのコンディションを確認するためのものでもある。メーターにオイル警告灯を装備するバイクがあるが、これは油圧の低下や油量の異常減少を警告するものが多い。オイル警告灯が点灯したら、即座にエンジンを停止し、点検・修理を行うべきだ。
「高回転・高負荷時には、油温が上昇し粘度と油性が下がります。ここで潤滑性を保つのが添加剤です」
ここでいう添加剤は、ベースオイルと混合されている、エンジンオイルの基本成分を指す。その添加剤の中で、油性向上剤と呼ばれる成分があり、どの成分をどれだけ配合するかで油温上昇時に油性を保持できるかが変わってくるのだ。
油性と粘度の維持が、潤滑性を保つ。ならば粘度の高い固いオイルであれば潤滑性に優れるかといえばそうともいえない。固過ぎるオイルは抵抗にもなるし、柔らか過ぎるオイルは油膜保持に不安がある。
やはり、エンジンオイル選びは難しい。その点、A.S.H.なら信頼できる。本誌読者であれば、岸野さんの知見の深さと広さ、エンジンオイルにかける情熱を知っているのだから。